ペットといえば、まっさきに思い浮かぶのは犬や猫。では、今年の干支・馬は、自宅でペットとして飼育することはできるのか。その場合、必要な土地の広さや建物はどのくらいになるのだろうか。馬の生育や販売などを手がける馬のプロフェッショナルに話を聞いてみた。
今回、馬をペットとして自宅で飼育できるのか、という疑問に答えてくれたのは、長野県佐久市にあるスエトシ牧場の藤原直樹さん。馬を生育、販売しているだけでなく、乗馬クラブや観光牧場などで馬とふれあう機会を提供している。現在、同牧場で年間に販売する馬は70頭程度。そのうちプロ(動物園など)に販売するのは3割程度、残りの7割は一般の人、つまり素人だという。つまり年間50頭程度の馬がペットとして飼育されているのだ。
「自宅で馬を飼っている人は、北海道から九州まで、全国にいらっしゃいますよ。もちろん、自宅で飼う人もいます。馬用のガレージをつくったり、ブロックで仕切りをつくったり、ご家庭によりさまざまです。さすがに大都会にお住まいだと自宅で飼育するのではなく、すでに設備の整っている乗馬クラブに預けて飼育してもらうケースが多いですね」という。
しかも驚きなのが、馬を購入する人の8割が女性だということ。馬といっしょに暮らすのが長年の夢だった、という人が多いのだとか。
「乗馬を趣味にされている人は圧倒的に女性が多いんです。なかにはご家族を説得して飼う、という人もいますよ。大半の方は、一度、牧場にいらして馬と対面して決断されていかれますが、ネットで写真を見てメールなどでやりとりして、購入する人も多いですよ」(藤原さん)
では、馬の飼育に必要な土地の広さは、いかほどになるのだろうか。
「馬の健康のためには、放牧できる土地は広ければ広いほどよいですね。ひと口に馬といっても、大型犬程度の大きさのミニチュアホース、ポニー、サラブレッドなどの乗用馬では、必要なスペースは異なります。ミニチュアホースでしたら、10㎡程度(車1台分がめやす)、ポニーだったら20㎡程度くらいあれば、放牧して飼育できるはず。加えて馬が休める馬小屋(畳1枚分くらい)も必要です」。さらに体の大きな乗用馬を飼育するのであれば、最低でも40㎡程度のスペースがないと難しくなってくる。ちなみに馬は暑さに弱い生き物なので、夏は馬小屋が暑くなりすぎないよう、工夫をしておく必要がある。
加えて、土地以上に欠かせないのが、散歩だという。馬にとっていちばんのよろこびは、広い土地を自由に走りまわること。そのため、ポニーでも乗用馬でも、1日に朝晩1回ずつ、1時間程度の散歩に連れ出して、引き綱をはずして、走らせてあげることが必要になるとか。こうして聞いてみると、自宅の土地以上に気軽に馬が散策、放牧できる環境でないと、なかなか馬は飼えないのかもしれない。
また、馬の飼育に欠かせないのは、実はご近所づきあいだとか。
「農耕馬がいた時代と違い、今、馬が家庭にいると、何かと目立ちます。鳴き声や臭いは、きちんとケアをしていれば気にならないはずですが、ご近所に理解が得られないとあの馬のせい…、なんてことを言われかねません。私どもでは、馬を飼育する前にはご近所にひと声かけてから、とおすすめしています」(藤原さん)と、意外なアドバイスも。
最後にペットとして馬を飼う魅力を教えてもらった。
「馬の魅力といえば、そのカンのよさではないでしょうか。単純に賢さだけでいえば、大型犬のほうが頭はいいと思います。ただ、馬は草食動物ということもあって、やっぱりとてもカンがするどい。馬に慣れている人かどうか、一瞬にして見抜く。姿かたちも美しいですが、そのカンのよさに惚れていますね」という。
考えてみれば、農耕馬としてはもちろん、運搬用、軍事用なども利用されてきた馬。人と相性がよいのは当たり前といえるのかもしれない。もし、土地と時間に余裕があるのであれば、いっしょに暮らすのも悪くないはずだ。