認知症予備軍といわれる軽度認知障害(MCI)は、判別テストの存在とともに大きな関心を集めている。現在、MCIの早期発見が叫ばれるのは、初期段階で予防に励めば、認知症発症を食い止めることができる、という研究結果が出てきているからだ。
昨年2月からこのテストを試験的に脳ドックに取り入れている山形県庄内余目病院・野末睦院長がいう。
「これまでに335人中39人がMCIと判定され、うち26人が専門外来に来ています。その後のMRI検査で認知症が明らかになった9人には投薬治療をし、そのほかの方には、別の疾患が影響している可能性もあるので、それらを治療しています。
米国での研究によれば、糖尿病はMCIから認知症に進行するリスクを3年以上先行させると報告されている。逆に言えば、糖尿病治療をすることで認知症の進行を遅らせることができる。米国ではMCI段階での治療が効果を上げているが、日本では疾患としてのMCIのガイドラインが認められていないため、この段階でのケアが遅れているのが現状です」
運動がMCIに効果的だという実験データもある。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の研究グループがMCIの高齢女性を対象に調査したところ、筋トレを行なったグループで認知機能の複数の項目に改善が認められたと、2012年に米医学誌で報告されている。
独立行政法人・国立長寿医療研究センターが、MCI向けに提唱している運動が、「コグニサイズ」だ。コグニサイズは運動と認知トレーニングを組み合わせたもので、足踏みやステップ運動(台に上ったり下りたりする)をしながら、「3」の倍数で手を叩くエクササイズが代表的だ。
日本認知症予防学会事務局長・常務理事を務める西野憲史・医療法人ふらて会理事長はいう。
「50歳を超えると脳の血流量が減り、大脳の働きが落ちる。それが認知症につながると考えられるため、MCIの段階で分かれば、対応策はあります。
運動しながら頭を使う、何かを創作するなどの知的活動。あるいは有酸素運動。1年続けると脳の容積が3%増えた報告があるため、ウォーキングや水泳などの有酸素運動も効果的。また他人とのコミュニケーションをとることでも、脳が刺激され血流が増えます」
※週刊ポスト2014年6月20日号