東京、大阪に続き、名古屋でも募集を行っている、UR都市機構の「DIY賃貸住宅」。入居者が間取りや壁紙などを自由に変更、工事でき、リフォームにともなう優遇措置も受けられるというシステムだ。日本ではまだ馴染みが薄いが、アメリカなどでは人気が高く、都市部を中心にこれから需要が増えると予想されている。名古屋でも若い夫婦や学生などで関心が高まっていると言う。名古屋第一号となる物件を見学してきたので紹介しよう。
高度成長期の昭和40~50年代。逼迫(ひっぱく)した都市の住宅事情に応えるため、なるべく多くの人が「平均的に使いやすい」間取りの賃貸団地が日本各地にできていった。そんな団地に今、空き部屋が目立ち始めているという。
UR都市機構中部支社の中尾さんは「若い人は昔ながらの水まわりや間取りに抵抗があり、古い団地を敬遠しがちです。一方子育て世代でもダイニングが狭い、古いイメージがあるなど、以前はよいとされていた間取りに不満を持つ方が増えています。しかし昔からある団地は、駅そばで周辺環境がいい、日当たりがいいなど、利点も多い。そこで、団地の利点を活かしつつ、個々のライフスタイルに合わせて部屋を自由に変えていただこう、というのが今、名古屋でも関心を高めつつあるDIY住宅なのです」と言う。
募集第一号となった鳴海団地に応募してきたのが、女性建築デザイナーの宮本久美子さん。ちょうど結婚が決まり、夫と2人の新生活を始める部屋を探していたところ、DIY住宅の募集を見つけて即応募したとのこと。
設計から始めて業者に入ってもらったり、塗装や家具製作などのできることは自分でしたりして、入居は11月から。「工事期間としてあらかじめ設定された最大3カ月の間、家賃の支払いが免除になったので助かりました。DIY工事の内容について図面をそろえるだけで、工事期間中の家賃の免除の申請もすぐ通りました。手続きが思ったより簡単、スムーズで驚きました」と宮本さん。
小上がりの足場板フローリングとコンクリート直塗装のコラボがスタイリッシュな、宮本さんのリビング。夫婦それぞれに1.5畳ほどの書斎を確保し、寝室もクイーンサイズのベッドがぎりぎり入る広さに抑えた。その分、壁を1枚取り払い、日当たりのいいベランダに面した部分が開放感のある気持ちのいいリビングに変身。
仕事のため最低限のプライベートスペースが欲しい2人の要望と、たくさんのお客様を招くというライフスタイルにぴったりの間取りだ。招かれた客も「これが賃貸?」と、みんなびっくりするそうだ。
またキッチンも自慢の一つ。新しいシステムキッチンのようにも見えるが、もともとのキッチンの収納ドアすべてを外して中の見える収納に。また、自分たちで茶系に統一した塗装をしてイメージチェンジ。あえて中を見せることで、コンクリート直塗装の部屋に調和したモダンな雰囲気になっている。
宮本さんは、「費用を抑える目的もあり、塗装や棚づくり、キッチンの改装などはなるべく自分たちで行いました。」と、自分たちでできること、プロに任せることをしっかり分けて、乗用車1台分ほどの費用で理想の住まいを手に入れた。住宅デザイナーとして、自分の設計したこの空間でコンテストに応募することも検討中だそう。
UR都市機構 中部支社のDIYでは、宮本さんの話にもあった工事期間(最長3カ月)の家賃免除のほか、退去時の現状回復の免除も受けられ、家賃はそのまま住むのと基本的に変わりがない。
UR都市機構の中尾さんは、「家族が増えたときなど、申請していただければ入居後のDIY工事も可能です。また、自分で好きな色に壁を塗ったり壁紙を貼ったりするだけでも、申請をいただければ原状回復責任がなくなるので、数万円の工賃で手軽にDIYを楽しみたい方にもオススメですよ」と、さまざまな活用シーンを想定している。