マネーと制度
やまくみさん正方形
山本 久美子
2013年2月25日 (月)

相続税増税で、影響を受ける相続時精算課税制度のリスクとは?

相続税についてきちんと理解しておこう(写真: Creatas Images / thinkstock)
Photo: Creatas Images / thinkstock

2013年度の税制改正大綱で、相続税の増税案が盛り込まれたことが注目されている。基礎控除が縮小される案が成立すると、気になるのが「相続時精算課税制度」の利用の是非について。住宅を購入する際に、親からまとまった額の援助を受ける人は要注意。制度のメリット・デメリットについて整理しながら考えていこう。

■2013年度の税制改正大綱で相続税の増税案が盛り込まれた

政府の2013年度税制改正大綱に盛り込まれた、相続税の改正案について説明しよう。相続をする際には、遺産のうちの一定額は課税対象にしないことになっている。これを「基礎控除」といって、現行であれば定額控除として5000万円、これに法定相続人の数に応じて1000万円×人数が加わる。

例えば、父親が亡くなって、母親と子ども1人が相続する場合は、5000万円+1000万円×2=7000万円が控除される。したがって、相続の課税価格が7000万円以下であれば、相続税はかからないことになる。

2015年以降は、この基礎控除のうち定額控除を5000万円→3000万円、法定相続人の人数に応じる比例控除を1000万円→600万円に引き下げるという改正案が出されている。先と同じ条件であれば、基礎控除額は4200万円まで引き下げられるので、これを超える課税価格であれば相続税を納める必要が出てくるわけだ。
さらに、富裕層の課税強化という観点から、法定相続分に基づく取得金額が2億円を超える場合の相続税の税率が、現行よりも上がる改正案も盛り込まれている。

一方で、事業用や居住用の宅地等については、限度面積までは相続税の課税価格の計算上で一定割合を減額できる特例(小規模宅地等の特例)があるが、居住用の場合は80%減額される現行の240㎡の限度面積を330㎡まで拡充するなどの緩和策も出されている。

■相続税の改正で影響を受ける「相続時精算課税制度」とは?

さて、「相続時精算課税制度」とは、親など高齢者の資産を若い世代に早期に移転することが目的の制度で、2003年に設けられた。65歳以上の親から20歳以上の子や推定相続人である孫への贈与については、2500万円までは非課税になる。

ただし、贈与した親が亡くなったときには、遺産に贈与分を加えて相続税を計算することになる。これには、贈与する親の年齢制限がなくなるという「住宅取得等資金の贈与の特例」があり、住宅購入適齢期の層が利用しやすいものになっている。

この制度のメリットは、親からの贈与について2500万円までは非課税、それを超える分については20%の税率で済むという節税効果にあるが、デメリットとして「相続税が増税されるリスク」により、相続税が課税される可能性がある。また、この制度を選択(ただし父、母でそれぞれで選択できる)した場合、取り消すことはできず、贈与税の基礎控除(年間110万円)も使えないというデメリットもある。

なお、2013年度税制改正大綱では、2015年以降の適用要件に、贈与を受ける孫(推定相続人以外)を追加し、贈与をする親などの年齢を60歳以上に引き下げるといった改正案も出されている。

■親から援助を受けて住宅を購入する場合に「相続時精算課税制度」は利用すべきか?

これまでは、相続税が課税されるケースが4%台しかなかったので、この制度を使って多額の贈与をしても、富裕層でなければ相続税の課税対象となる可能性が低かった。つまり、贈与税の非課税のメリットだけを享受できるとして、住宅取得時に親から多額の贈与を受ける場合にこの制度を利用する場合もあった。

しかし、相続税の基礎控除が引き下げられた場合、相続税を課税されるケースが倍増すると言われている。特に、東京23区内の自宅を相続する場合などでは、課税される可能性が高まると指摘されている。相続税が課税されないと考えてこの制度を利用した場合、相続税が課税されるリスクが生じる上、取り消すことができないといった事態が生じる。

実際には相続税の計算式が複雑なので、各家庭の事情によって異なるが、相続時精算課税制度を利用することは慎重に考えたほうがよいだろう。2014年までは「直系尊属からの住宅取得資金等の贈与税の非課税制度」も利用できる。これは、住宅取得資金などで親や祖父母から贈与を受ける場合は、2013年は700万円、2014年は500万円(ただし、所定の省エネ住宅・耐震住宅の場合は500万円上乗せされる)が非課税となる。相続時精算課税制度のようなデメリットがないので、使い勝手もよい。この制度を優先して利用するほうが有利となる可能性が高い。

例えば、かなり単純に試算した以下の場合であれば、相続時精算課税制度を利用した場合の子どもの負担額は385万円であるのに対し、贈与の非課税制度を利用して、それを超える分は贈与税を支払った場合の子どもの負担は363万円となった。もちろん、実際にはもっと複雑な計算となるうえ、物価の変動等の影響も受けるので一概には言えないが、贈与税の有無だけで判断するべきではないことが分かる。

●単純に贈与税と相続税を試算した場合
【前提】父親の財産が1億円、生前に1000万円を子どもに贈与(その分は財産が減ると想定)し、贈与から3年を超えてから、母親と子ども1人が法定相続分通りに相続した場合の子どもの負担額

・相続時精算課税制度を利用すると…
生前贈与時の贈与税:0円
相続時の相続税:(遺産額9000万円+贈与額1000万円-基礎控除4200万円)÷2(子どもの相続分)×税率=385万円

・直系尊属からの住宅取得資金等の贈与税の非課税制度(最低額500万円の場合)を利用すると…
生前贈与時の贈与税: 500万円分+基礎控除110万円は非課税、贈与税は53万円
相続時の相続税:(遺産額9000万円-基礎控除4200万円)÷2(子どもの相続分)×税率=310万円

2013年度の税制改正大綱では、贈与税の改正案(2015年から適用)も盛り込まれている。親や祖父母からの300万円を超える贈与については税率を引き下げるが、それ以外で3000万円を超える贈与については税率を引き上げる改正案となっている。こうした税制改正の動向に注意し、住宅取得時に親から多額の贈与を受ける場合は、税理士などの専門家に相談することをお勧めしたい。

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