「時をかける少女」「サマーウォーズ」などのアニメーション作品で知られる細田守監督が、脚本・原作を手掛けた「おおかみこどもの雨と雪」(2012年公開)。文化庁メディア芸術祭優秀賞や日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞などを受賞し、オリジナルアニメ映画としては異例の興行収入42.2億円を記録した大ヒット作である。この春、この映画に登場する古民家をモデルにした公営住宅が、細田監督の出身地でもある富山県の上市町に建設されたという。いったいどんな住宅なのか? 3月28日に行われた内見会に参加してみた。
アニメ映画「おおかみこどもの雨と雪」のストーリーは次の通り。おおかみと人間、ふたつの顔を持つ「おおかみおとこ」と都会の大学で出会い恋に落ちた「花」。ともに暮らすようになった二人はやがて子どもを授かる。姉を「雪」、弟を「雨」と名付け、一家4人で幸せな暮らしを送っていた矢先のこと、突然「おおかみおとこ」が死んでしまう。「花」は子どもたちをひとりで育てるべく、おおかみの血をひく子どもたちが将来「おおかみ」か「人間」か自由に選べるように、都会を離れて田舎で生活をする―――
普遍的な親子の関係性や子どもの成長する姿を、最新技術を駆使した美しいアニメーションで描いた同作。作中に登場する、花たち3人家族が田舎に移り住んでから暮らす家は、いまも現存する古民家をモデルにしたもの。富山県では古くからある風土に適した木造の建築様式で、先人の知恵が盛り込まれたものだ。
この伝統的な住居の魅力を現代的な住まいに取り入れたのが、「白萩西部公営住宅」。上市町役場の金盛敬司さんを中心に、コンセプトが固められていったという。
「私が子どものころから何気なく目にしてきた、二段屋根の開放的なつくりの古民家を改めて見つめ直すと、デザイン的にも美しいものであるということに気づかされました。富山の自然とも調和する古民家のテイストを活かして、環境になじむ綺麗な住宅をつくりたいと思ったんです。外装は木や漆喰の色調と雰囲気をイメージし、周囲の景観に馴染むよう瓦屋根で昔の長屋を想わせるつくりにしました。同時に現代的な生活スタイルにも合うように、電気代の節約にうれしいエコキュートを採用。バリアフリーにも配慮しています」(金盛さん)
現在、2LDKと2DKの2タイプで入居を県内外から募集しており、3月28日に16戸が完成。今後は48戸まで増やしていく予定だ(※公営住宅のため所得制限などの入居資格あり)。
では、住宅の全貌を紹介していこう。
現在も、入居の募集をかけているそうだが、すでに決まっている入居者の多くは20代から30代前半。千葉県や神奈川県など、遠方からの問い合わせもあるという。
「最終的にここは全48戸の住宅街となります。子どもを抱える家庭が多く住むことが予想されるため、自分の子育て経験を通して感じた『こんな仕様があったらいいな』という理想も住宅の各所に反映させています。例えばファミリー向けの物件は全てメゾネットタイプの2階建てにして、一家がのびのびと暮らせるよう配慮しています。上下階に別の世帯が住むとどうしても生活音が気になってしまうため、戸建て感覚で住めるようにこだわりました。また、これから整備を予定している散策路は、子どもやベビーカーの親子も安心して歩くことができるようにする予定です」(金盛さん)
さらに、今後は世帯間の交流にも力を入れていくとのこと。1年半後には、住人同士のコミュニティスペースとして、木の素材感を感じる集会場などもつくる予定だ。
「コミュニティの形成につながるように、遊歩道や集会所はオープンな空間にしたいと考えています。バーベキューをしたり、待ち合わせ場所にするといったかたちで、入居者の方に自由に使ってもらいたいですね。あとは、住宅に入居する人たちの町内会をつくってもらうことが決まっています。『おおかみこどもの雨と雪』にも共通する部分ですが、母子家庭を含め子育て世代にはとくに横のつながりが大切だと思っていますので、コミュニティが上手く機能するようにサポートしていきたいです」(金盛さん)
広い敷地と豊かな自然に囲まれた「白萩西部公営住宅」。近くには全国から人が汲みにくるという名水も湧き出る。こんな風光明媚な場所でなら、子どもものびのびと育てられそう。ちなみに細田監督と金盛さんは、中学校の同級生同士なのだとか。不思議な縁を感じます。