国産ウイスキーの誕生を支えた竹鶴政孝と妻リタが暮らしていた北海道余市町にある、ニッカウヰスキー北海道工場余市蒸溜所を見学してきた。竹鶴夫妻は、2014年9月29日からスタートする連続テレビ小説「マッサン」のモデルにもなっている。今回は、その竹鶴夫妻が暮らした旧竹鶴邸を中心に紹介する。なお、旧竹鶴邸の一般公開は外観と玄関ホールのみ。今回は特別に内部の撮影の許可をいただいている。
広島の造り酒屋に生まれた竹鶴政孝は、醸造を学ぶうちに洋酒に興味を持ち、本格ウイスキーづくりを習得するため単身スコットランドへ留学。しかし、文化も言葉も違う異国の地では、研修を受け入れてくれる蒸溜所が見つからないなど、思うように勉強がすすまなかった。そんな苦労の連続だったときに出会ったのがジェシー・ロベルタ・カウン(愛称リタ)だ。恋に落ちたふたりは、1920年、リタの家族の猛反対を押し切って結婚。同年、リタは政孝の夢をふたりで叶えるために日本へと海を渡ったのだ。
政孝が勤めていた寿屋(現在のサントリー)を退社し、さらに自分の理想とするウイスキーをつくるため、北海道の余市に蒸溜所を建設したのは1934年。翌年には妻のリタを呼び寄せ、今も残る旧竹鶴邸での暮らしが始まった。
旧竹鶴邸は、外観は洋風だが、庭の灯籠や和室など和の要素を取り入れた和洋折衷の家。政孝が、自分がスコットランドでの2年半に感じたようなさびしさや苦労をリタには味わわせまいと、入口の門をリタの生家そっくりにつくらせるなどの配慮をしている。また、リタも日本人以上に日本人になりきろうと、日本語や料理の習得に力を注いでいた。妻を思いやる夫、夫を支える妻、そんなふたりの愛情のカタチが旧竹鶴邸には残されている。
ウイスキーの味わいには、その土地の自然や風土が大きく影響する。政孝が北海道・余市を創業の地に選んだのは、スコットランドに似た冷涼な気候と、きれいな水や空気に恵まれた場所だから。政孝は自然への感謝を込めて、環境や景観に配慮した蒸溜所を建設した。そのため、製造工程に沿って敷地内の見学コースを歩くと、緑の芝生や樹木の中に、バランスよく配置された建物の美しさを感じることができる。
見学時には、旧竹鶴邸のほか、外壁に札幌軟石を使った正門やキルン塔、第一貯蔵庫などの歴史的建造物もぜひ見てほしい。これらは国の登録有形文化財に認定されている。
工場内には、ほかにウイスキー博物館や試飲会場などがある。また、蒸溜棟では世界でも稀な石炭の直火による蒸溜の様子を見ることもできる(時期によっては行われていない)。
連続テレビ小説「マッサン」は、実在の人物、竹鶴政孝と妻リタをモデルにしているが、フィクションとしてマッサンこと亀山政春と妻エリーという夫婦のオリジナル物語だ。北海道の余市町に出かけたら、工場見学をするとよりドラマが楽しめそうだ。