「ダ・ヴィンチ」の「アニメライター募集」について、少し提案です | 作家・土居豊の批評 その他の文章

「ダ・ヴィンチ」の「アニメライター募集」について、少し提案です

「ダ・ヴィンチ」の「アニメライター募集」について、少し提案です

雑誌「ダ・ヴィンチ」で、「アニメライター募集」の告知がでています。一読し、かつてのフリーライター時代の感覚を思い出しました。
そこで、ライター経験者の目線で、これについて、少し提案したいと思います。
そもそも、最初は、「お!これ、応募しようかな」と思ったのです。そこで、詳細をみてみると、まず「関東近県」在住ということで、関西在住の自分はまず無理でした。
このライター募集の案件について、元・ゴーストライターでもある自分なりに、少し注文をつけてみようと思います。

※参考記事

http://ddnavi.com/news/184743/

「ダ・ヴィンチニュース」アニメライター募集
当連載「アニメ部」では、アニメや声優、オタクカルチャーに関するライティングをしてくださるフリーライターを常に募集しています。
【条件】
・関東近県にお住まいの方。(都内まで1時間以内に来れる方)
・定職や定期的なスケジュールのない方。(時間が自由な方)
・アニメやサブカルチャー媒体の執筆経験のある方。(未経験者相談)
【求めるスキル】
・情報収集能力(ネットの流行、トレンドに敏感で好奇心が旺盛)
・企画立案能力(受け仕事だけでなく、自ら能動的に動ける)
・毎クールほとんどのアニメを視聴している(好き嫌いしない)
・物怖じせずに取材やインタビューが出来る。
・最低限のコミュニケーションが取れる。
・一眼レフのカメラを持っており、それなりに撮影経験がある。
・Photoshopなどを使って、画像編集(リサイズ)の経験がある。
・アニソン、声優、秋葉原事情、グッズなど人には負けない知識がある。
・すぐにレスポンスができる(ほうれんそうを後回しにしない)
◎社会常識を持ち合わせている。約束を守る。納期を守る。
【報酬】
記事1本につき、規程の報酬をお支払いいたします。
経費全額負担(承認制)、取材手当、企画手当あり。
(以下略)



さて、
まず、
募集内容ですが、
「アニメや声優、オタクカルチャーに関するライティングをしてくださるフリーライター」
とのことです。
この内容でしたら、自分にも応募資格がありそうな気がします。
1)アニメ、声優に関するライティング
なら、自分にも経験があります。
2)オタクカルチャーに関するライティング
については、「オタクカルチャー」の範囲がどの程度なのかわかりませんが、ある程度まではカバーできます。
3)フリーライター
ということなら、自分もフリーライターです。
というわけで、
私も募集内容に一応、合致するわけです。
ところが、
(条件)に入ると、たちまち困ることになります。

1)関東近県にお住まいの方。(都内まで1時間以内に来れる方)
これで私はアウトです。
また、この案件のためだけに、関東に引っ越すというわけにもいかないのです。

2)定職や定期的なスケジュールのない方。(時間が自由な方)
これは、「定職のない」は合致しますが、「定期的なスケジュールのない」というのは、ちょっと首を傾げます。
なぜなら、いくらフリーライターでも、たいてい、それで食っている人なら、「定期的なスケジュール」はあると思うからです。そのぐらいでないと、とてもフリーランスで食っていけないでしょうから。

3)アニメやサブカルチャー媒体の執筆経験のある方。(未経験者相談)
そして、この条件も、一応大丈夫です。

次に、
(求めるスキル)
ですが、
ここにきて、ハードルがぐんと上がります。

1)情報収集能力(ネットの流行、トレンドに敏感で好奇心が旺盛)
これは、まあ、ライターをやろうというぐらいな方なら、だいたい、持っているでしょう。

2)企画立案能力(受け仕事だけでなく、自ら能動的に動ける)
立案も、フリーランスであれば、やるでしょう。

3)毎クールほとんどのアニメを視聴している(好き嫌いしない)
問題は、これです。
昨今、放映される全アニメを欠かさず視聴するのは、生半可な努力では出来ません。なにより、普通に仕事しようと思えば、毎日毎日深夜アニメばかり観てはいられないからです。
そこで、やむを得ず、毎クールごとに、第1、2話ぐらいをみて、そのまま観続けるか、切るか、作品を選ぶことになる場合が多いでしょう。
あとは、ネット配信のある作品なら、それでフォローするか、あとでバンダイチャンネルなどで後追いするか、だろうと思います。
もちろん、全アニメを観ている方も、いるだろうとは思います。しかし、普通の昼間の仕事と、アニメ全視聴を両立させるのは、並大抵ではありません。
ここで、この案件の条件は、ハードルがすごく高くなるわけです。

4)物怖じせずに取材やインタビューが出来る。
5)最低限のコミュニケーションが取れる。
これらの条件は、ちゃんと仕事のできるライターなら誰でも出来ることだと思います。これができなければ、昨今、ライター業はなかなか食っていけないでしょう。昔なら、取材抜きで、ゴーストライティングだけで食っていくことも、可能だったでしょう。近年、ライターの原稿料がひたすらデフレ状態なので、取材仕事を断っていては、なかなか収入の確保は難しいと思います。

6)一眼レフのカメラを持っており、それなりに撮影経験がある。
これでまた、ハードルが高くなります。「それなりに撮影経験」とは、どのレベルまでの仕事をいうのでしょうか?

7)Photoshopなどを使って、画像編集(リサイズ)の経験がある。
これでまた、ハードルが高くなります。

8)アニソン、声優、秋葉原事情、グッズなど人には負けない知識がある。
「人には負けない」というのが、どのレベルなのか、不明です。

9)すぐにレスポンスができる(ほうれんそうを後回しにしない)
これは、上記5)の条件と重複すると思います。

そして、
とどめのように、

◎社会常識を持ち合わせている。約束を守る。納期を守る。

という念押しがあります。
そもそも、これはスキルでしょうか? 条件でしょうか? こういうことは、念押しするまでもなく、面接で判断すべきことだと思います。なぜなら、応募者が、自分は「社会常識を持ち合わせている」か?どうか?自覚しているかどうか、だからです。この自覚がないぐらいなら、社会常識もないでしょう。

さて、最も大切な条件が、最後の方に書いてあります。
【報酬】です。

1)記事1本につき、規程の報酬をお支払いいたします。
これでは、ちょっとわかりません。規程の報酬、がいくらなのか、わからないままでは、応募するかどうか、二の足をふむでしょう。
なぜなら、報酬が記事1本あたり、だからです。
記事1本に、どのくらいの取材、資料が必要で、どのくらいのページ数の案件なのか、わからないままでは、この案件でどの程度の収入が見込めるか、どの程度の仕事量が必要になるか、がわからないからです。
もし応募者がフリーライターで、その仕事で食っているとすると、まさかこの案件一つだけに仕事を絞ることは、とてもできないでしょう。
とすれば、この案件と、他の仕事が両立可能でなければ、最初から続かないので、応募しても無駄になるでしょう。

2)経費全額負担(承認制)、取材手当、企画手当あり。
この条件は、妥当だと思います。



以上のように、この案件募集条件は、どういう人を想定して書かれているのか、ちょっと不明な点があります。
この条件に合致するほどのスキルのライターなら、この案件をこなしながらも他の仕事もクリアできるかもしれません。ただ、問題は、
2)定職や定期的なスケジュールのない方。(時間が自由な方)
という条件が、そういう腕利きのライターさんには合致しにくいでしょう。
つまり、腕のいいライターさんなら、定職を持っていたり、案件をいくつも抱えているものだからです。
もし、この案件が、
「定職や定期的なスケジュールのない方」を求めているなら、
おそらくは、求められるスキルはいささか高すぎるのではないか?と思うのです。

さて、そこで、提案ですが、
この案件は、
次の二つの募集に分ければいいのではないか?
と考えます。
その1:「放映される全アニメの視聴と内容レポート、感想を書くモニターさん」の募集(薄謝あり)
その2:アニメ関係者、声優、サブカル関係者への取材ライター募集(経験者)

つまり、想定される雑誌記事の内容にもよりますが、
全アニメの内容把握そのものは、ライター自身が全てやる必要はないのではないか? と考えられます。その部分は、資料提供者の募集として、ボランティアのモニターを募集すれば、けっこう集まるのではないか? とおもうのです。
一方、取材&ライティングは、プロのライターでなければ出来ない仕事なので、そこは専門のフリーライターを募集する必要があるでしょう。
つまり、
この案件で求められている要件を、大きく二つに分けて、
1.放映アニメの視聴、まとめ、という資料収集(ボランティア)
2.取材&ライティング(専門職)
ということにすれば、
一方では、熱心なアニメファンのモニターさんから、資料が集まるし、記事そのものは、取材とライティングにはスキルの高いライターを確保できる、というわけで、案件がうまく成立するのではないか、と考えるのです。
いかがでしょう?

※このアイディア、採用してくださるようでしたら、企画料は不要です。薄謝をいただければ幸いです。