猫カフェ、ギャルカフェ、メイドカフェ。変わり種カフェにもいろいろあるが、皆さんは“医療カフェ”の存在を知っているだろうか。日々、高齢者が集って談笑したうえで、健康に関する相談もできるというのだ。常連は50代〜90代(!)。さっそく行ってみた。
埼玉県幸手(さって)市。東京都心からの距離は約50kmで、人口は約5万3000人。春には中川の堤を桜並木と菜の花畑が彩る、のどかな街だ。
東武日光線・杉戸高野台駅から徒歩15分の場所にあるのが幸手団地。住人の約3割が65歳以上の高齢者で、少子高齢化が深刻化している。
その敷地内に「元気スタンド・ぷリズム」がある。別名、コミュニケーション喫茶。「NPO元気スタンド」の小泉圭司代表(46歳)が2007年にオープンさせた“医療カフェ”だ。
「前職は、スーパーの管理職。当時、店内を巡回していると、決まって同じお婆ちゃんが同じ場所に座ってるんですよ。事情を聞いてみると、『行く場所がない』と。それを聞いて、高齢者が安心して過ごせるカフェを作りたいと思ったのが、きっかけですね」
小泉さんは、「居高齢者の場所となり、介護予防も促す店にしよう」と決めた。
「とはいえ、何歳になってもみんな年寄り扱いされたくないんですよ。だから、一方的に何かを押し付けるのではなく、ウチに来てもらうことによって情報やサービスを得られる形にしようと」
「毎日来てくださる方も多いですね。ダンナを置いて一人で通う奥さんもいたりして(笑)」
ふつうのカフェは客同士の距離を保って座る。しかし、ここは混んでいるスペースほどさらに人が集まるんだとか。まさに、コミュニケーション喫茶だ。
そして、“医療カフェ”たるゆえんは、団地の隣にある東埼玉総合病院の看護師が店内で定期的に行う「暮らしの保健室」。ここで、高齢者の健康に関する相談に乗る。もちろん、相談料はかからない。
高齢者が増え続ける状況を見て、まず行ったのが全戸を訪問するという試み。「最後は人対人なんですよ」と中野さんは言う。
小泉さん自身には、医療の専門的な知識はない。しかし、客との会話の中で「何かおかしい」と感じると、すぐに病院につなぐ。この連係プレーによって、病気の早期発見につながった人もいるそうだ。
また、店内では各種イベントも定期的に行われる。
2012年8月から始めたのが「暮らしの保健室」。毎月第二木曜日に健康相談のほか、「熱中症予防には」「のどに餅が詰まったら」など、様々なテーマで看護師などによる健康や病気に関するアドバイスを聞ける。
また、毎月第三火曜日の「歌声喫茶」も人気イベントだ。こちらは、生演奏で盛り上がって歌えるとともに、曲のリクエストにも応じてくれるという。
店の外にはレンタルセニアカーもあった。
「杖を突いている人は遠出が難しいんですが、これがあると行動範囲はかなり広がります。なかなか帰ってこないなと思ったら、一人でカラオケに行ってた人もいましたね(笑)」
「次の展開を常に考えています」と小泉さんは言う。実際に取材してみて、少子高齢化にともなう地域医療の課題がたくさん見えてきた。しかし、環境さえ整えば高齢者は予想以上にアクティブになるということもわかった。
そして、何よりも意外だったのが、皆さん本当に楽しそうで一向に帰る気配がないこと。若者が訪れても、世代間交流の貴重な場になるのではないかと思う。