超高齢社会に突入しようとしている日本のシニアライフはどう変わっていくのだろうか。日本人にとって理想の「終の棲家」とは? その答えを導くヒントを求めアメリカCCRCを視察した、事業者・大学・メディアなど国内各分野で活動している人々が、それぞれの立場でこれからの「終の棲家」について議論する座談会が開催された。
今回の座談会テーマは「高齢者が自分の意思で終の棲家を選ぶ、日本における道筋を考える」というもの。まずはこのテーマを議論する前に、アメリカCCRC視察の振り返りが行われた。
それ
CCRC(Continuing Care Retirement Community)とはリタイア後まだ元気なうちに入居し、介護が必要になっても移転することなく同じ敷地で、人生の最期までを豊かに暮らすための高齢者生活共同体のこと。自ら選んだ家具やインテリアでつくられた住宅、生活に必要な商業施設、ボーリング場やゴルフ場などの娯楽施設、生涯学習を叶える施設が備えられているもののほか、要介護状態にさせないための予防医療、健康指導、さらに要介護や認知症になったときのヘルスケアサポートなど、多面的に整えられていることが特徴である。
「キーワードは『エンゲージメント(愛着)』。どれだけ早い段階から住民間の結束を生み出し、『ここで暮らしたい』『この人たちと暮らしたい』と思えるコミュニティをつくり出せるかがポイント」だとCCRCの施設事業者は言う。
1970年ごろから急増したCCRCは、現在全米に2000カ所ほど存在し約60万人が生活している。シニアライフを豊かに送るための設備がそろい、住民同士の交流も盛んに行われている理想的な高齢者施設ではあるが、一方で入居費用などの投資額が非常に大きいため、米国の高齢者のうち3%しか入居していないという事実があることも否めない。ただし、そこには日本のシニアの住まいを考えるうえでのヒントが溢れている。
日本版CCRCを実現するために、まずは日本とアメリカの違いをおさえておきたい。
「両者の最も大きな違いは、アメリカには医療保険・介護保険制度がないということだろう。保証されているものがないからこそ、老後も自分自身でなんとかしなければならないという自己責任が強く、リタイア後の住まいについても事前に選択しているのかもしれない」と話すのは北海道札幌を拠点とした介護サービスを展開するMOEホールディングスの水戸氏。
他にも座談会では、アメリカのように1カ所に施設をつくれるほどの広大な土地が日本にはないということや、日本は地縁・血縁をとても大事にしている文化であるため、リタイア後にそれまで慣れ親しんだ土地を離れ、新しい場所で暮らしていくという考えがまだまだ浸透していないということも懸念点として挙げられた。
一方で、アメリカCCRCの考えを取り入れたい点も。
「アメリカのCCRCは、単に1つの居住施設だけで成り立っているものではなかった。いわゆる高齢者施設の延長線上にあるものではなく、街づくりや多世代交流の仕組みの先にあるものだと感じた。高齢者のためだけではなく、働く世代、子どもたちの世代にとってもメリットのある街づくりという視点が重要。多世代にとって魅力的でなければ、その街・地域に幅広い人が集うこともなく、世代間交流も生まれない」(NTT都市開発/宗氏)
なるほど、高齢者の視点だけではなく地域や多世代の交流から生まれる新しい価値が日本版CCRCの姿なのかもしれない。
日本の現状として、自分の「終の棲家」を前もって選んでおくという考え方はまだ浸透しておらず、「自身の最期のために備えておこう」という意識も高くはないかもしれない。それは自分のリタイア後の姿を想像することが難しいからではないだろうか。
しかしリタイアしてからでは遅いのだ。そこでまずは、一人ひとりが「こんなふうに老後を楽しみたい」、「定年後はこんな暮らしをしてみたい」というそれぞれの理想のストーリーや夢を描くことが、これまでになかった豊かなシニアライフを生み出す第一歩となるのかもしれない。自分にとっての理想の「終の棲家」とは……改めてじっくり考えたいテーマである。