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嘉屋 恭子
2016年1月15日 (金)

賃貸の部屋探し、「定期借家契約」の知られざるメリットとは

賃貸の部屋探し、「定期借家契約」の知られざるメリットとは
写真:PIXTA
賃貸物件を探していて「定期借家契約」という言葉を目にしたことがある人はいるだろうか。2000年に制定された「定期借家契約制度」だが、物件契約のうち3%程度しか利用されておらず、知らない人も多いだろう。また聞いたことがあっても「期間限定だから、家賃が安いんでしょ?」というイメージを持っている人もいるかもしれない。しかし、「期間が終了しても再契約する」ことを前提とした定期借家契約もあるようだ。今回は知られざる「定期借家契約」のメリットについて迫っていこう。

海外生活を経た大家さんからすると「普通借家契約」は矛盾だらけ

2000年に施行された「定期借家契約」。以前、記事でも紹介したが、その後も普及しているとは言いがたい状況だ。一方で、「定期借家契約」を積極的に導入し、満室状態を維持している敏腕大家がいる。「賃貸の新しい夜明け」などの著作も上梓している林浩一さんだ。そもそも、定期借家契約とは、どのような契約なのだろうか。

【画像1】定期借家契約を積極的に導入し、満室を続けている林さん(左)。大家業の第1号となった物件(右)(撮影:SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】定期借家契約を積極的に導入し、満室を続けている林さん(左)。大家業の第1号となった物件(右)(撮影:SUUMOジャーナル編集部)

「定期借家契約といっても、特別なものではなく、契約期間を定めた賃貸契約のこと。ただ、契約期間満了後も、普通に暮らしている人であれば、スムーズに再契約できます。私が所有している物件では2年契約が一般的で、更新料も発生しません」と林さん。

実は日本の普通借家契約は、貸主(大家)から契約の更新拒絶や解約の申し入れができないこととされていて、入居者に過失(ゴミ捨てや生活音などのルールを守らないなど)があっても、なかなか退去させることはできず、場合によっては立ち退き料を払う必要がある。

以前は旅行業に従事し、海外での生活を経験した林さんからすると、「契約社会が徹底した海外では、この定期借家契約が当たり前。日本の普通借家契約に違和感しかありませんでした」という。

通常、大家および不動産管理会社のつとめの1つに、入居者の良好な環境を維持することがあるが、現在の普通借家契約では、契約上の効力がないため、集団生活でルールを守れない人が居座り続け、本来、残ってほしい人が引越してしまうという事態が起きることもあるという。

しかしこの定期借家契約であれば、問題を起こした人とは契約満了時に契約を終了し、再契約をしないことができ、「期間が満了したので退去してください」といえるようになった。結果的に居住者にとって良好な住環境が維持できる。これが定期借家契約の知られざるメリットだ。

林さんは大家業をはじめるにあたり、不動産契約についても勉強し、ごく当たり前の感覚として「定期借家契約を導入したい」と考えていた。しかし、思わぬところで壁が立ちはだかった。それが不動産業界の考え方だった。

【図1】普通借家契約と定期借家契約の主な違い。取材をもとに筆者作成

【図1】普通借家契約と定期借家契約の主な違い。取材をもとに筆者作成

200枚の自作チラシを持って、自転車で不動産会社を行脚!その理由とは

「今から5年ほど前ですが、私が大家業をはじめる一歩として、駅からバス便ですが住宅街の一角に、賃貸物件を建てたんです。そこで定期借家契約で募集したいと希望していたのですが、不動産会社のみなさんにそろって反対されました」(林さん)。当初は不動産について勉強はしていたものの、「自分はあくまでも素人。プロの不動産会社さんにここまで反対されるとは……」と不安を隠せなかったという。

それでも、「普通借家契約では、普通に暮らしている入居者にとって、良好な住環境を守ることができない」と考え、自身で手づくりした物件チラシ(定期借家契約についても説明付き、しかもラミネート加工!)を自転車に積んで、近隣の不動産会社を150〜200軒ほどめぐり、youtubeなどでも独自にPRしたという。こうした独自の営業活動が実って入居者は無事に見つかり、5年が経過した今でもずっと満室だそう。

【画像2】林さんが所有する建物は外構や共用部分にもこだわりが。経年劣化していくのではなく、「年月とともに良く、美しくなっていく建物」にしていきたいという

【画像2】林さんが所有する建物は外構や共用部分にもこだわりが。経年劣化していくのではなく、「年月とともに良く、美しくなっていく建物」にしていきたいという

「そのとき、不動産会社の方には、“定期借家契約にすると家賃を下げなくてはいけない”、“余計な手間が増える”と誤解されている人が多いことを知りました。ただ、実際にやってみて分かったのは、家賃は下げる必要はないということ。不動産管理も定期借家契約に慣れている会社に依頼しているので、管理の手間も特別に増えていません」と胸を張る。その後、昔から普通借家契約で契約していた物件についても、新たに借り手を探す際に除々に切り替えていき、今では25〜26戸が定期借家契約になったという。

入居者からの評判はどうなのだろうか。
「そもそも、定期借家契約を知らないという人がほとんどです(笑)。普通借家契約でも、定期借家契約でも、どちらでもいいよ、という感じでしょうか。ただ、内見立会時などで説明すれば、ご理解いただけますし、みなさん納得されます。また、幸いにして再契約しなかった方は一家族もいません。再契約時には私からプレゼントを差し上げているくらいです(笑)。みなさん、安心して住んでいただいています」(林さん)。自身が所有する物件は70戸ほどでバス便の物件が主流だが、この1年半空室は出ていないという。

定期借家契約と保証会社が、これからの賃貸の当たり前に?

ここでもう一度、定期借家契約のメリットを整理しておこう。

入居者……良好な住環境が保たれる。悪質な入居者への抑止力になる
大家……悪質な入居者の抑止力になる。万一、問題を起こした人への退去、明け渡し訴訟もスムーズになる
不動産会社…悪質な入居者の抑止力になる。トラブル・クレーム対応が減る

最大のポイントは、悪質な入居者に対して「ルールが守れないなら、再契約しません」といえる抑止力といえそうだ。また、林さんによると、1回のルール違反で「再契約しない」と伝えることはなく、何度か書面や口頭などで注意した上で、それでもどうしてもという場合に、契約満了の6カ月前に再契約しない旨の通知をするルールになっているという。

入居者からみれば、「自分が希望しても住み続けることができないかも……」いうのが最大の不安だが、こればかりは「ルールを守って暮らす」という当たり前を徹底していれば、大きな問題にはならなそうだ。また林さんによると「これだけ情報化が進むなか、一方的に再契約しないなどという態度の大家さんは、生き残れないと思いますよ」と分析する。加えて、大家の悩みを聞かせてくれた。

「ここ数年、消費者保護や権利意識の高まりからか、“モンスター入居者”が増えてきたという話を、友人の大家からよく聞きます。なかには確信犯的に家賃を踏み倒し、立ち退き料や引越し代をせしめて転々とするような人もいるのです。こうした入居者は、往々にして、周囲の普通に暮らす人に迷惑をかけるもの。普通の人の暮らしを守るためにも、“定期借家契約”がもっと普及して欲しいですね」と林さん。

戦後の住宅難とバブル期の異様な地上げなどによって、いびつなかたちに独自の進化を遂げてしまった「普通借家契約」。本来、入居者を守るはずだったのものが、なぜか「モンスター入居者」を生む土壌になっている。

一方で、国際化が進む昨今サービスアパートメントやシェアハウスなどの新しい住み方には、「定期借家契約」が欠かせないものとなっている。「普通借家契約」や「保証人」のような日本独自の慣習は少しずつ前時代的なものとなり、これからは「定期借家契約」+「家賃保証会社」が主流になっていくに違いない。

●参考
『賃貸の新しい夜明け』 
沖野元 (著), 林浩一 (著)(週刊住宅新聞社)
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