街・地域
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丸山智子
2014年10月28日 (火)

市役所に聞いた 政令指定都市になるとあなたの暮らしは何が変わる?

本州日本海側で初めて政令指定都市になった新潟市(写真撮影:筆者)
写真撮影:筆者

全国に20ある政令指定都市。規模が大きくて区に分かれていて…という漠然としたイメージはあっても、暮らす上で具体的な政令指定都市のメリットはなかなか分かりにくい。そこで、政令指定都市の一つである新潟市の担当者に話を伺った。

やっぱり気になるのはお金の変化。増える?減る?使い道は?

新潟市は政令指定都市を目指して15の市町村が合併し、2007年に政令指定都市となった。現在8つの区に約80万人が暮らしている。

「税金に関して安くなることは特にありません。しかし県から財源の一部が移譲され、市で使途を決められる税収が増えるので、より住民の皆さんの暮らしに寄り添った使い方ができるようになりました」(新潟市地域・魅力創造部政策調整課 坂井さん)

政令指定都市の大きなメリットの一つが権限・財源の移譲。県の権限・財源の一部が移されるので、道路整備、都市計画、教育などで、より地域の実情に合わせたサービス提供やまちづくりをすることができる。さらに、政令指定都市は宝くじを発行することが可能となる。こちらも収益の大きな柱の一つとして、市民生活の向上に活用されている。

権限移譲の中には小・中学校の教職員の任免を市が行える、などもある。県で行っていた教職員の採用や人事異動を市が行うことができるようになり、市の教育委員会で長期的な視野に立った教師のスキルアップや研修計画の実施が可能になり、地域との密接な関係性の構築にも繋がっている。

実際に市が持つ具体的な権限の範囲は、法律に則って基本的なガイドラインをベースに、各自治体の実態に合わせて都道府県と協議しながら決められるとのことだ。

より「その地域ならでは」を伸ばすことができる制度に

法律上、政令指定都市移行の条件として「人口50万人以上」という項目があるが、実際には人口80万以上で将来的に人口100万程度が期待できるような都市が移行してきている。政令指定都市に移行することを目指して合併する市町村もある。面積・人口を増やし、その中で一貫性のある施策を実施するなどスケールメリットを発揮できる環境となるのも大きな特徴だ。

「政令指定都市になると、県を通さずに国と直接話ができます。施策決定のスピードが早くなり、内容もより市の実情に合ったものになりますね。また新潟市は政令市移行と同時に8つの区役所を設置し、区役所を中心としたまちづくりを進めてきました。『特色ある区づくり予算』を設置し、各区の特色がより反映される街づくりに計画的に取り組んでいます」(同 坂井さん)

新潟市の場合、例えば東区は工業に強く、西蒲区は農業が盛んだ。そこで市が「今年は工業を推していこう」と旗を振れば西蒲区はカラーを打ち出しづらくなる。しかし区長・区役所の権限を高め、「特色ある区づくり予算」を創設したことにより、西蒲区では農業の強みを活かし、地元食材を使った自慢料理コンテストを開催するなど、独自の魅力に基づいた企画が実際に実現されていっている。

普段の暮らしで感じられる、政令指定都市ならではの利便性

実際に生活をする上で実感できるサービスの変化は、どのようなものがあるのだろうか。

「新潟市の場合、合併のメリットともいえますが、利用できる行政手続きの窓口が増えたことがまず挙げられます。仕事で旧新潟市外から市内に通う人も多く、以前は住んでいる市町村で証明書の発行や申請手続きをするために休みを取る場面もありました。
今では市内全域のどの区役所でも手続きができ、窓口となる連絡所や出張所も増えたので、仕事の合間や出かけたついでに手続きしやすくなっています」(新潟市地域・魅力創造部政策調整課 堀越さん)

住むエリアと職場エリアが同一市内になったことで、一人が複数の区役所を利用することも多く、各区がサービス面において切磋琢磨する相乗効果も生まれているという。「政令指定都市になる」という目標があったからこそ、15の市町村が合併できた経緯があり、その結果住民が利便性の高いサービスを受けられるようになったと言える。

また子どもを取り巻く環境にも変化が。政令指定都市になると、児童相談所の設置が義務付けられるのだ。従来保育園・小中学校は市の管理、児童相談所は県が設置、管理するもののみであった。
それを市でも児童相談所を設置し、保育園・小中学校と一括して管理することで、万が一児童の身に問題が起きた場合も、情報共有やケアといった一連の流れがスムーズになるメリットが生まれている。

降雪、消防、震災…非常時に発揮される政令指定都市の持つ力

日常生活においてはもちろん、非常事態の際にも政令指定都市ならではのメリットが生きてくる。
大規模災害や事故に対応する「特別高度救助隊」は、政令指定都市と東京都に配備が義務づけられている消防の専門部隊。住民の安心・安全な暮らしへの貢献はもちろん、非常時にはエリアに関わらず出動するので、周辺地域にも同様の役割を果たす。

また、合併でそれまで細かく分かれていた市町村の境がなくなったことにより、「救急車や消防車の到着が早くなっています」(新潟市地域・魅力創造部政策調整課 山田さん)。それまで近くても行政区画が異なるために連絡が届かなかった署が、迅速に対応できるようになるからだ。
また規模が小さく消防署ではなく組合で対応していた地域にも、消防署からの消防車が対応できるようになる。

国道・県道・市道という道路の管理も、協議の上で市が一元的に管理できる。新潟市の場合、管轄の違いでこれまで住民の目線では「角を曲がると除雪に差がある」ということもあったが、現在では市の基準でまとめて除雪できるようになった。

移行した日に何か劇的な変化がある訳ではない。しかし、実情に即して日常の暮らしやすさや危機管理体制が整えられている政令指定都市という形は、長い目で住まい探しを考えたときに選択のひとつ大きなポイントとなるかもしれない。

●取材協力
新潟市地域・魅力創造部政策調整課
HP:http://www.city.niigata.lg.jp/shisei/soshiki/soshikiinfo/chiiki-miryoku/kikakuka_toppage.html
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