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末吉 陽子(やじろべえ)
2014年9月2日 (火)

「ミニマルライフ」と「スモールハウス」。その魅力って?

アメリカに住むアーティスト兼デザイナーの女性が、自身の手で9カ月掛けてリノベーションしたスモールハウス。世界に目を向けてみると、型にとらわれない様々なスモールハウスの事例がある(画像提供:YADOKARI)
画像提供:YADOKARI

地方での暮らしや、モノを減らしていく生活が注目されつつある今日このごろ。場所や時間、そしてお金にとらわれず「シンプルに、自分らしく生きる」ことをテーマに、生活スタイルを模索する若者も増えているようだ。そんな背景もあり、このところ注目されているのが、ミニマルライフやスモールハウス。それらの情報を発信するウェブサイト「未来住まい方会議」を運営している「YADOKARI」の、さわだいっせいさんとウエスギセイタさんに、新たな暮らし方についての魅力を伺った。

「ミニマルライフ」を通して、自分の求めていることが見えてくる

ライフスタイルに関する志向の多様化に伴い、地方移住や多拠点居住を選択する若者が増えてきている。そんななか、これまであまり馴染みのなかった”ミニマルライフ”という言葉への関心も高まっているようだ。エコからさらに1歩踏み込んだミニマルライフという暮らしとはどんなものなのだろう?

「簡単に言うと、極力モノを持たず情報も入れ過ぎずにシンプルな生活を送る、ということですね。アメリカでは携帯やPCすらも持たない『ミニマリスト』と呼ばれる若者も増えてきています。ミニマルライフの実践を通して、自分が本当に大事にしているコトを見つめ直すことにつながるともいわれています」(ウエスギさん)

かくいうウエスギさん、さわださんもミニマルライフの実践者。以前はデザイナーとして、東京でいわゆる”リア充生活”を送ってきたというお二人だが、ミニマルライフで日常がガラッと変化したという。

「東京でバリバリ働いていたときには、人気スポットのオシャレな部屋に長く住んでいました。でも、日常は慌ただしく、これから自分はどうしていきたいのかを立ち止まって考えたときに、暮らし方を変えることを選びました。もともと海が好きだったこともあって、今は家族と逗子の築40年の平屋に住んでいます。最先端の住宅と比べると設備的には十分ではないですが、モノがないなりに工夫が生まれるので気持ちの面で豊かになったと思います」(さわださん)

「モノを減らしていくと”あれが欲しい”とか、物質的なことを考えなくなるので、思考がクリアになっていきます。それに伴って生活の質が上がっている気がします。あと、ここ2年くらい自宅にテレビを置いていないのですが、その分新たな活動や家族との時間が増え、より充実した毎日になってきていると感じています」(ウエスギさん)

モノを持たない生活なら家も大きい必要はない

ミニマルライフを実践すると、自然とスモールハウスに行きつくことが多いそう。車一台分の駐車場くらいの土地に建てられるような『極端に小さな家』のことを指す、スモールハウス。こちらもあまり馴染みがないが、どんなものなのだろう?

「日本に限らずスモールハウスやトレーラーハウスに住んでいる人は昔からいたと思うのですが、どちらかというとヒッピーというか、自分の哲学や思想が強めな人たちが多かったような気がします。それが最近では生活スタイルの多様化も相まって、とくにアメリカや北欧のクリエーターを中心にオシャレでかっこいいスモールハウスが増え始め注目が集まっていますね」(ウエスギさん)

「未来住まい方会議」のサイトには、そうしたハイセンスなスモールハウスも数多く紹介されている。そんなスモールハウスのなかでも、とくにお二人が「秀逸!」と感じたというものをピックアップしてもらった。

「ミニマルライフ」と「スモールハウス」。その魅力って?

【画像1】スウェーデン発の15m2のスモールハウス「ONE+」。極小スペースながら、バスルーム、キッチン、ベッド、収納を完備。ライフスタイルに応じて空間を拡張することもできる(画像提供:YADOKARI)

「ミニマルライフ」と「スモールハウス」。その魅力って?

【画像2】こちらはスペインで生まれた、床面積27m2のモバイルプレハブハウス「ÁPH80」。トレーラーに積んで移動させることも可能。モルタル仕様のモダンなデザインと開口部でもあるリビングの大きな窓が特徴的(画像提供:YADOKARI)

日本でスモールハウスを建てることはできるのか?

ちなみに、いま日本でスモールハウスに住んでいる人たちは、法律的な部分をどのようにクリアしているのだろう?

「ごく一部に限られると思いますが、スモールハウスならではの『移動が出来る』という部分を取り入れたかたちであれば、住宅ではなく自動車の一部としてトレーラーハウスやキャンピングカーなどをカスタマイズして住んでいる人もいます。また、中古コンテナを使ったスモールハウスやショップなどは地方にはちらほらみられますが、基本的に都市近郊(都市計画区域内)では、中古のコンテナを使ったスモールハウスの建築は難しいため、建築確認申請に準拠したコンテナ風の鉄骨建築などで対応しているケースもあるようです。そのほかでいえば、一般の住宅と同じように基礎の上に小さな家を建てる方法があるかと思います」

じつは、さわださんとウエスギさんは、各国の事例を踏まえて日本でもスモールハウスをつくって広めていこうと企画したこともあるそうだが、日本で普及させるには法律や環境など乗り越えなければいけない壁も多かったとか。

「コンテナを活用したスモールハウスなら、日本でも広めていけるのではないかと思い、色々調べたのですが、住宅としての基礎がないとダメいうことで建築基準法にひっかかってしまいました。耐震の問題などもあって、日本でスモールハウスを住居スタイルのひとつとして一般的なものにしていくには、クリアすべき問題が多いです」(さわださん)

圧倒的な低コスト、住宅ローンに縛られない人生という選択

また、家全体を小さくするにあたり、コストを抑えつつ設備面をいかにコンパクトにするかがアイデアの出しどころだという。

「エネルギーや水道などのインフラが、ある程度独立した状態で整えば、住まいとしてかなり充実してくると思います。例えば、太陽光エネルギーやバイオトイレを取り入れるといったかたちです。現状、それらの設備にはコストが掛かりますが、価格が落ちてくれば予算も抑えられます。また、建築コストの大半を占める人件費を抑えるため、一定の作業は素人でもDIYできるような仕組みや、パッケージ化されたスモールハウスがあってもいいと思います」(さわださん)

こうした課題をクリアできれば、金銭面においてもスモールハウスはじつに魅力的だ。賃貸住宅や従来の持ち家に比べ、遥かに安い価格で住まいを手に入れることができる。

「30平米前後であれば、コンテナでも木造でも400万円前後で建てられる、というのが欧米でも主流になっています。普通の家を買うよりもずっと安い価格で、2人もしくは3人でも暮らすことができます。数十年にわたる住宅ローンに縛られない人生が送れるので、その分のお金や時間を勉強や趣味に費やすことだってできるわけです。

今の日本では『衣』『食』に対するアイデアはほぼ飽和状態ですが、『住』に関してはようやくシェアハウスが定着したくらいで、あまり選択肢がないように思えます。スモールハウスをひとつの居住方法として幅広い人に知ってもらえたらいいですね」(ウエスギさん)

今後、「YADOKARI」では日本での普及を目指し、スモールハウスの商品化も念頭に置いて活動しているとのこと。昨年、Facebookを通じ土地の所有者に向けて、スモールハウスを建てるための空き地を募集したところ、1年間で北海道から沖縄まで70件もの応募がきたという。実現すれば、従来の住まいに対する価値観に一石を投じるものになりそうだ。

●未来住まい方会議 by YADOKARI
HP:http://yadokari.net/
https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2015/08/37c9aa6806749738b09227ced2468772.jpg
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