銭湯といえば、古くは江戸の庶民が愛した湯屋に遡る。いまでも都内には昭和レトロを感じさせる趣のある銭湯が残っている。その一方で、食事やお酒が楽しめる飲食施設があったり、プールが併設されていたりと、現代のニーズにあわせて進化もしている。そこで最新の銭湯事情と、初めて銭湯に行くときに覚えておきたい銭湯のマナーを紹介しよう。
「戸越銀座温泉」は由緒正しい銭湯の様式美にこだわりつつ、現代テイストを取り入れた古くて新しい銭湯だ。
浴室の男湯・女湯にまたがる壁面の半分には、都内でも残り少なくなった、ペンキ絵師の手による正統派の富士山が描かれ、残り半分には現代美術作家による近代的な富士山が描かれている。しかも日替わりで男湯と女湯が入れ替わるので、両方の富士山が楽しめる。
またふつうのお湯だけでなく、東京ではお馴染みの天然温泉「黒湯」と軟水炭酸泉が楽しめるなど、もうほとんど温泉気分だ。日曜、祭日は朝湯があるのもうれしい。
一見銭湯とは無縁に思えるファッション・タウン南青山・表参道で100年続く老舗の銭湯が「清水湯」。地下鉄の表参道駅から徒歩2分と驚くほど便利な場所にある。すべてのお湯に、肌にやさしくせっけんが泡立ちやすい軟水を使用しているほか、高濃度炭酸泉、シルク風呂などお湯にこだわりがある。手ぶらセット(300円)やレンタルタオル(300円)を利用すれば、突然銭湯に入りたくなっても大丈夫。
風呂上がりに生ビール(一杯450円)が楽しめるレストルームがあるなど、お風呂プラスアルファの楽しみを演出している。また、清水湯では季刊でフリーペーパー『SHIMIZU-YU』を発行。春号では走るをテーマにすぐ近くに店舗があるニューバランス東京とコラボするなど、ファッションの街に向けて銭湯文化をお洒落に発信している。
早稲田通りから少し入った場所にある「なみのゆ」。周辺にはいまでも古い風呂なしのアパートが多くあり、学生さんや単身者には、なくてはならない銭湯だ。
なみのゆの自慢は、水質検査をした保健所も驚くpH8の天然アルカリ水を、地下からくみ上げて使っていること。pHとは水の酸性度やアルカリ度を示すもので、中性はpH7。それ以上ならアルカリ性、それ以下なら酸性だ。適度なアルカリ性は肌が敏感な人には安心。地方から東京に遊びに来るたびに、ひと風呂浴びにくるリピーターも多いとか。
また日曜日の朝湯も好評で、とくに女湯のにぎわいは凄いらしい。朝湯をしたら、すぐ家に帰って、もう一度布団にはいるとほんとに気持ちいいという声もあるとか。
なみのゆには、プールがあり、男女日替わりで利用できる。本格的にジムに通う暇がなくても、入浴と同時に気軽にトレーニングできるのもありがたい。また接骨院も併設されているので、ちょっとした体の「メンテナンス」もできる。
このように東京ではまだまだ元気な銭湯だが、地方では残念ながら姿を消しつつあるのが実情。そのため東京に引っ越してきて、すぐそばに銭湯があっても、どうも入りづらいという人もいるのでは。そこでいまさら聞けない銭湯マナーを前出・なみのゆ店主の大小島博さんにご協力いただき、簡単にまとめてみた。
・タオルは湯船に入れない
・はじめに体をながす
・風呂上がりは体をよくふく
・シャワーや浴槽の埋め水は出しっぱなしにしない
・長い髪はまとめ、湯船につけない
・ロッカーの鍵は身に付ける
このうち銭湯のマナーでもっとも気をつけたいのは「風呂上がりは体をよくふく」ことだ。
「家庭では濡れた体のまま脱衣場に出てバスタオルで拭きますね。でもこれは銭湯ではマナー違反。必ず浴室内に持ち込んだハンドタオルで体を拭いてから脱衣場に出てくださいね」(大小島さん)
またお湯の温度が高いからといって、無闇に水で埋めるのもNGだ。筆書も学生時代、あまりに熱いので水で埋めようとしてお年寄りに怒られた記憶がある。
「ウチはお湯の温度を43.5度にしてます。東京の銭湯は関西などにくらべてかなり熱いので慣れるまではちょっと抵抗があるかもしれません」(大小島さん)
なみのゆでは以下のような入り方を推奨している。
(1)まずゆっくりかけ湯する
(2)湯船のふちに腰かけ足だけそっと入れる
(3)足が熱さに慣れて体がぽかぽかしてきたら、ゆっくりと全身を沈める
(4)あまり我慢せずほどよい時間でお湯から上がる
伝統を重んじてペンキ絵を復活させた戸越銀座温泉。南青山ならではのオシャレな銭湯・清水湯。そしてプールや接骨院があるなど気軽なフィットネスクラブといった趣のなみのゆなど、東京の銭湯は個性豊かだ。身近に銭湯があったら、ぜひ一度「外食」ならぬ「外浴」をしてみてはどうだろう。