全国的に、団地で深刻な問題となっている人口減少や入居者の高齢化。そんななか、春日部市の「官学連携団地活性化推進事業」が注目を集めている。提携している近隣大学と活性化を目指す、武里団地の取り組みを取材した。
埼玉県春日部市に位置し、151棟(約5300戸)の規模を誇る武里団地。昭和41年の完成当時は「東洋一のマンモス団地」といわれ、最盛期には2万人以上の人が暮らしていた。ところが現在、住人の数はその半分以下に減少。また他地域の団地と同様、入居者の高齢化という問題にも直面している。
そんななか、2011年に春日部市が新しい取り組み「官学連携団地活性化推進事業」をスタート。団地活性化の起爆剤として注目を集めるこのプロジェクトについて、春日部市「かすかべ未来研究所」の舟田由彦さんにお話を伺った。
「『官学連携団地活性化推進事業』とは、連携している近隣大学の学生に武里団地に住んでもらい、地域貢献活動をしてもらうかわりに家賃や通学費の一部をサポートする事業のこと。大学生の力を借りて団地を活性化させようという、地方自治体としては初めての試みになります」
地域貢献活動といっても、いったいどのようなことをしているのだろう。舟田さんによると、「学生たちから、団地で暮らす高齢者や子どもたちが笑顔になれる提案を積極的に受け付けている」とのことで、特にこれといった決まりはないようだ。
「団地住民と交流を深める食事会『隣人まつり』の開催や、高齢者の運動不足解消に役立つ『健康体操』の実施、公民館で毎年実施される『文化祭』のお手伝いなど、不定期ですが学生主体でさまざまな活動が行われています」
『隣人まつり』での大学生との交流がきっかけとなり、団地の自治会の活動も活性化。毎週水曜に集会所で『ふれあい喫茶』を運営するようになるなど、住民たちの交流の機会が増えつつある。また、2013年6月には団地敷地内の小学校で子どもたちと触れ合う「寺子屋 たけさと」がスタート。入居学生はもちろん、大学の協力学生を巻き込んだ取り組みとして、地域貢献活動のスケールも拡大傾向にあるという。
「官学連携団地活性化推進事業」による地域貢献活動が、住民に好影響を与えつつある武里団地。入居にあたっては、前出のような活動に参加することに加えて、2人以上でルームシェアリングをすること、春日部市に住民登録すること、連携している近隣大学から推薦を受けていることも助成条件となるという。
「条件を満たして入居いただく学生に対し、家賃の半額と通学にかかる交通費の半額を市が助成します。部屋は2Kから3DKまで複数タイプがあって、家賃は5万円前後。なので、3人で入居した場合、1人あたりの家賃負担は約8000円になります」
現在、武里団地には日本工業大学と埼玉県立大学、共栄大学の学生計16名が市の助成を受けながら暮らしている。大学生にとって、家賃や通学費のサポートは大きな魅力のよう。2013年3月に入居した共栄大学教育学部3年生の相葉大樹さんは、次のように語る。
「それまでは片道2.5時間かけて、実家から大学に通っていたんです。ところが、2人で住めば約1万3000円の家賃負担で大学近くに部屋を借りられると知り、入居を決断しました。武里団地から大学までの通学時間は、電車とバスを乗り継いで約20分。引越してから、時間を有意義に過ごすことができるようになりました」(相葉さん)
団地暮らしに対する抵抗もいっさいないという。
「3Kの部屋に2人で暮らしているのですが、思っていた以上に広くて快適。1部屋ずつをそれぞれ自分専用にして、残りの1部屋を2人の共有スペースとして使っています。部屋は5階でエレベーターはないのですが、階段の段差が緩やかなのでそれほど大変だと感じていません」(相葉さん)
現在は、主に小学校の教室で行っている『寺子屋 たけさと』で宿題を見てあげたり一緒にゲームをしたりして、子どもたちとの交流を図っている相葉さん。先生を目指している彼にとって、団地での地域貢献活動は夢の実現にも直結している。前出の「かすかべ未来研究所」舟田由彦さんによると、それもこの事業の大きなメリットだという。
「日本工業大学で建築を学んでいる学生にとっては、建築や暮らしのフィールドワークの場となります。また、『健康体操』は保健・医療・福祉の専門知識を生かした埼玉県立大学の学生、『寺子屋 たけさと』は共栄大学教育学部の学生による活動。地域貢献活動は、大学生の日々の勉強にも役立つ『学びの場』としても機能しているのです」
武里団地と大学生、双方にとって大きな魅力がある春日部市の「官学連携団地活性化推進事業」。団地活性化の新たな手法として今後、全国的に広がっていくかもしれない。