牡蠣の美味しい季節です。
牡蠣と言えば、あの少々グロテスクな見た目とグニャッとした食感、磯の香り、子どもの頃は大嫌いなものNO.1だったのに、大人になって好きに転じた食材。
カキフライが食卓に上がろうものならケチャップまみれにして牛乳で流し込むという、今考えれば牡蠣への冒涜ともいえる食べ方をしていたのに、今では多少あたってもいいから生ガキをたらふく食べたいと思うまでになりました。
大人ってやつは都合のいい生き物です。
近年ではあちこちに牡蠣小屋がオープンして、牡蠣フィーバーともいえる活況を呈していますが、実は浜名湖も隠れた牡蠣の名産地として知られています。浜名湖界隈にも牡蠣小屋がいくつかありますが、今回プッシュしたいのが、数年前からじわじわきている牡蠣を使ったご当地丼。
“カキ通”の間で話題の浜名湖の養殖牡蠣
海水と淡水が混ざった「汽水湖」である浜名湖には、なんと700種類を超える魚介類が生息していて、湖としては日本一の漁獲高を誇っています。
その浜名湖に隣接する遠州灘も約20年前の海流の変化によって、日本有数の天然とらふぐの産地として有名。牡蠣といえば全国的に有名なのは広島県や岡山県、そして宮城県の三陸産ですが、実は浜名湖は食通の間では知られる養殖カキの名産地なのです。
浜名湖の養殖の歴史は古く、明治20年から始まりました。
浜名湖と遠州灘がつながる南端付近で種付けした帆立貝を、幼い時期は潮の流れが良い海の近くで育て、水揚げが近くなると川の水が流れ込む奥浜名湖へ移動して育てます。水質の違う奥浜名湖は植物性プランクトンが豊富で潮の流れも穏やか。1年半かけて移動させることによって、まるまる太った濃厚な牡蠣が育つのです。
その牡蠣を冬の名物としてPRすべく誕生したのが「牡蠣カバ丼」
浜名湖産の牡蠣にうなぎの蒲焼のタレを絡めて焼き、地元産の食材をトッピングしたご当地丼です。「牡蠣カバ丼」には使う食材が決められています。
- 浜名湖産の牡蠣
- 浜名湖産の海苔
- 遠州産の玉ねぎ
- 三ヶ日のみかん
- 鰻の蒲焼タレ
※この他に使うトッピングなどはお店の自由
浜名湖の冬の名物大集合丼!
平成22年、テレビ番組の「全国新・ご当地グルメ選手権」で見事準優勝を獲得し、じわじわと評判になり始めました。うなぎの蒲焼のタレを使うことから、うなぎ料理のお店で食べられることが多く、現在は11月~3月中旬頃まで「浜名湖丼研究会」が認定する16店で食べられるとのこと。
- 味付けが「蒲焼のタレ」の時点で間違いなく外さない牡蠣カバ丼
- だいたい味の想像はつくものの、それでも食べてみたい牡蠣カバ丼
今回は牡蠣カバ丼の誕生当時からあるお店に伺います。
牡蠣カバ丼発祥の店、『うなぎ・和食処 松の家』
東名高速浜松西I.C.から車で15分。浜松市西区、浜名湖畔にある舘山寺温泉は、温泉の他に遊園地「浜名湖パルパル」や四季折々の花や緑が楽しめる憩いの場「はままつフラワーパーク」、100種類以上の動物が観られる「浜松市動物園」などが集まる一大観光スポットです。その中心部にある魚料理のお店。
『うなぎ・和食処 松の家』
昭和44年の創業から約50年間浜名湖を見守ってきた、老舗のうなぎ料理屋です。
入口には牡蠣カバ丼のノボリがはためいています。
1Fがテーブルと小上がりの席、2Fは宴会もできるお座敷席で、昔ながらの和食屋さん。
浜名湖名物のうなぎ料理はもちろんのこと、
冬はとらふぐやすっぽん、はも料理も食べられます。
はやる気持ちを抑えつつ、まずは「かき殻焼(3個972円)」を注文。
※「かき生」「かき酢」はノロウイルスへの懸念から現在は提供していません。
粒がデカい!!
7~8㎝の大ぶりな牡蠣を殻ごと天火で炙り、シンプルに醤油で味付けしてあります。添えられているのは浜名湖産の生海苔です。殻を持ってチュルッと……というより、ひと粒が大きいのでズズズッとな。
味が濃ゆいーーーーー!!
牡蠣の旨味が濃厚で、味が濃いんです。大ぶりながらもしっかり噛み応えがあって、身の弾力を味わうことができます。香ばしい醤油が磯の風味をより引き立ててくれて、浜名湖牡蠣の美味しさをシンプルに味わえる一品です。
続いて、「牡蠣カバ丼(1,620円)」
ぼってりと大ぶりな身が5つも!!
ごはんに細切りの炒め玉ねぎと海苔の台座がしかれ、その上に丼を埋め尽くすように鎮座した浜名湖産牡蠣。すりおろしたみかんの皮が散らされています。
箸で持ち上げるとずっしりと重さを感じる
この色、ツヤ、香り、手触り(箸の)……。
絶対に美味しい色……絶対に外さないフォルム……。
冬の浜名湖、いただきます!
想像どお……いや、想像以上にうまいぃぃ!!
ぶっちゃけ蒲焼のタレを使えば、たいていのものは美味しくなります。
その一方で、濃厚なタレに食材本来の味が負けてしまい、「ただのタレ味」に支配されてしまう食材も少なくありません。ところが松の家の牡蠣カバ丼は、牡蠣自体が大きくて本来の旨味をしっかり保っているので、濃厚なタレの味に負けない! むしろ、凝縮された牡蠣の旨味を守るように、外側をタレが包みこんでいます。この絶妙なバランス。
さらに、トッピングのみかんの皮が清涼感を加えるアクセントになっています。うまいこと考えたなぁ!!
「うまいら?うどん粉をはたいてるもんで牡蠣の身が縮まないし、タレもよく絡むんだ。玉ねぎは篠原産で、みかんは三ヶ日」というのは松の家の2代目ご主人の新村さん。
「浜名湖丼研究会」の会長でもある
「篠原」というのは浜松市西区にある篠原地区。甘くてみずみずしい白玉ねぎが有名な地域です。三ヶ日はいわずもがな。温暖な気候が生んだ温州みかんの名産地。これら地元食材が牡蠣とごはんの相性の仲介となり、見事に両者を引き立てています。
――牡蠣が肉厚ですね!
「スーパーなんかだと前の日に剥いた牡蠣を水に浸して売ってるら?そうすると鮮度も落ちるし旨味も逃げて水っぽくなるんだけど、うちは朝5時に舞阪港に水揚げされた牡蠣をその場で剥いて、毎朝10時前にはお店に届けてもらってるでね」
そういって冷蔵庫から出して見せてくれたのは、その日入荷した生剥き牡蠣。40年来の付き合いという業者から毎日仕入れるそうです。
火を通してもサイズがほぼ変わらない!
――冬は牡蠣カバ丼がよく出るんですか?
「6年前から牡蠣カバ丼を出してるんだけども、毎年リピーターのお客さんが増えて『今年はいつから始まるんだ?』って問い合わせが9月ぐらいからぼちぼち入ってね。去年は1カ月で400~500杯、2月は850杯近く出たっけなぁ」
――2月がズバ抜けてますね!!
「やっぱり1番の旬は1月~2月だもんでね。三陸の方だと9~10月頃から食べられるけども、浜名湖産牡蠣は甘くて味が濃いもんだで、牡蠣カバ丼にしてもタレに負けんのだわ」
中京圏から来る人を中心に、神奈川や海なし県の長野、岐阜からわざわざ食べにくる人もいるとか。うなぎは高くて手が出なくても、牡蠣カバ丼なら1,620円で幸せになれます。この味なら牡蠣が苦手な子どもでも食べられます。
別に無理に食べさせなくてもいいですが、できれば栄養たっぷりの牡蠣を食べさせたいのが親心。そして牡蠣の美味しさを知れば、世界が広がります。幸せの数が増えます。これは事実。
みんな、冬は牡蠣を食べましょう。
(牡蠣カバ丼を知っていたら、牡蠣をケチャップまみれになんてしなかった……)
やさしい味のかきたま汁も、寒い時期は体にしみる。
殻焼きに添えられていた生海苔を溶いて、磯の風味を加えていただいた。
お店によってタレや調理法、トッピングが異なるのも楽しみのひとつ。冬の浜名湖の新名物「牡蠣カバ丼」は今が旬!
この冬もグイグイくるよ!
お店情報
うなぎ・和食処 松の家
住所:静岡県浜松市西区舘山寺町2306-4
電話番号:053-487-0108
営業時間:月~金/10:30~15:00、17:00~20:30
土・日・祝/10:30~20:30
定休日:火曜(月1回、月火連休あり)
アクセス: 浜松駅バスターミナル1番線にて舘山寺温泉バス停下車徒歩2分
東名浜松西I.C.よりフラワーパーク経由舘山寺方面へ車で15分
浜松うなぎ料理専門店振興会HP:http://unasen.org/shop/shop05.html
※牡蠣カバ丼が食べられるお店一覧
浜名湖丼研究会HP:http://www.kanzanji.gr.jp/umaimon/kakikabadon/