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藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#10夜明け

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夜明け前。
それは、地球上の全ての場所に与えられた、最も純粋で美しい時間だ。日中の火照りをゆっくりと一夜を費やして冷まし、樹々の送り出す新鮮な酸素が街の路上にさえ染み出している。鳥のさえずりはまだ始まらずに、濃紺の空には、星々が輝いている。
季節を少し進ませた服装で、ベランダや庭に出る。椅子やベンチにゆったりと座り、温かい飲み物を手にするのもいい。深呼吸をひとつふたつして、起きたての体の強ばりに意識を向け、なるべくゆったりとさせてみる。こんな感じで準備は終了。あとは、ただ、ぼんやりと目に映るものを眺めるだけだ。
ひとつだけ大切なことは、朝に会いに来ているのだ、という意識を持ち続けること。
やがて明るくなる東の空に、まだ地平線の下にいる太陽の存在を強く思うだろう。その時すらも、朝に会いに来ているという態度でいること。つい、「朝日を待つ」ということになりがちだが、「朝日に会う」というようにしたい。
「待つ」と「会う」では、意識が全く違う事に気づくかもしれない。人間は、言葉にとても影響されやすい環境で生活しているので、逆に言葉を利用して意識を変化させることができる。
試しに、今目を閉じて、少し心を落ち着かせる間を取ってから、「会う」と心で言ってみる。そして、その時全身が受ける感じに注意してみる。次に「待つ」と心で言ってみる。そんなに繊細ではない人でも違いを感じられると思う。おそらく「会う」よりも「待つ」方が体を冷たく感じるのではないか。体を冷やすのは避けたい。
言葉というのは、意味、語感、などから、心と体にとても影響力を持っていることが実感できたのではないだろうか。
こういうことをふまえて、純粋で美しい夜明けの時間を、「朝に会いに行く」に使うと、とても素敵な変化が訪れる。
夜明け前に起きるというのは、日課としている自分には普通のことだが、多くの人にとっては辛い時間帯だと思う。おそらく前夜から早くベッドに入らなくてはいけないだろうし、そうすると、週末はもったいない。金曜や土曜の夜は、友人や恋人とゆっくりご飯を食べたりして過ごしたいし、深い時間まで楽しめるのに、翌日の早起きのために犠牲にするのはどうかと。
おすすめは、実は月曜日だ。前夜の日曜日の夜は、明日からの新しい一週間のために、遅くまで遊ぶ気はしないだろうし、それなら日曜の夜を早寝にして月曜日を夜明けに会いに行く日にしたらいい。週の始まりの日に心のコンディションをかなりいい所に置くことは、残りの5日間をいつもと違った色合いで過ごせることを実感しやすい。是非、月曜日に。
最初は週に一度で十分だと思う。それが無理なく、生活に取り入れられたら、実行日を増やしてみるのもいいだろうし、この元手のかからない小さな試みの別バーションを自ら考えてみるといいかもしれない。例えば、「日没に会いに行く」とか。

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