SUUMOジャーナル編集部主催で、住まいや地域活性の活動で注目を集める3名を迎えて開かれた『住まいのトレンドトークライブ』。その様子を3回にわたってお届けします。
イベントは二部構成で、第一部ではSUUMOジャーナルに過去掲載された記事から、ソーシャルメディア上で反響の高かったものが紹介されました。そこで浮かび上がってきたキーワードが「ローカル」、「団地」、カスタマイズやシェアハウスといった「賃貸の新しいカタチ」の3つ。また「つながり」や「愛着」といったキーワードも、これからの住まいや暮らしを読み解いていくヒントとなりそうです。第二部ではこうしたユーザーの傾向も踏まえ、編集長・池本からゲストへ5つの問いが投げかけられました。
5年後、10年後の住まいはいったいどうなっていくのか? 住まいの未来を展望するスペシャルトークの様子をレポートします。
池本:山崎さんは島根県隠岐郡の海士町という離島の総合振興計画など、全国さまざまな地域で住民参画によるまちづくりに取り組んでいらっしゃいますね。最近、若者の地方移住への関心度が高まっているように感じられます。一方、地方移住というと稼げないイメージがありますよね。その点、地方でもこれだけ稼げるという点で、この記事に多くの「いいね!」がついたという面もあると思います。なぜ彼らはU・Iターンという形で地方に戻ってくるのでしょうか?
山崎:紹介いただいた記事の「年収2500万」って、すごいですね。海士町は、年収でいうと10分の1以下かもしれません。ただ海士町の人口・約2300人のうち300人以上、つまり1割は移住者です。彼らがどんどん結婚して家族を持つので、離島でありながら「保育園が足りない」という状況になっていて、それが珍しいと言われます。
こういう離島に住むと、住宅をはじめとする固定費がかなり安くなるというメリットはありますね。一軒家を借りて、1カ月の家賃が数万円とかですから。食べ物も2日に一度くらい、ご近所さんから何かが届きますね。朝起きると、家の前に新鮮な魚や野菜が置いてあったり。誰が置いたか分からないんですけど(笑)。だから食費もあんまりかからないんですよね。
僕が教えている京都の大学のゼミ生で、海士町役場の臨時職員として海士町に移住した子がいます。給料は月15万円ですが、そのうち10万円を毎月貯金しているというんです。なぜかといえば、固定費がかからない。5万円もあれば遊びながら暮らせる。彼女は海士町に移住して7、8年目ですが、1千万円近い貯金ができている。
その代わり、こうした地域では助け合っていかなければなりません。野菜が届く代わりに、彼女も高齢者の買い物の支援をしたりしています。そういう関係性のなかで生きていくということが、こうした地域ですごく大事なことだと思いますね。
ですから、ちょっと気になるのが、年収2500万円もあると、助け合う必要がないかもしれない、ということです。電話もテレビも車も全部自分で用意できちゃいますから。地方に移住して人と助け合いながら暮らしたい、と思っている若者が、こういうすべて自分で用意できてしまう地域に行くと、ひょっとしたらショックを受けてしまうかもしれないなと思いました。
池本:山崎さんの著書にも書かれていましたが地域移住の満足度は「豊かさの基準」の違いにあるのかもしれません。離島に住む人たちや、それを志向する若者たちの「豊かさの基準」とは、どのようなものなのでしょうか。
山崎:自分で働き方を決めたり、本当に自分のやりたい仕事を追求しても誰にも何も言われないというところはあると思います。大企業を辞めて移住してくる人が結構多いんですよ。離島では働き方が全然違いますし、仕事と生活が分かれず渾然一体としています。自分の仕事や働き方を自分自身で決定していけるというのは、こうした地域に住むことの魅力なんじゃないでしょうか。
池本:自分の役割がある、求められている、ということに対する充足感もあるのでしょうか。
山崎:そうだと思いますね。会社というのは交換可能なシステムですから、誰でもできる仕組みにして回していかなきゃいけませんが、海士町の場合は自分の役割がはじめから決められているのではなく、みんなとつながっていくなかで相対的に役割が生まれていく。そういう意味では「歯車のひとつ」ではない、交換可能ではない自分でいられる、それがこういう地域で生きていくひとつの魅力じゃないかと思います。
池本:吉里さんがいらっしゃるスピークさんでも、若者の地域移住に関する取り組みをなさっていますよね。
吉里:僕らがやっているのは「トライアルステイ」といって、いわゆる体験試泊です。東京の近くでは千葉県いすみ市でもやりました。東京から1時間半~2時間くらいの、いわゆる農村地域なんですが、そこの使っていない古い空き家に1カ月500円で試泊できるというプログラムを実施しました。6軒の家に対して120人くらいの応募があり、最終的に6組×2期の方に体験宿泊をして頂きました。
池本:その後、移住した人はいるんですか?
吉里:12組のうち2組の方が実際に家を買って、移住されました。1組は賃貸です。皆さんたいてい都内にお勤めなので、やっぱり通勤が不安だったりして、1カ月間試すわけです。その結果、「思ったより遠かった」という人と「全然大丈夫だった」という人に分かれたのですが、全体の4分の1くらいは実践に移したことになりますね。
池本:ちょっと意地悪な質問ですけど、海士町の場合はほかとは違う特長があるから、わざわざ住んでみようかなという気になると思うのですが、日本全国どの街もそうした特長を持っているわけではありませんよね。「勝ち組・負け組」と言っては失礼かもしれませんが、移住がうまくいくところ・いかないところが出てくるのではないか、と思うのですが。
山崎:そうだと思いますね。色々な要因があると思いますが、一番大きいのは住民自身が動き出すかどうかだと思います。2015年から世帯数が減っていくという国ですから、住宅地ばかり増やしてもしょうがないし、増やさなかったとしてもこれからどんどん余っていく。ここ20年くらいでゴーストタウン化しているニュータウンもかなりあります。住民自身がちゃんとまちをよくしていこうとしているところは生き残れるでしょうが、住む人がまちにあまり関心を持っていないところは、やっぱりまちの価値が下がってしまいますよね。ですから、これから二極化が始まるんじゃないでしょうか。
池本:ありがとうございます。最後に『ポスト団塊ジュニア考』という、2006年にリクルート住宅総研(現・住まい研究所)が調査したデータをご紹介します。
図1のデータでも、若者であればあるほど、仕事が充実しても家族や友人との時間が持てなければ意味がないという意識が高まっています。いまのお話でいうと、若年層の移住への関心が高まっているのも、つながりが希薄になっていることに対してのアンチテーゼ的な動きとして、捉えられるのかもしれませんね。