住まいの雑学
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青木譲
2014年1月28日 (火)

「リトルワールド」で学ぶ、環境対策も兼ねた寒冷地の伝統的な寒さ対策

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写真撮影:青木譲

世界約30カ国・地域の建物から暮らしを学べる、愛知県犬山市の「野外民族博物館 リトルワールド」。以前、沖縄やアフリカなど熱帯地方の住居に学ぶ暑さ対策をお伝えしたが(https://suumo.jp/journal/2013/06/18/45834/)、今回は冬に雪や氷に覆われる寒冷地の建物から、寒さ対策について紹介したい。特に世界各地に存在する、囲炉裏の灰(スス)や暖炉の熱を利用する家づくりなど、環境対策も兼ねた寒冷地ならではの知恵を学ぼう。

空気の層を持つ素材を屋根や外壁に使った、北国の外断熱住宅

北海道、アイヌの家は、19世紀末の日高地方にあったアイヌ民族の伝統的な家屋を再現。厳しい冬を乗り切る最大の工夫は、屋根や壁全体を覆うように使われた、カヤ(アシの仲間)と呼ばれる植物の茎。1本1本の中が空洞になって空気を閉じ込めているため、束にして外壁の外側に貼っておけば、分厚い空気の層ができ、現在の外断熱と同じような効果があるのだ。
屋根はこのカヤの束を厚く何層も敷き詰めているほか、同じように中が空洞になったガマという植物でつくられたゴザを部屋に敷くなど、四方に空気の壁をつくって生活空間を外の寒さから守っている。ちなみにカヤの内側の外壁には、タモやエンジュなど、硬質の木材を使用し、強風や大雪から家を守っている。

また、屋根にカヤを用いる利点は断熱効果だけではない。室内に設置された囲炉裏の煙が屋根まで立ち上ると、カヤがいぶされてどんどん丈夫になっていく。さらにススが付着することで油分が屋根に浸透し、簡素な素材と造りながら、10年以上長持ちするようになると言う。

「リトルワールド」で学ぶ、環境対策も兼ねた寒冷地の伝統的な寒さ対策

【図1】カヤという植物の空気の層で外気から屋内を守る、断熱工法のアイヌの家(写真撮影:青木譲)

同じく豪雪地帯である山形県月山山麓の農家でも、空気の層を取り込んだワラの屋根が見られるが、こちらも室内の囲炉裏で煙を起こし、屋根材をいぶす効果とススを付着させることで強度が増すと言われている。さらに囲炉裏の炎と煙は室内を暖め、煮炊きに役立ち、煙が虫を追い払うために人体や服の衛生にも効果的だ。カヤやワラに付着しがちな虫を追い払えば、虫を餌にする鳥がつついて屋根を傷めることもなくなるなど、煙には一石三鳥も四鳥もの効果が隠されていたのだ。

「リトルワールド」で学ぶ、環境対策も兼ねた寒冷地の伝統的な寒さ対策

【図2】分厚いワラの屋根が特徴的な月山山麓の家。雪対策の角度にも注目(写真撮影:青木譲)

釜や暖炉の効果を二重、三重に利用する韓国やヨーロッパの知恵

寒さ対策として有名なのが、お隣、韓国のオンドルだ。炉釜の煙をトンネルで建物の床下に誘導し、その熱で部屋全体を下から暖めようというシステムで、元祖床暖房とも言える。リトルワールドにある韓国の地主の家では、オンドル専用の釜も見られるが、通常は食事の煮炊きに使うかまどの煙を利用する、エコなシステムだ。また床には油紙を敷き、煙による一酸化炭素中毒を防ぐなどの工夫もされている。

あわせて韓国では、天井が高い夏の部屋と天井が低く容積が小さな冬の部屋を用意している。季節により暮らす部屋を使い分けることで、暖房効率や断熱効果が最大限となるよう工夫しているのだ。

「リトルワールド」で学ぶ、環境対策も兼ねた寒冷地の伝統的な寒さ対策

【図3】韓国 地主の家の調理場。隣は冬の部屋で、かまどの煙が床下を流れる(写真撮影:青木譲)

かまどの工夫といえばヨーロッパのフランスやイタリアでも見られる。イタリアのアルベロベッロの家には、金属製の火鉢があるが、熱源となるのはアーモンドの殻でできた炭だ。もともとアーモンドの生産が盛んな地方で、お菓子やリキュールに加工したあとの殻は町の共同パン窯に集められる。ここでできた燃えカスの炭を各家庭に持ち帰り、火鉢にくべて暖を取るのだ。

一方山がちなフランス、アルザス地方の家では、台所の壁をくり抜くようにかまどが設置されていて、台所でパイなどを焼くと、その熱が隣のリビングに伝わり、部屋を暖める仕組みになっている。

「リトルワールド」で学ぶ、環境対策も兼ねた寒冷地の伝統的な寒さ対策

【図4】フランス、アルザス地方の家。左が台所の暖炉、右が壁の裏となるリビング。緑のタイル部分が熱を発する(写真撮影:青木譲)

自然素材を活かした空気の層で断熱し、囲炉裏の煙で家を自然と強化していたアイヌや山形県の人々、料理のための熱を利用して生活空間を暖めた韓国やヨーロッパの人々…。厳しい寒さをしのぐだけでなく、廃棄するものや排熱、煙まで無駄なく活用する知恵は、ついエアコンなどに頼りがちな現代人も見習いたい。

最後に、生活場所そのものを夏と冬で変えてしまうアラスカインディアンの工夫を紹介。彼らは夏は数人の家族単位で漁や狩猟に明け暮れ、極寒の冬には一族の数家族が一つの大きな家に集まって暮らしていた。厳しい寒さを乗り切る一番の暖房とは、実は人の温もりなのかも。

【図5】祖霊となる動物のトーテムポールが特徴的な、アラスカ トリンギットの家(撮影:青木譲)

【図5】祖霊となる動物のトーテムポールが特徴的な、アラスカ トリンギットの家(撮影:青木譲)

●野外民族博物館 リトルワールド
HP:http://www.littleworld.jp/
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