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連載今週の住活トピック
やまくみさん正方形
山本 久美子
2012年5月16日 (水)

【今週の住活トピック】竜巻に強い住宅ってあるの?

●今週の気になるニュース3

・つくばと栃木の突風、竜巻と認定。被災1500棟に(気象庁ほか)
藤田スケールF2やF1と想定された竜巻に対して、そもそも住宅は耐えられる構造になっているのか?

・再生可能エネルギーの買い取り価格案、太陽光42円、風力23.1円経済産業省ほか)
今年7月に始まる太陽光などの再生可能エネルギーの全量買い取り制度の価格案が公表。

・東日本大震災 宮城県マンション被害状況報告東京カンテイ「Kantei eye」vol.71
東京カンテイが阪神淡路大震災に続き、東日本大震災のマンションの被害状況を調査。そこから分かった耐震基準や地盤と被害の関係は?

今週の気になるニュースの中から、竜巻による建物被害のニュースを深掘りしてみたいと思う。

このゴールデンウィークに発生した竜巻が、つくば市などで大きな被害を生んだ。住宅が基礎から根こそぎ横転する姿に、脅威を感じた人も多いだろう。そもそも住宅は、こうした竜巻に対してどう備えているのだろうか?

■建築研究所が竜巻被害状況を公表

まず、今回の竜巻により被災された方々にお見舞いを申し上げたい。
さて、独立行政法人建築研究所が5月6~7日に実態調査を行った結果を「茨城県つくば市で発生した竜巻による建築物被害(速報)」として、ホームページで公表している。
これによると、被害に遭った木造建築物では、建物が基礎の底辺が地盤からはがされて裏返しになった事例、建物全体が飛び散っている事例、建物全体が水平に移動した事例があり、なかでも屋根と窓などの開口部が破壊・飛散した事例が多く確認されている。
こうした事例の要因としては、竜巻による強い風圧だけでなく、下から垂直に吹き上げる力が加わったり、水平方向の風圧により構造壁が回転することで柱脚が引き抜かれる力が加わったりしたこと、風圧で建物と基礎とをつなぐ柱脚接合部やアンカーボルトが破壊されたことなどが考えられるとしている。
また、鉄骨造りの建築物では、屋根の破壊や飛散、外壁材の損傷、構造の変形や建物の転倒の事例が、鉄筋コンクリート造りの建築物では、サッシや窓ガラス、ベランダの手すり等の損壊の事例が確認されている。

■木造住宅では屋根がウイークポイント

そもそも住宅は竜巻などの突風にどういった備えをしているのだろうか?180軒以上の住宅・公共建築などを設計している建築家の佐川旭さんに伺った。

「建築基準法などによると、台風については構造壁の配置などの耐風性の基準がありますが、竜巻などの突風についての明確な基準はありません」と佐川さん。ただし、強風によってサッシが変形したり、ガラスが割れたりすることがないように、サッシがどれくらいの風圧に耐えられるかを表す「耐風圧性」(取り付けられる地上の高さ、建物形状、立地条件等によって左右される)については、基準が設けられている。サッシにはS1~S7までの等級があり、一般的な木造住宅であれば1階はS1、1階~2階はS2、2階~3階はS3を使用することになっている(S4以上は高層の建物で使用される)。
「最近ではほとんどの住宅で、階数にかかわらず耐風圧性の高いS2またはS3等級のサッシを使用しています」(佐川さん)。S2は風速44m/s程度、S3は風速50m/s程度の耐風圧性があるとされている。今回の茨城県と栃木県で発生した竜巻は、気象庁によると藤田スケールでF1(約10秒間の平均風速が33~49m/s)~F2(約7秒間の平均風速が50~69m/s)と推定されている。S2~S3等級であればかなり強度があるといえそうだ。

一方、建物自体の構造については、「地震や台風を想定して、横からの圧力や上からの荷重に対しては耐力がありますが、竜巻のような下から吹き上げたり、回り込む圧力については、あまり想定されていません。」それでも、「阪神淡路大震災以降、一般の木造住宅でもホールダウン金物が使われるようになったので、柱脚を引き抜く力にも強くなっています。」ホールダウン金物は、1階では基礎や土台と柱を、2階・3階では上下階の柱と柱、あるいは柱と梁に取り付ける補強金物。地震や台風の際、柱が土台や梁から抜けるのを防ぐのに効果を発揮する。ただし、小屋裏にまでは使われていないので、屋根については弱さが残るということだ。

一般の木造住宅で、建築基準法以上の等級のサッシやホールダウン金物による基礎や柱の接合などが施されていれば、屋根に弱点は残るものの、竜巻のような突風にも一定の耐力を確保できるということのようだ。

■最近の集合住宅ではサッシまわりの強度もアップ

今回の竜巻では、建物自体に重さがある鉄筋コンクリート造りの建築物で、構造上の損壊は見られず、サッシまわりに大きな被害が出ている。「ベランダの手すりが格子状の柵だったために、風を受け止めることができず、風圧が直接サッシを直撃したことが考えられます。窓ガラスも古い集合住宅の場合はシングルガラスであることが想定されるので、それらによって大きな被害につながった可能性が高いでしょう」(佐川さん)。
最近の集合住宅は、ベランダがコンクリートの立ち上がりでおおわれていたり、重くて強度のある複層ガラスのサッシを使用するケースが増えているので、こうした施工であれば、竜巻などによる被害は少ないと考えられそうだ。

被災した住宅や家財の修復等の費用については、原則として建物や家財の火災保険に加入していれば、風災を対象外としていない限り保険の対象になる。また、国が「災害救助法」の適用を決めた市町では、生活再建支援や見舞金、住宅再建費用などが支給されることになった。
こうした再建支援があったとしても、住宅が竜巻に遭っても損傷しないに越したことはない。日本では大型の竜巻が発生する頻度は多くなかったが、今後は耐風性についても注目する必要があるかもしれない。

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