これからの住まい・暮らし
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佐野 勝大
2013年8月6日 (火)

未来の介護&保育のカタチ!?「共生型福祉施設」とは

「ボーナビール二本松」で行われた「たい焼きイベント」の様子(写真提供:ボーナビール二本松)
写真提供:ボーナビール二本松

まだどの国も経験したことのない、超高齢社会を迎えた日本。高齢者の快適な暮らしをサポートするさまざまな施設が存在するが、なかでも近年注目が高まりつつあるのが「共生型福祉施設」だ。どのような施設で、どんなことが行われているのか実際に見学に行ってみた。

「共生型福祉施設」は、世代を超えて高齢者と子どもが触れ合える場

「共生型福祉施設」とは、年齢や障がいの有無にかかわらず地域に開かれた横断的な利用が可能な、地元に根ざした支え合いを行う施設のこと。高齢者向けマンションと一般向けマンションで構成される賃貸集合住宅から介護施設と保育園の複合施設まで、実にさまざまなスタイルが存在する。

そんな「共生型福祉施設」のひとつで、同じ敷地内に保育園を構え、介護保険制度がスタートした2000年から多世代交流に力を注いできた特別養護老人ホーム「ボーナビール二本松」の取り組みを紹介しよう。

ボーナビール二本松

【図1】神奈川県相模原市にある特別養護老人ホーム「ボーナビール二本松」

ボーナビール二本松

【図2】「ボーナビール二本松」に併設されている「二本松保育園」(写真提供:「ボーナビール二本松」)

デイサービスやショートステイも実施しているこちらのホームでは、利用者や入居者が、園児たちと盛んに交流している。塗り絵や手遊び歌といった高齢者のレクリエーションに園児が参加したり、各フロアを回って園児が高齢者に歌を披露したりする機会を積極的に設けているのだ。

「先日は、たい焼き屋さんを呼んで、たい焼きを一緒に食べるイベントを開催しました。小さな子どもと接するだけで、高齢者の方々の表情はいつも以上に柔らかくなるんですよ」と、総務課の秋本和成さんは言う。

「保育園の子どもたちだけでなく、近隣の小中学校とも積極的に交流を図っています。年に3回ほど、小学生がホームを訪れてくれて歌やダンスを披露。また毎年、中学生の体験学習の受け入れも行っています」(秋本さん)

「ボーナビール二本松」には、認知症の方をはじめ要介護度が高い高齢者も多数入居。高齢者の安全を守るためにも、保育園や学校のスタッフと何度も段取りを確認するなど綿密な準備が必要となる。介護現場は、日々の業務だけでも大変なはず。それにもかかわらず、世代を超えた交流に力を注ぐ理由について、副施設長の毛利智恵子さんは次のように語ってくれた。

「地域社会では、お年寄りから子どもまでさまざまな世代が関わり合いを持ちながら暮らしています。ホームだからといって、そういった交流がないのは不自然。私たちは、当たり前のことを当たり前にしているだけなのです」(毛利さん)

ボーナビール二本松

【図3】子どもたちと触れ合うと、高齢者の方々の口元が自然と緩む(写真提供:「ボーナビール二本松」)

ボーナビール二本松

【図4】ホーム内にはステージが設置されており、ここで子どもたちが歌を披露することも

介護や育児サービスが受けられる場から、将来的には地域交流の場へ

少子高齢化で地域社会の人間関係が希薄になってしまった今、「共生型福祉施設」は将来的に地元コミュニティの中心的役割を担える場として脚光を浴びつつある。

厚生労働省も、高齢者や障がい者、子どもなどが共に利用できる「宅幼老所(地域共生型サービス)」の推進に注力。厚生労働省 老健局によると、「『富山型デイサービス』の広がりによって、こういった複合施設への注目が高まってきた」という。

「『富山型デイサービス』とは、小規模で家庭的な雰囲気の中で高齢者や障がい者や子どもなど一人ひとりの生活リズムに合わせて柔軟なサービスを提供する施設のこと。
これまではデイサービスや知的障害者などに指定サービスを行うためには、それぞれにクリアしなければならない法律上の要件がありましたが、富山に推進特区が設けられ、その後規制緩和により全国に広がっていきました。
統計があるわけではありませんが、『富山型デイサービス』の普及によって広がりを見せてきた『共生型福祉施設』は今後も広がっていくことが予測されるでしょう」(厚生労働省 老健局)

では、「共生型福祉施設」のメリットは何なんだろう?
「高齢者の方々は、子どもと触れ合うことで『何かしてあげたい』と自分の役割を見つけるようになり、日常生活の改善が促進されます。食事中に自分のお椀のフタが取れなかった認知症の高齢者が、隣に座る子どものお椀のフタをとってあげるようになったという報告もあります」(厚生労働省 老健局)

効果があるのは、施設を利用する高齢者だけではない。子どもたちにも、お年寄りや障がい者などへの思いやりやいたわりの心を育めるという好影響が期待できるのだという。

高齢者にも子どもたちにもメリットがある「共生型福祉施設」。これまでは高齢者は介護施設という施設のなかでケアされる対象だった。しかし介護施設や保育園、託児所、児童クラブなどが1カ所にあれば、その家族が自然と集まり、子供の教育や地域での見守り、コミュニケーションの拠点となり、地域に根ざしたコミュニティスペースとして機能しそうだ。街のコミュニティの中心は「共生型福祉施設」、となる日もそう遠くないかもしれない。

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