音楽ホテルから学ぶ”選択肢の尺度の変え方”

僕らが物事を何か選択するとき、何を基準にするでしょうか。

例えば、レストランなら美味しい料理や空間、内装、ホスピタリティだったりするでしょう。PCならスペックやデザイン、価格といった具合にです。しかし、それはかなり画一化されてきて、差別化を見出すことがとても難しくなりました。だからこそ、クチコミの有効性が高まっているのが今です。音楽も同じかもしれません。

提供側はそうなってくると、やはりプロダクトであれ、マーケティングであれ差別化を生み出そうと考えます。しかし、それは往々にして消費者や生活者と大きなギャップがあることがあります。例えば、はさみの新商品があったとして、あなたはこうプレゼンされるわけです。

「このはさみは特別な刃を使っていて、それは世界でも希少なものです。切れ味は従来より10%も向上しています」

もし、こう言われたとしてもぶっちゃけ僕らには違いがわかりません。
ある程度問題なく切れれば、はさみとしては問題ないですし、切れ味10%向上と言われても違いがわかりません。

同時にもったいなと思うのは、自分が戦うフィールドを間違っていることです。はさみ業界の中で勝負するよりも、違う付加価値を生み出し、選択肢の尺度を変えるほうがいまは成功の可能性がとても高まります

ひとつ素晴らしいホテルの事例を紹介します。

◆ベルリンにある音楽ホテル

ホテルも先に挙げたように選択肢の尺度はだいたい、立地、価格、ブランドではないでしょうか。(厳密に言えばもっとあるわけですが)

その中で戦っても消費者がホテルを選ぶ理由を見出すことは簡単ではありません。ベッドのクオリティが高かろうが、有名なシェフが料理を振る舞おうが、それは他のホテルでも同じように展開しているので、USPにはなりません。

消費者がそのホテルを選ぶ理由を作り出すことが重要なのです。

ベルリンにある”nhow”は欧州初の音楽ホテルと言われており、名曲タイトルに拘っています。ホテル内の場所やツールと曲名が絶妙にリンクしており、音楽好きにはたまらないホテルです。
(参考:「音楽ホテル」というアイデア/Campaign Otakuから抜粋)

ドアには、”Push it. Push it real good.”(Salt n’ Peppa)。

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テラスへと続く階段には”Stairway to Heaven”(Led Zeppelin)

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エレベータには”Love in an Elevator”(Aero Smith) 20140723185406

通路表示は”Walk this Way”(RUN DMC)

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1F エレベーターホール。 “One More Time”(Daft Punk)

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“Don’t disturb”が”Enjoy the Silence”(Depeche Mode) 20140723192225

フロントへの電話は”Call me maybe”(Carly Rae Jepsen)

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現在、睡眠特化型ホテルなど差別化を生み出そうとするホテル業界の中の戦いの中で、このアイデアは極めてコンテクスト的に美しいです。

まずこのホテルは、ユニバーサルミュージックとMTV Europeの並びにあるからこそ、音楽ホテルなわけです。

そして、ターゲットが極めて明確です。音楽ファンであればベルリンに訪れたなら誰しも泊まってみたいと思うのではないでしょうか。

部屋の中の照明スウィッチは”All of the Lights”(Kanye West)

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少なくとも音楽ファンにはこの”nhow”は泊まってみたいと思わせる理由があります。
ベッドのクオリティやシェフの知名度など他のホテルと同じ視点での戦いにはなっていません。

なぜなら、選択肢の尺度を変えた、からです。

◆音楽を媒介とするホテルマーケティング

ベルリンにある”nhow”は音楽を媒介として成功したマーケティング事例です。
また、見て頂ければわかるように、あらゆるアーティストが配置されているので
多くの音楽ファンをターゲットとして設定することが出来ます。

そして、なにより素晴らしいのがホテル内でギターのルームサービスもあったり、
このホテルに表示されている全ての曲が入ったSpotifyのPlaylistも用意されている点です。

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ここが接合点としてあるからこそ、うまく機能しているといえます。
リアルの音楽を媒介としたクリエイティブとコンセプトで伝えつつ、音源へも落とすやり方が秀逸です。

ルームサービスに音楽があるなんてとても素敵なことですし、”nhow”に泊まったお客様はこの世界観の中に身を委ねることで、確実に空気づくりが完成されているはずです。
(空間演出から空気づくりを生み出す天才はテーマパークです)

だとしたら、ホテルの至る所にあるアーティスト/音楽が流れていても全く違和感がなく、むしろその音楽をファンでなくとも聴きたいと思う世界が完成されていますし、新しいファンを”nhow”から作り出すことが出来ます。

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このように、選択肢の尺度の変え方というのはまだ多くの可能性が眠っています
ダンスがうまい中で勝負するのか、日本初という中で勝負するのか、一般消費者の目線になってどれがいちばん数多くある楽しい物の中で、音楽やアーティストに時間を頂くのが難しい今、選択肢の尺度の変え方をプランニングするマーケティングは必要となってくるのではないでしょうか。

とりあえず僕はこのベルリンのホテルに泊まりたくて仕方ありません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。