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マイナス金利下の住宅ローン選び
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大森 広司
2016年3月17日 (木)

マイナス金利時代の住宅ローン[1] 変動と固定、結局どれだけ違うの?

マイナス金利時代の住宅ローン[1]変動と固定、結局どれだけ違うの?
写真:iStock / thinkstock
日銀がマイナス金利政策を導入して以来、住宅ローン金利が低下してきている。まさか住宅ローン金利までマイナスになることはないと思うが、これだけ低金利だと金利選びもこれまでの常識が通用しなくなりそうだ。

マイナス金利導入で固定型金利が大きくダウン

住宅ローン金利は今年に入ってまず変動型が引き下げられ、都市銀行の適用金利が0.6%台となった。これは銀行間の金利競争によるものだが、その後に日銀がマイナス金利導入を発表すると、固定期間が長めの金利が低下。10年固定型は3月に都市銀行が0.8%で並び、信託銀行は変動型より低い0.5%台を打ち出した。さらに固定型のフラット35金利も3カ月連続で下がり、3月の最低金利(返済期間21年以上、融資率9割以下)が1.25%と過去最低を更新している。

【図1】住宅ローン金利の推移(オイコス調べ)

【図1】住宅ローン金利の推移(オイコス調べ)

金利引き下げの動きはここ数年ずっと続いているが、特に最近は固定型や10年固定型の低下が大きい。2年前の2014年1月時点では固定型と変動型の金利差は1%以上、10年固定型と変動型では0.7%以上あった。だが現在では固定型と変動型が0.6%強、10年固定型と変動型では0.2%もない。

固定型と変動型の差額を貯蓄しても効果は小さい!?

2年前のように固定型と変動型で1%以上の金利差があると、「固定型で借りるつもりで住宅ローンを組み、実際に借りるときは変動型で」という借り方がオススメだった。低金利の変動型で借りると返済額が軽くなるので、浮いた分を貯蓄して繰り上げ返済すれば、金利上昇のリスクも抑えられるという寸法だ。

だが、固定型の金利低下でこうした組み方の効果が小さくなってしまった。例えば3000万円を35年返済で借りた場合、変動型の場合(金利0.625%)の毎月返済額は7万9544円で、フラット35の場合(金利1.25%)は8万8225円なので、その差は9000円弱だ。この差額を貯蓄したとして、5年間で52万円ほどしか貯まらない。この程度の差であれば、最初から金利上昇リスクのないフラット35を借りたほうが手間をはぶけると考える人も少なくないだろう。

ちなみに10年固定型(金利0.8%)だと変動型との差はさらに小さく、毎月2400円ほどしかない。ただし都市銀行では11年目以降の金利引き下げ幅が縮小されるタイプが多い。11年目からも10年固定型で借り続けた場合、店頭金利が上がらなくても11年目からの適用金利が上がり、フラット35より高くなるので注意しよう。下の例では毎月返済額が9万円台にアップする。

【図2】金利タイプによる返済額の比較(筆者作成)

【図2】金利タイプによる返済額の比較(筆者作成)

保証料や保険料など諸費用の差にも注意が必要

金利の差が小さいと返済額の差も小さくなるが、トータルの支払額には意外と差がつく点には注意が必要だ。というのも、借りるときの手数料や保証料、団体信用生命保険(団信)の保険料がローンによって異なるからだ。

都市銀行の住宅ローンは手数料が数万円と少なく、保証料が数十万円かかるケースが多い。上の例では手数料と保証料を合わせて65万円ほどだ。保証料は一括払いが一般的だが、金利に0.2%上乗せして毎月払う方法もある。団信保険料は金利に含まれるので別途支払う必要はない。

これに対し、フラット35は手数料が定額のタイプと、借入額に一定の割合をかける定率のタイプがあり、どちらかを選べる金融機関が多い。定額タイプは手数料が少額だが金利が高め、定率タイプは金利が低いが手数料が多くなる。また団信への加入が任意となり、加入する場合は保険料を毎年払う必要がある。この保険料がかなり大きく、35年返済の場合は借入額1000万円当たり68万円強だ。

これらの諸費用を含めた35年間の総支払額で比べると、変動型とフラット35では約536万円の差になる計算だ。10年固定型とフラット35では、10年固定型のほうが11年目からの返済額が多いにもかかわらず、総支払額ではフラット35のほうが190万円以上多くなる。

今のような超低金利だと金利のわずかな違いに目を奪われがちだが、こうした諸費用の差にも注意を払う必要があるだろう。

【図3】手数料や保証料なども含めた総支払額の比較(筆者作成)

【図3】手数料や保証料なども含めた総支払額の比較(筆者作成)

金利が上がると総支払額がフラット35より多くなる

ここまでは将来にわたって金利が変わらない前提で比較してきたが、金利が上がった場合はどうか。日銀の黒田総裁は「必要ならさらに金利を引き下げる」と公言しており、住宅ローン金利がさらに下がる可能性はあるが、いずれ総裁の狙いどおりデフレから脱却できれば金利は上昇に転じるはずだ。

まず5年後(6年目)に金利が1%上がった場合を考えてみよう。変動型は金利も返済額もフラット35を上回り、6年目から9万円台にアップする。10年固定型は6年目では金利が変らないが、11年目には金利引き下げ幅も縮小されるので、10年固定型のままだと返済額が10万円台にアップ。このように金利上昇で返済額がアップする場合、変動型には直前の1.25倍までという上限があるが、固定期間選択型にはそうしたルールがないので、負担が急増するリスクがある。総支払額では変動型はまだフラット35より100万円ほど少ないが、10年固定型はフラット35より137万円近く多くなる。

【図4】5年後(6年目)に金利が1%アップしたら(筆者作成)

【図4】5年後(6年目)に金利が1%アップしたら(筆者作成)

さらに10年後にも1%上がったらどうか。11年目以降の返済額は変動型が10万円台、10年固定型が11万円台となり、総支払額はいずれもフラット35を上回る。特に10年固定型は11年目から返済額が3万円以上増えるので、家計へのダメージは小さくないだろう。

【図5】5年後と10年後に金利が1%アップしたら(筆者作成)

【図5】5年後と10年後に金利が1%アップしたら(筆者作成)

金利が3%台というとかなり高く非現実的にさえ感じるかもしれないが、今から10年前はフラット35の金利が3%前後だったのだから、決してあり得ない金利ではない。マイナス金利が現実のものとなった今だからこそ、将来の金利上昇も見据えた資金計画が求められるのだ。

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マイナス金利下の住宅ローン選び マイナス金利政策導入で、どんどん低下する 住宅ローン金利。これまでの常識だけでは通 用しない、低金利時代ならではの選び方を紹 介します。
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