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背後から飛びかかる人を振り向かずにいなした「格闘技の神様」

 最強の男は誰か。そのテーマについて考えるとき、たいていの場合は屈強な姿の男達を思い浮かべるだろう。しかし、ここで紹介するのはそういった予想を裏切る、華奢な、しかし最強と呼ぶにふさわしい男である。

 身長1メートル54センチ、体重45キロという小柄な体格ながら、柔道家やボクサーら屈強な男たちを瞬時に投げ飛ばす。戦後、その神業で合気道を世に広めたのが塩田剛三である。

 警視庁は1964年、機動隊合気道専修制度を発足し、既に名を馳せていた塩田に直接教えを請うた。機動隊の猛者達は塩田を「格闘技の神様」と称え、研修は塩田の死後の今も続いている。

 1968年に内弟子となり、現在、塩田が創設した道場、合気道養神館(東京・新宿区)の最高師範を務める竹野高文氏が語る。

「警察官にもプライドがありますから、最初は小柄な塩田先生の合気道に疑問を持っていました。そこで、警察官の中でも柔剣道の大会でチャンピオンとなった連中と模範試合をしたのですが、塩田先生が次々に投げ飛ばすので瞬時に賞賛へと変わったのです」

 塩田の研ぎ澄まされた五感に驚嘆した出来事を竹野氏が語る。

「恐れ知らずの道場見学者が、背後から急に飛びかかり羽交い絞めしようとしたんです。先生は振り向きもせず、すっと体を前に出していなした。その見学者は前のめりに倒れていました」

 塩田の名が知られるようになったのは、1962年に来日したロバート・ケネディ夫妻の前で演武を披露したことだ。ケネディ氏の要望で1メートル97センチのボディ・ガードと手合せする。塩田は正座したままであるが、掴みかかるボディ・ガードの関節を瞬時に決めて床に取り押さえてしまったのだ。この様子は日本テレビが撮影しており、映像として今も残っている。

※週刊ポスト2013年3月22日号

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