引越しするとき仏壇や神棚を他の家具などと同じように動かしてはいけないなどというと、驚く人もいるかもしれない。ただ仏壇や神棚にはご先祖の霊や仏さま、神さまが宿っておられると考えれば、いいかげんにはできないと考えるのが普通だろう。そこで今回は知らない人も多い、神仏具の引越し作法を紹介しよう。
仏壇や神棚の引越しといっても、ほかの荷物と同様にトラックに乗せて運ぶことにかわりはない。
僧侶や神職の中にも、ご先祖さまや神様を大切にする気持ちがあれば、とくに何もしなくても問題はないというひともいる。
しかし、やはり引越しの作法があるということは知っておいたほうがいいだろう。では仏壇の引越し作法とは、どんなものなのか。
「引越する前に、まずお寺にお願いしてお坊さんに来てもらい、仏壇に安置されていてご先祖様の霊を守ってくださる仏像と、ご先祖様の位牌、そして仏壇から精(しょう)を抜きます。檀家になっているお寺があったら、そこにお願いするのがいちばんいいでしょう」
そう話すのは筆者の菩提寺である曹洞宗・光真寺(名古屋市昭和区)の中島康邦住職だ。
精とは、そこに宿っている霊的な存在とでもいえばいいだろうか。宗派によっては「魂」と呼ぶ場合もあるようだ。位牌ならそこに宿っているご先祖様の霊ということになる。
「精を抜くことによって、仏像も位牌も仏壇も、ただのモノにもどります。ですから仏壇はほかの家具といっしょに運んでかまいません。位牌や仏像などは手荷物といっしょに別に運んだほうがいいかもしれませんね」(中島氏)
新居についたら仏壇の中に位牌と仏像を前のように安置し、今度は精を入れてもらう。
「これも精を抜いてもらったお寺さんにお願いするのが普通ですね。遠くへ引越すときは、事前にお願いしておけば、精を抜いてもらったお寺さんから同じ宗派のお寺さんに連絡してきてもらうこともできます」(中島氏)
これがもっとも丁寧な仏壇の引越し作法ということになる。
神棚の作法も同様で、神棚の場合は神主さんにお願いすればいい。
また精を抜いたり入れたりするのは、引越しだけでなく、古くなった仏壇や神棚を廃棄する際の正式な作法とされているし(この場合は精を抜くだけ)、お墓に戒名を入れたり、修理したりする際にも行われるので覚えておいたほうがいいだろう。
仏壇や神棚の引越しをここまで丁寧にやるかどうかは、あなたしだい。精抜き、精入れの際にはお寺さんにお布施も必要だし、遠距離の引越しなら精抜き、精入れを別のお寺に頼む必要もある。経済的に厳しかったり、急な引越しで段取りが間に合わないような場合は、しっかりと手を合わせることだけは忘れないようにしたい。