街・地域
murayama
村島正彦
2014年10月30日 (木)

空き家バンクの活用、定住促進を目論む武雄市の次なる施策とは?

空き家バンクの活用、定住促進を目論む武雄市の次なる施策とは?(写真:武雄市)
写真:武雄市

佐賀県武雄市の取り組みについて、TSUTAYAによる武雄市図書館の運営(https://suumo.jp/journal/2014/09/19/69585/)、反転授業や官民一体型学校の導入などの教育改革(https://suumo.jp/journal/2014/10/16/71322/)と紹介した。いずれも8年前(2006年)に当時全国最年少で当選した樋渡啓祐市長の、慣例にとらわれない市政改革の一環として進められてきた。

市長発案の取り組みとしてユニークなのが、市役所の部・課に新しい名前を冠して、市の取り組みを市民やマスコミに印象づけようという試みだ。先に紹介した教育改革を担うスマイル学習課やつながる部フェィスブック・シティ課(市のFacebookページ運営や広報担当)、営業部いのしし課(「いのしし」に関する被害対策と商品開発に取り組む)、お結び課(結婚を望む独身男女の縁結びを取り持つ)などだ。

今年4月、市の機構改革でつながる部に新たに「お住もう課」が誕生した。その名前から分かるとおり、武雄市への定住促進に取り組む部署だ。

温泉や図書館で培われた知名度をバネに移住・定住を促進

お住もう課の菰田康彦さんは「観光資源である武雄温泉や、昨年改装オープンした武雄市図書館をはじめとした行政の取り組みもあり、武雄市の知名度も上がってきました。これまでは、観光や行政視察など交流人口の増加を実現してきました。お住もう課では、市外から武雄市に移住してもらう定住促進に積極的に取り組むため、この春に市長発案で発足しました」と語る。これまでも、市民協働課で「空き家バンク」を地元NPOの協力を得るなどして運営してきたが、これをてこ入れするものだ。

菰田さんが、武雄市に移住してきて欲しいと考えるのは「いろんなバックグランドを持った人々。武雄に住んでお互い影響・化学反応を起こして、武雄を魅力的にしてくれる人です。移住者の数ではなくて質を目標にしています」と話す。何でも興味を持ってやってみようという若い人や、自ら起業しようという人たちを支援したいという。そのため、お住もう課が担うのは、「定住支援」ばかりでなく「起業支援」も併せて行うという。

9月19日には、武雄への移住経験者、不動産事業者など8名の定住支援員(通称:お住もうさん)の委嘱とその宣言式を武雄市図書館で行った。定住支援員には、地元商工会議所・商工会からも就任してもらい、起業のサポートも行う。このほか、お住もう課には「お住もうコンシェルジュ」を配置して、武雄市への移住希望者に対して、その希望や質問に回答するほか、移住実現までの情報提供やサポートを行う。

【画像1】定住支援員(お住もうさん)に委嘱された移住経験者ら、お住もうコンシェルジュと樋渡啓祐市長(右から3人目)(写真:武雄市)

【画像1】定住支援員(お住もうさん)に委嘱された移住経験者ら、お住もうコンシェルジュと樋渡啓祐市長(右から3人目)(写真:武雄市)

これに加えて、特設ホームページ「お住もう部屋」を開設した。武雄市の不動産物件情報や、市の行う定住支援策などを紹介する。また、既に武雄へ移住した人の声を動画で配信する。

【画像2】「お相撲さん」をキャラクターにした「お住もう課」特設サイト(出典:武雄市お住もう課)

【画像2】「お相撲さん」をキャラクターにした「お住もう課」特設サイト(出典:武雄市お住もう課)

教育改革が魅力となって移住の問い合わせも

当面の課題としては、移住者を受け入れる住宅だ。移住者は賃貸アパートか空き家が検討の対象になるが、市内でも町部と周辺部には差があり、いずれも周辺部には少ないのが実情だ。

武雄市では7年前に空き家バンクを立ち上げた。職員が空き家調査をして持ち主に確認するなどして、空き家バンクへの登録を促したりしているという。調査によると、現在空き家は546軒。そのうち458軒は居住可能な空き家だと見込んでいるという。ただ、農家などの空き家では、移住者にとっては広すぎるなどのマッチング面での課題もあるようだ。

菰田さんによると「武雄市の教育改革が話題になったことで、全国から問い合わせが来ています。近県だけではなく、東京や北海道からも問い合わせがありました」と打ち明ける。反転授業や官民一体型学校の取り組みの反響は大きいようだ。子育て世代以外にも、シニア層では、武雄で陶芸をやりながら田舎暮らしを楽しみたいといったニーズもあるという。

田舎への活力ある若者の移住には、IT企業の誘致に成功した徳島県神山町や、島根県海士町、大分県竹田市などが成功例として知られている。そのうえで「いろいろな方法で情報発信していくことが大切だと考えています。最終的には、移住希望者の決意に委ねるしかありませんから、行政としては図書館や新しい教育の取り組みなど魅力的なまちにして、それを発信する。併せて移住者に対して隣近所を紹介するなど住民同士の繋がりをサポートするなど、地域としておもてなしできる体制づくりを行っていくつもりです」(菰田さん)と意気込みを語る。

【画像3】1年前に沖縄県石垣島から妻と娘と移住してきた井口聖人さん。空き家バンクにも登録したが、今の住まいである民家は地元の人からの紹介で決まった。カフェの起業を準備中だ(写真:武雄市)

【画像3】1年前に沖縄県石垣島から妻と娘と移住してきた井口聖人さん。空き家バンクにも登録したが、今の住まいである民家は地元の人からの紹介で決まった。カフェの起業を準備中だ(写真:武雄市)

次回は、地域おこし協力隊として東京都から武雄市に移住して活躍している女性を紹介します。

●「お住もう部屋」武雄市
HP:http://www.city.takeo.lg.jp/osumou/
前の記事 野菜の無料配布? 東京農業大学の『収穫祭』に迫る
次の記事 練馬区が開設する「農の学校」で、本格的に農業を学ぼう
SUUMOで住まいを探してみよう