Eur-Asia

西洋と東洋の融合をテーマとした美術展「ユーラシア(Eur-Asia)」の開催を夢見る、キュレーター渡辺真也によるブログ。

メイプルソープ事件の最高裁判決に思う

2008-02-19 13:42:11 | Weblog
メイプルソープの写真集に関する最高裁判決があった。そして、最高裁での判決は、二審を破棄、わいせつ書籍に当たらない、という判決であった。

私には、忘れられない記憶がある。高校2年生の頃、わずかばかりのお小遣いを使って、静岡から早朝発の鈍行列車に乗って、新宿のデパートでやっていたメイプルソープ展を見に行った。確か、パティ・スミスやテレヴィジョン(ロックバンドの方です)、ウォーホルの流れでメイプルソープに興味が湧き、見に行ったのだ。そして、そのデパートでの展示を見て、素直に綺麗な写真だと思った。そして、メイプルソープがアメリカで何故スキャンダラスな扱いを受けていたのか、理解に苦しんだ記憶がある。

そして高校3年生になる春休みの頃、親にワガママを随分と言って、半ば無理やりイギリスに一週間、旅行させてもらった。当時の私はTrainspottingという映画にハマっていて、どうしてもエディンバラとロンドンを見ずにはいられなくなってしまったのだ。

その旅の帰り、何気なくフライトまでの暇つぶしに、とヒースロー空港の本屋さんにあった美術コーナーへと向かった。そこでたまたまメイプルソープの写真集を見たのだが、大変な衝撃を受けた!新宿のデパートで展示されているのとはまるで異なった作品が、その本には納められていた!男性器にナイフを突き立てている様な写真には、正直度肝を抜かれた。

その後日本に帰国して調べてみて、日本の税関でメイプルソープを猥褻物だと判断され本を没収された人が不服に思い、裁判を起こしている、というケースがあることを知った。そして私は、その驚きを当時開設したばかりのホームページにアップした記憶がある。その文脈は、いくら何でも猥褻物として禁止しなくても良いではないか、そんな語り口だった。私はいまでもそう思う。いくら何でも、世界標準の美術品に対して猥褻物とは・・・そして、この税関の行為に対して不服に思った人は、メイプルソープの芸術性を守る為に最後まで戦ったのではないか、そう思う。

しかし、猥褻物の裁判が最高裁で覆されたのは、とても画期的なことだと思う。日本の司法制度も、時流に合わせて変化したということだろうか。または、世界の美術館が美術品として収集しているものを猥褻物と認定してしまったことに、何らかの後悔があったのかもしれない。

また、これは私の勝手な意見だが、日本の税関の役員は、性器を出している、ということが猥褻だと思ったのではなく、普段見慣れていない黒人の性器を見た際に。「猥褻物」だと勝手に判断してしまったのではないか、と勘ぐってしまう。この税関役員は、日本の舞踏ダンサーが性器を露出したものであっても、全く同じ対応をしただろうか?もし私の立てた仮説が当たっているとしたら、それは紛れもない黒人差別である。この税関役員は、国家公務員という役職において、しかも国際空港という場でそういった差別的行為をしたことに対して、何らかの処罰を受けるべきではないか、と私は考える。

ちなみに以前ブログに書いた、現在ベニス・ビエンナーレのパフォーマンス・アート部門のディレクターを務めるイスマエル・イボさんは、メイプルソープの写真の最後のモデルである。イボさんも初めてメイプルソープのスタジオで黒人のMale Nudeを見た際には衝撃を受けた、という話は、とても興味深いものであった。80年代のニューヨークが見てみたい気がする。

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わいせつに当たらず メイプルソープ写真集で最高裁判決

2月19日11時41分配信 産経新聞

 男性器の写真が掲載された米国の写真家、ロバート・メイプルソープ氏の写真集が、輸入禁止のわいせつ書籍に当たるかが争われた訴訟の上告審判決が19日、最高裁第3小法廷であった。那須弘平裁判長は、税関の輸入禁止処分を認めた2審東京高裁判決を破棄、わいせつ書籍に当たらないと判断し、税関の処分を取り消した。判決は裁判官4人の多数意見。

 最高裁が、下級審のわいせつ書籍認定を否定するのは、過去に例がないとみられる。

 那須裁判長は、写真集について「メイプルソープ氏の写真芸術の全体像を概観するもの」と判断。また、芸術的な観点から編集されていることや、384ページの写真集のうち、男性器の写真は19ページにとどまっていることなどを総合的に考慮し、写真集は性欲を刺激するようなわいせつ書籍に当たらないと結論づけた。

 堀籠幸男裁判官は「性器が露骨に画面中央に大きく配置されている場合は、その写真がわいせつ物に当たることは刑事裁判実務で確立された運用。この写真集の一部写真にわいせつ性があることは否定できない」と反対意見を述べた。

 問題となった写真集は「MAPPLETHORPE」。米国の著名な出版社が発行し、国内では原告の男性の会社が平成6年に販売を始めた。約900部が売れ、国会図書館にも収蔵されている。

 判決によると、男性は11年、国内で出版したこの写真集を米国に持ち出した後、再び国内に持ち込もうとした際、成田空港の税関で、関税定率法に基づく輸入禁止品に当たるとされた。

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