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榎並 紀行(やじろべえ)
2014年8月21日 (木)

ものづくりで被災地の産業をつむぐ、陸前高田発「KUMIKI プロジェクト」が始動

被災地でつくる新しい家具キット「KUMIKIプロジェクト」の桑原さんと飯石さん ※写真撮影:筆者
写真撮影:筆者

玩具のブロックを組み立てるように、木と木を組み合わせてつくる。そんな家具が評判を呼んでいる「KUMIKI(組み木)」と銘打たれたそのプロジェクトの仕掛け人は、岩手県陸前高田市に拠点を置く株式会社紬(つむぎ)の桑原憂貴さん。東北の山から切り出した国産杉を使い、被災地でつくる「KUMIKI」のプロダクトで、復興の地に新たな活力を生み出そうと模索している。
ものづくりを通じて地元の産業や絆をつむぐ、プロジェクトの展望を取材した。

組み立て、組み換える。まったく新しい家具キット

「KUMIKI」は、既製品にはない“つくる楽しみ”が味わえる組み立て式の家具キットだ。あらかじめちょうどいいサイズにカットされた木材パーツ同士をはめ込むだけなので、DIYの心得がなくても簡単に組み立てられる。今年6月にモニター販売した製品第一弾のローテーブル(1万9800円)と、スツール(1万6500円)は完売(現在は数量限定で予約販売中)。いずれもシンプルで飽きのこないデザインがウケている。

ものづくりで被災地の産業をつむぐ、陸前高田発「KUMIKI プロジェクト」が始動

【画像1】KUMIKIローテーブル(1万5000円 ※送料込・税別)。凹凸になったジョイントをはめ込むだけでOK。特別な工具も不要で簡単につくれる(画像提供:株式会社紬)

「各パーツにはある程度の汎用性を持たせているので、将来的には組みかえることで別の家具にリメイクすることも可能です。例えば、スツールの天板を長い板に交換すれば子ども用の小さな机にもなります。
現在はシンプルなアイテムのみですが、今後はデザインのバリエーションも増やしていく予定。ゆくゆくは、例えば『ベビーベッド』から『お絵かき机』や『勉強机』にリメイクできるような、“子どもの成長に合わせて組み変えられる”製品も展開していきたいですね。組み換え用のパーツ類や、組み換えの事例を紹介するレシピみたいなものも提案していくつもりです」(桑原さん)

不要になったら捨てるのではなく、組み換えて、あるいはパーツを継ぎ足して使い続ける。傷がついても自分で修繕する。家族の歴史とともに変化しながら時を重ねる家具は、モノを大切に使うことの尊さを改めて思い出させてくれる。

ものづくりで被災地の産業をつむぐ、陸前高田発「KUMIKI プロジェクト」が始動

【画像2】木のしつらえを活かしたシンプルなスツール(1万3000円 ※送料込・税別)。接着剤を使わないため、パーツを組みかえて他の家具に変形することもできる(画像提供:株式会社紬)

今後はベッドなどの大型家具、さらにはリビングの枠を超え「小屋」や「スモールハウス」といった“建物”もラインナップに加えていく予定だという。

「じつは被災地には、KUMIKIの仕組みを使った集会所がすでに建っています。昨年6月には陸前高田市に、今年2月には石巻市に、地元住民にご参加いただきみんなでつくり上げたものです。基本的には基礎の上から木材ブロックを積み上げるだけなので、特別な技術は必要ありません。組み上げた後は外から防腐塗料を塗れば完成です。この仕組みをさらにブラッシュアップし、いずれは自分で組み立てられる『DIY型スモールハウス』のキットをつくりたいと思っています。法律や安全性など越えるべき壁は多々ありますが、最終的にはハンマーが一本あれば誰でもつくれるものを目指したいですね」

ものづくりで被災地の産業をつむぐ、陸前高田発「KUMIKI プロジェクト」が始動

【画像3】昨年6月、陸前高田の集会所を2日で組み上げたときの様子。基礎を地元の気仙大工につくってもらい、その上から木のブロックを重ねている(画像提供:株式会社紬)

5年後を見据え、復興後の産業を生み出す

桑原さんがKUMIKIのプロジェクトを本格的に立ち上げたのは2013年3月。きっかけは、東日本大震災で被災した陸前高田近隣の合板工場の話を聞いたことだった。

「被災した工場では、かつて流通していた大量の杉材が行き場を失っていました。これをなんとか有効活用するような商品開発ができないものかと思ったのが、そもそもの始まりです。もともとレゴブロックのように組み合わせてつくれる家具が欲しいという想いが自分のなかにありましたので、まずは地元の大工さんにサンプルをつくっていただくところからスタートしてみようと思いました」

だが、これが想像以上にたいへんな道のりだった。岩手県の林業技術センターを通じ、加工ができそうな製材所に片っ端からコンタクトをとるも軒並み門前払い。会って話を聞いてもらうことすらままならない状況が続いたという。

「とにかくあらゆる製材所、材木店に電話をかけました。最初はすぐに製品化できると思っていたんですが、実際はサンプルをつくってもらうことすらできない。私は群馬出身なのですが、新参者が地方で仕事をする難しさを痛感しましたね」

陸前高田にこだわらなければ、担い手はすぐに見つかったかもしれない。だが、桑原さんは“地域に仕事を生み出すこと”にこだわった。わずか30分間の打ち合わせのためでも東京から足を運び、地道に関係を築いていったという。

「今は復興需要で地元の業者はどこも大忙しです。でも、3年後、5年後には仕事がなくなるかもしれない。話を聞いていくと、復興後に向けて新しいことを始めたいと考えている職人さんも少なくないことに気づきました。そこで『まずは空いている時間を使って始めてみませんか?』とお願いしてみることにしたんです」

熱意は実り、やがて陸前高田市内の福祉作業所や同市の近隣に位置する住田町の材木店から協力を得ることができた。いずれもスキマ時間でつくるため大量生産は望めないが、今後もそうした場所を少しずつ増やし安定供給を目指していくという。

ものづくりで被災地の産業をつむぐ、陸前高田発「KUMIKI プロジェクト」が始動

【画像4】東北地域の木材を使い、被災地域に仕事をつくる。桑原さんの思いは少しずつ形を見せ始めた(画像提供:株式会社紬)

「目指しているのは一カ所に依存するのではなく、職人さん同士をつないでものづくりのネットワークを確立していくこと。そんな仕組みがつくれれば受動的に、そして継続的に地域にお金が落ちていくのではないかと思っています」と、桑原さんはどこまでも前向きだ。メイド・イン・陸前高田のプロジェクトは、被災地復興のその先を見据えている。

●KUMIKI PROJECT
HP:http://kumiki.in/
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