もし、あなたが祖父母から古い家を受け継いだら……。「二世帯住宅にして親と住む」、「賃貸物件として人に貸す」などの選択肢が思い浮かぶのでは。相続税改正などに注目が集まる中、孫世代が古い家をリノベーションして暮らすというライフスタイルが現れている。キーワードは「継承リノベーション」。その実例をご紹介しよう。
名古屋市港区在住の町上貴也さん一家は、貴也さんの祖父母が1978年に建てた家を、2014年にリノベーションした。かかった費用は耐震補強+リノベーションで1280万円。「以前は田の字に区切られて暗い感じ。まさに昭和の家でした」というが、改修後は開放感抜群。吹抜けやステップフロアを効果的に取り入れ、明るく楽しい家に仕上がっている。
この “昭和の家”は、貴也さんの祖父母が息子の結婚の際、同居を考えて建てた家。しかし貴也さんの両親は仕事などの事情からこの家を離れ、アパートで暮らすことに。そして貴也さんが高校生のころに、両親は”昭和の家”から徒歩10分の距離に土地を購入し家を建て、現在も住んでいる。祖父母は年号が平成に変わるまで”昭和の家”に住んでいたが、やがて高齢となり貴也さんの実家(貴也さんの両親の家)に同居。
「祖父は最後まで、自分の家を離れたくないと言って愛着を持っていました」。祖父母が亡くなり、”昭和の家”はこの10年ほど空き家になっていたという。
当時、国際協力関係の仕事に従事し、インドで暮らしていた貴也さんと妻の広子さん。帰国後は共に介護職に就き、貴也さんの実家で両親と同居を始める。しかし二人目の子どもを授かり、生活スペースを手狭に感じた貴也さんがモノを整理しすぎたことで、「親とうまくいかなくなってしまって」と苦笑い。
「日本では必要なものはいつでも手に入るから、持ち物は少なくていい」という考え方の貴也さんと広子さんは、実家を出ることに。そこで、”昭和の家”のリノベーションを思いついた。
両親が費用の半分を援助してくれることになった。「当初、父からは新築を勧められました。でも、もともと古いものが好きだったし、予算内で思うような家にしたかったので」とふたり。最初に訪ねた工務店では「吹抜けは無理」などと言われたが、インターネットで見つけたリノベーションを行う建築事務所、リノキューブが思いを汲んでくれた。当時、広子さんが妊娠中でもあり、夫婦が気にしたのは「まず安全性、次に採光重視の間取りでした」とのことだ。
名古屋市には「名古屋市木造住宅耐震改修助成制度」がある。市の耐震診断で判定値が0.7未満の場合には、判定値を1.0以上にした耐震改修工事に対して、判定値が0.7以上1.0未満の場合には、判定値に0.3以上加算した耐震改修工事に対して補助金が受けられる。一般世帯であれば、戸建て住宅の場合は耐震改修工事費の2分の1かつ最大90万円までの補助金となる。
制度の利用には、工事着工前に建築士による診断や補強計画が必要だ。町上家もリノキューブを介してこの制度を利用し、90万円の補助金を受け取った。「名古屋市という第三者による耐震診断が受けられることもメリットでした」と貴也さん。
ガラリと間取りを変えたため工事は大がかりだったが、耐震補強とリノベーションを同時に行うことでコストダウンでき、構造上の制約が少なくなった。改修前0.3だった判定値は、耐震補強後1.12まで上がった。
南側に吹抜けをつくったLDKは、光と風、声や視線が行き交う。各部屋の高さは違うのに、小窓や隙間を利用したコーナーでつながり、互いの気配を感じて過ごすことができる。
「土地に馴染みがあるので住みやすいし、近所に昔からお世話になっている人や同級生がいるので楽しい」と貴也さん。広子さんも、「夫の両親の家と近いので、すぐに顔を合わせられるという安心感があります」と居心地の良さを語る。「古く思い入れがあるものが好きで、住みたい家のイメージが明確であれば、安くて自由度の高い継承リノベーションがおすすめです!」と話してくれた。
買う、借りる以外の選択肢の一つである、家を継ぐということ。以前の住み手が分かり、近隣住民も顔なじみなら、安心して子育てができそう。「いずれは娘か息子にこの家を」と話していた町上さん夫婦だから、もしかするとさらに孫の代まで愛されるかも……。古い家を思い出ごと受け継ぎ、自分好みにして住まう「継承リノベーション」って、素敵だと思う。