これからの住まい・暮らし
50歳から考える、老後の暮らし
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榎並 紀行(やじろべえ)
2014年4月21日 (月)

住宅のユニバーサルデザインについて考えるべく、「シニア体験」してきました

妊婦体験中 (写真撮影:編集部)
写真撮影:編集部

老い。それは自然の摂理。人間誰もが等しく年を取り、やがて思うように体が動かなくなる。若いころは快適だった我が家も高齢の身には危険が多く、バリアフリー化などリフォームの必要性も生じてきます。
でもちょっと待った。生涯を過ごす住まいなら、家を建てる段階から老後生活のこともある程度考慮した設計にしておくべきなんじゃないか? そのためにはまず、高齢者の体の状態がどんなものか知る必要がある。ということで、無料で「シニア体験」ができるという、とある施設を訪ねてきました。

30年後、自分の体はどうなるの? 「納得工房」で老化を体験

やってきたのは京都府木津川市にある「積水ハウス総合住宅研究所」。誰にとっても住みやすい理想の住宅を追求すべく日夜研究に励む民間の研究所です。館内にある「納得工房」は一般に無料開放(※要電話予約)されていて、前述のシニア体験をはじめとするさまざまな体験を通じ、自分にふさわしい住まいづくりを学ぶことができるそう。

ともあれ、まずは論より証拠。さっそく体験してみましょう。

住宅のユニバーサルデザインについて考えるべく、「シニア体験」してきました

【画像1】体験メニューは「足腰の老化体験」「手の老化体験」の2種類。体の動きを制限する器具を装着することで、老後の状態を体感できます(写真撮影:編集部)

住宅のユニバーサルデザインについて考えるべく、「シニア体験」してきました

【画像2】装着の図。筆者(手前)は33歳、シニア体験は65歳以上の高齢者を想定しているとのことで、一気に倍の年齢に。浦島太郎もびっくりのスピード老化に、とまどいを隠せません(写真撮影:編集部)

なお、納得工房には一般的な段差やお風呂、トイレといった住宅設備が再現されていて、老化状態における暮らしを体感することができます。
そこで、まずは椅子から立ち上がろうとしたのですが、膝がガチガチに固められそれすらままならない状態。ようやく立ち上がっても膝と足首がうまく稼働せず、自然と腰が曲がってしまう。足取りも重く、牛歩にならざるを得ません。え? お年寄りってこんなに大変なの?

住宅のユニバーサルデザインについて考えるべく、「シニア体験」してきました

【画像3】思わず腰の後ろに手をまわしてしまう新米おじいちゃん2人。人間、急に年を取ると動きが仙人っぽくなることが分かった(写真撮影:編集部)

住宅のユニバーサルデザインについて考えるべく、「シニア体験」してきました

【画像4】その他、奮闘の模様をダイジェストでどうぞ(写真撮影:編集部)

年をとると、ちょっとした段差でつまずくとは聞きますが、実際に体験してみると心から納得。なんせ脚が上がらないので、わずかな段差がとにかく忌々しく思えてきます。また、トイレで用を足し、立ち上がるのにもひと苦労。お風呂のバスタブに足を踏み入れる際は、谷底に落ちていくかのような恐怖感がありました。大げさでなく、お風呂に入るのも命がけだったりするんですね。

高齢者は普通に生活することそのものが重労働。住まいにおいても、その負担をできるかぎり取り除いてあげることがいかに大切か、身をもって知ることができました。

住宅のユニバーサルデザインについて考えるべく、「シニア体験」してきました

【画像5】ついでに妊婦体験もしてみました。体力的にきついだけでなく、子どもをかばいながらの生活は心労が絶えません。妊婦にはやさしくしたいと思います(写真撮影:編集部)

住宅のユニバーサルデザインについて考えるべく、「シニア体験」してきました

【画像6】なお、関東にお住まいの方は横浜市が運営する「人にやさしい住まいづくり体験館」(横浜市都筑区「ハウスクエア横浜」1階)でも、同様の「シニア体験」「妊婦体験」などが可能です。お近くの方はぜひ足を運んでみては?(原則予約制:TEL045-912-7481)(画像提供:ハウスクエア横浜)

真のユニバーサルデザインとは何か?

というわけで、老後を過ごす住まいに特別な配慮が不可欠であることはお分かりいただけたかと思います。とはいえ、20代・30代で家を建てるときに、高齢になり足腰が立たなくなった自分を想像してプランニングする人なんて、まあいませんよね。予算やデザイン性、使い勝手といったもろもろを考慮すると、バリアフリー云々はどうしても先送りになりがちですし。

あと、バリアフリー化すると、デザイン性が犠牲になる印象もあります。筆者の実家も祖母の同居にともない廊下に手すりをつけたりトイレを改修したりしたんですが、どうしても「とってつけた感」が否めないんですよね……。

しかし最近では、あらかじめ老後のことも想定した設計がなされ、なおかつデザイン的にも違和感のない家が登場してきているようです。積水ハウスでも「ユニバーサルデザイン」という言葉が浸透するずっと前から、誰にとっても住みやすい家とは何かを研究。現在では「ユニバーサルデザインベーシック」を掲げ、幅広い年代、体型、障害の有無などを考慮した住居がデフォルトになっているそう。つまり標準仕様でも、一般的なバリアフリー設計と同等レベルの配慮がなされているわけです。

さらに、現在ではそこから一歩進んだ「スマートユニバーサルデザイン」を提唱。手に触れたときの上質な感覚や見た目の美しさを含めた”心地良さ”を大切にする、新しいユニバーサルデザインを追求しています。

住宅のユニバーサルデザインについて考えるべく、「シニア体験」してきました

【画像7】身体の特徴が異なる大多数の人にとって住みやすい家。それが、積水ハウスが掲げる「ユニバーサルデザインベーシック」(写真撮影:榎並紀行)

住宅のユニバーサルデザインについて考えるべく、「シニア体験」してきました

【画像8】あ、おれがいた(写真撮影:榎並紀行)

住宅のユニバーサルデザインについて考えるべく、「シニア体験」してきました

【画像9】例えばトイレの手すりも、ただ設置すればいいというものではないらしい。力を使わず起き上がれる角度があるとのこと(写真撮影:榎並紀行)

住宅のユニバーサルデザインについて考えるべく、「シニア体験」してきました

【画像10】こちらは腰かけを設置したバスルーム。確かにこれがあれば、高齢者のみならず全ての人にとって快適ですよね(写真撮影:編集部)

他にも、曲がり階段を設置する場合、最も楽に上れるのはどんな形状か? 快適なスペースを担保しつつ、安全に浸かれるバスタブの深さはいかほどか? などなど、挙げればキリがないほど、細かい配慮が満載。ユニバーサルデザインに対して一歩進んだ哲学を持つ同社の姿勢を垣間見ることができました。

標準である程度のバリアフリー対応が施されていれば、高齢になったからといってわざわざ大がかりなリフォームする必要もありませんよね? 大手ハウスメーカーを中心に進む「ユニバーサルデザイン化」により、安全で快適な住宅が今後ますます増えていくことを期待したいと思います。

●Web納得工房
HP:http://www.sekisuihouse.com/nattoku/koubou/
●ハウスクエア横浜
HP:http://www.housquare.co.jp/
https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2015/05/97a65f66c5eb17fd1c8864b5df4b1da1.jpg
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