老い。それは自然の摂理。人間誰もが等しく年を取り、やがて思うように体が動かなくなる。若いころは快適だった我が家も高齢の身には危険が多く、バリアフリー化などリフォームの必要性も生じてきます。
でもちょっと待った。生涯を過ごす住まいなら、家を建てる段階から老後生活のこともある程度考慮した設計にしておくべきなんじゃないか? そのためにはまず、高齢者の体の状態がどんなものか知る必要がある。ということで、無料で「シニア体験」ができるという、とある施設を訪ねてきました。
やってきたのは京都府木津川市にある「積水ハウス総合住宅研究所」。誰にとっても住みやすい理想の住宅を追求すべく日夜研究に励む民間の研究所です。館内にある「納得工房」は一般に無料開放(※要電話予約)されていて、前述のシニア体験をはじめとするさまざまな体験を通じ、自分にふさわしい住まいづくりを学ぶことができるそう。
ともあれ、まずは論より証拠。さっそく体験してみましょう。
なお、納得工房には一般的な段差やお風呂、トイレといった住宅設備が再現されていて、老化状態における暮らしを体感することができます。
そこで、まずは椅子から立ち上がろうとしたのですが、膝がガチガチに固められそれすらままならない状態。ようやく立ち上がっても膝と足首がうまく稼働せず、自然と腰が曲がってしまう。足取りも重く、牛歩にならざるを得ません。え? お年寄りってこんなに大変なの?
年をとると、ちょっとした段差でつまずくとは聞きますが、実際に体験してみると心から納得。なんせ脚が上がらないので、わずかな段差がとにかく忌々しく思えてきます。また、トイレで用を足し、立ち上がるのにもひと苦労。お風呂のバスタブに足を踏み入れる際は、谷底に落ちていくかのような恐怖感がありました。大げさでなく、お風呂に入るのも命がけだったりするんですね。
高齢者は普通に生活することそのものが重労働。住まいにおいても、その負担をできるかぎり取り除いてあげることがいかに大切か、身をもって知ることができました。
というわけで、老後を過ごす住まいに特別な配慮が不可欠であることはお分かりいただけたかと思います。とはいえ、20代・30代で家を建てるときに、高齢になり足腰が立たなくなった自分を想像してプランニングする人なんて、まあいませんよね。予算やデザイン性、使い勝手といったもろもろを考慮すると、バリアフリー云々はどうしても先送りになりがちですし。
あと、バリアフリー化すると、デザイン性が犠牲になる印象もあります。筆者の実家も祖母の同居にともない廊下に手すりをつけたりトイレを改修したりしたんですが、どうしても「とってつけた感」が否めないんですよね……。
しかし最近では、あらかじめ老後のことも想定した設計がなされ、なおかつデザイン的にも違和感のない家が登場してきているようです。積水ハウスでも「ユニバーサルデザイン」という言葉が浸透するずっと前から、誰にとっても住みやすい家とは何かを研究。現在では「ユニバーサルデザインベーシック」を掲げ、幅広い年代、体型、障害の有無などを考慮した住居がデフォルトになっているそう。つまり標準仕様でも、一般的なバリアフリー設計と同等レベルの配慮がなされているわけです。
さらに、現在ではそこから一歩進んだ「スマートユニバーサルデザイン」を提唱。手に触れたときの上質な感覚や見た目の美しさを含めた”心地良さ”を大切にする、新しいユニバーサルデザインを追求しています。
他にも、曲がり階段を設置する場合、最も楽に上れるのはどんな形状か? 快適なスペースを担保しつつ、安全に浸かれるバスタブの深さはいかほどか? などなど、挙げればキリがないほど、細かい配慮が満載。ユニバーサルデザインに対して一歩進んだ哲学を持つ同社の姿勢を垣間見ることができました。
標準である程度のバリアフリー対応が施されていれば、高齢になったからといってわざわざ大がかりなリフォームする必要もありませんよね? 大手ハウスメーカーを中心に進む「ユニバーサルデザイン化」により、安全で快適な住宅が今後ますます増えていくことを期待したいと思います。