住まいの雑学
連載江戸の知恵に学ぶ街と暮らし
やまくみさん正方形
山本 久美子
2015年3月23日 (月)

江戸時代もこぞって花見を楽しんだ隅田川堤 お目当ては桜もち?

「隅田川花見」一勇斎国芳(歌川国芳) (画像/国立国会図書館ウェブサイト)
「隅田川花見」一勇斎国芳(歌川国芳) (画像/国立国会図書館ウェブサイト)

連載【江戸の知恵に学ぶ街と暮らし】
落語・歌舞伎好きの住宅ジャーナリストが、江戸時代の知恵を参考に、現代の街や暮らしについて考えようという連載です。

落語「花見小僧」(「おせつ徳三郎」上)で大活躍する小僧の定吉(さだきち)

桜が咲いたと聞けば、どっと花見に繰り出す。この一大イベントが定着したのは、江戸時代のこと。だから、落語にも花見の様子がたくさん登場する。

その中のひとつ「花見小僧」は、「おせつ徳三郎」という落語の上編に当たり、下編は「刀屋」と呼ばれる。上編も下編も同じ登場人物で、大店(おおだな)のお嬢様おせつと奉公人の徳三郎の恋愛模様が描かれているのだが、落語はコミカルとシニカル、印象は上下でかなり異なる。上編「花見小僧」は、小僧の定吉(落語家によって名前が異なる場合もある)が大活躍する噺(はなし)で、おせつと徳三郎の二人はまだ恋愛途上そのあらすじは……。

大店の旦那が気をもんでいるのは、娘おせつのこと。いい縁談が舞い込むたびに、断ってしまう。その愚痴を番頭にこぼしたところ、奉公人の徳三郎といい仲になっているのではないかとご注進。小さいころから仲がいい二人だが、まさか……と疑う旦那に、番頭が一計を案じる。

花見におせつが出かけた際に、徳三郎と婆や、定吉を供に連れていったが、あの折に何かあったようなので、最も口を割りそうな定吉に話を聞き出そうというのだ。口止めされているはずなので、話せばお小遣いを、話さなければお灸(きゅう)をすえるといった、飴と鞭を使えと口の割らせ方まで助言する。

さて、旦那に呼ばれた定吉。あのことか……と気づいてとぼけようとするが、旦那にすっかりしてやられ、白状してしまう。定吉の話によると……。
まず、大川(隅田川)を舟に乗って桜を見ながら向島に向かい、土手に上がって桜並木を散策した。そのとき二人は仲むつまじく歩いていた。茶店に寄ったり、料理屋で懐石料理を食べたりしたときも、二人はベタベタ。食後はお嬢様に言われて、長命寺の門前までお土産用の桜もちを買いに出かけて戻ってきたら、二人は隣座敷に行って、婆やしかいなかった。

ここまで聞けば十分と、おしゃべりな定吉を怒って店に帰すが、このあと徳三郎に暇が出て、二人の仲は引き裂かれてしまう。というところまでが上編だ。

江戸時代の桜の名所、向島の隅田川堤。長命寺の桜もちが人気に

花見は江戸時代の一大イベントで、桜の名所に人が集まった。名所といわれたのが、上野の寛永寺(今の上野公園)、王子の飛鳥山、向島の隅田川堤(通称墨堤(ぼくてい))だ。

上野の寛永寺は、三代将軍家光が吉野の桜を移植させたもの。飛鳥山は、八代将軍吉宗が庶民のために花見公園をつくったもの。隅田川堤も吉宗が桜を植えさせたのだが、治水対策としての狙いもあったという。花見で人が集まれば、堤が踏み固められて強くなるからだ。
(上野の寛永寺と飛鳥山については、筆者の記事「『長屋の花見』に見る、今に続く桜の名所」(https://suumo.jp/journal/2012/04/12/15957/)、「花見が行楽として定着したのは、江戸時代のヨシムネミクスから」(https://suumo.jp/journal/2014/04/03/60494/)にまとめている)

江戸時代の花見は、朝からお弁当を持って出かけ、日中の桜を見て楽しむものだったが、隅田川堤は遊郭のある吉原に近いので、舟で吉原に繰り出す際に夜桜見物としゃれこむ人も多かったようだ。

さて、落語にも出てくる、長命寺の桜もち。享保二年(1717年)に隅田堤の桜の葉を塩漬けにし、その葉で餡入りのもちを挟み、販売したのがはじまり。享保二年は吉宗が隅田川堤に桜を百本植樹した年でもあり(墨田区HP「区の歴史」より)、花見客の増加と相まって長命寺門前の名物となった。

桜もちといえば、「道明寺」と呼ばれるもち米を使った関西風のものが知られているが、長命寺の桜もちは小麦粉を使い、桜もち1つに葉を2枚使って巻くのが特徴だ。塩漬けの桜の葉は、食べても食べなくても好みでいいのだが、店のホームページによれば、「はずしてお召し上がりいただくことをお勧めしています」とのこと。

【画像1】花見の女性がぶら下げているのは“桜もち”だ。「江戸自慢三十六興 向嶋堤ノ花并ニさくら餅」広重、豊国(画像提供/国立国会図書館ウェブサイト)

【画像1】花見の女性がぶら下げているのは“桜もち”だ。「江戸自慢三十六興 向嶋堤ノ花并ニさくら餅」広重、豊国(画像提供/国立国会図書館ウェブサイト)

落語「花見小僧」は、旦那に言いくるめられて、少しずつ口を割っていく様子が楽しい噺で、筆者が大好きな落語のひとつだ。登場人物の中で最も花見を楽しんだのが、定吉だということが微笑ましくもある。

さて、小僧の定吉のように、現代も隅田川堤の桜を楽しむことができる。2015年3月28日(土)から、開花期間中、「墨堤さくらまつり」が開催される。江戸時代の花見は、桜もちでも分かるように、大きな経済効果をもたらした。われわれも、今年の花見を大いに楽しんで、景気回復につなげたいものだ。

●墨田区ホームページ「区の歴史」
HP:https://www.city.sumida.lg.jp/kunosyoukai/history.html
●長命寺桜もちホームページ
HP:http://www.sakura-mochi.com/
●墨堤さくらまつり2015
HP:http://visit-sumida.jp/event_info/event_year2015/bokutei_2015/tabid/493/Default.aspx
https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2015/05/dc8bf0c1134dae340e61cda16d35e4fa.jpg
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