海外では当たり前だった、賃貸物件を自分好みに改装して住むというライフスタイルが、やっと日本でも定着しつつある。事実、そういった改装可能な賃貸物件を紹介する不動産会社のサイトも増えてきた。どんな物件がどのような条件で借りられるのか、どこまで改装できるのか、本当に原状回復の義務はないのか、また貸し手にとってはどんなメリットがあるのか、実例を紹介するとともに探ってみた。
■PROFILE
名前:Kさん(会社員)
年齢:25歳
■物件DATA
物件種別:賃貸マンション
所在地:東京都
間取り:1R
築年数:25年
面積:22.00㎡
賃料:63,000円
管理費:2,000円
改装費用:約18万円
■間取図
都心の大手企業に勤務するKさんは、初めてのひとり暮らしをするにあたり、改装可能な賃貸物件だけを集めた不動産紹介サイト「DIYP」を利用することにした。
「すでに改装された物件を探していたんですが、人気があって家賃がすごく高かったり、すごい郊外だったり、条件が合わなかったんです。雑誌でDIYPのサイトを知り、だったら自分で改装すればいいんだって思って。5件ぐらいあたりましたが、ここは立地がいいのに家賃が6万5000円と安いのが魅力でした。キッチンと水まわりが新品だったことも、ここに決めた理由のひとつです」とKさん。
改装は、友人数人に手伝ってもらい、5月のゴールデンウィークを利用して進めることに。床のフローリングはプロが張り方を指導してくれて、張るのもサポートしてもらえるサービスを利用し、自分たちで張った。壁は珪藻土メーカーの講習会に参加し、友人たちを指導して、これも自分たちで塗った。ブロック壁のペンキ塗装ももちろん友人たちとの共同作業だ。
「おそろいのつなぎを用意して、遊び感覚でやりました。いい思い出になりましたね」。改装費用はみんなにプレゼントしたつなぎ代も含めて18万円ほどだった。
「アメリカやヨーロッパでは、賃貸でも自分が住む部屋を自分で改装するってよくあるじゃないですか。それがけっこう格好いいし、楽しいんですね。ところが日本では、賃貸住宅の改装なんてとんでもないうえに、退去するときは原状回復が常識化しています。でも、僕自身もかつて自分で改装した部屋に住んでいた経験があるし、そういうことを許可してくれる大家さんがいるということもわかっていましたから、絶対ニーズがあると思ってこういうサイトを始めたんです」
というのは、Kさんが利用したサイト、DIYPを運営する不動産プロデュースチームCityLights代表の村井隆之さん。
現在、同サイトに掲載されている物件は、成約済みのものも合わせると200を超える。改装可能とは一体どんな物件なのだろうか?
「例えば、築年数が古かったり、近い将来建て替えを考えている建物だったり、大家さんが修繕費用をこれ以上かけたくないという物件だったり、さまざまです。形態はアパート・マンションなどの集合住宅、一戸建て、ビルのワンフロア、倉庫などいろいろ。オフィスもあります」
どこまで改装できるかは物件によって異なるが、たいていの大家さんは、躯体の内側であれば何をやってもいいという場合が多いとか。軽微な範囲であれば躯体への工事も可能だし、電気系統や給排水管などもプロの手によるなら許可が出ることも少なくない。
後々のトラブルを避けるため、入居者が改装したい内容を書面で貸し主に提出し、合意を得ることになっている。これにより貸し主は工事の範囲を知ることができるし、リスクを回避できるわけだ。前出のKさんも、事前に工事内容を申告したという。
「申請書がありまして、それに改装の希望内容を書いて、管理会社さんを通じてオーナーさんの承諾を得ました。これはやってはダメ、ということはなかったですね。申請書には、これまでやったこと以外にも、やりたいことをもっといっぱい書いてあるんですが、暇がなくてまだ手をつけていません。今週末にも、天井に穴を開けてこのタイのお土産のオーナメントを吊そうと思っているんですけど。住みながら手を入れていくっていうのも楽しいですね」
とKさん。
「自分で改装するのは無理」という人には建築士や工事業者の紹介もしてもらえるが、Kさんのように友人に頼んだりして自ら行うケースが9割以上だとか。
「フローリングを張るのも大変だったけど、壁の珪藻土塗りは意外と時間がかかりましたね。厚く塗りすぎてしまったのか、珪藻土が足りなくなっちゃったりしたんです(笑)。とにかく全部ひとりでやろうとするのは無理だし、みんなでやった方が楽しい。よき友人がいることが条件かな」とKさん。
借り手にとってはうれしい改装可能物件だが、大家さんにとっても意外とメリットは少なくない。というのは、大家さんが、自ら高額の費用をかけて改装したからといって、借り手が必ずついてくれるという保証はどこにもない。借り手との感覚のギャップがあるかもしれないからだ。
「だとしたら改装可能物件にして、借り手好みに改装できれば、きっと愛着が湧いて長く住み続けたいと思ってくれるでしょうし、センスよく改装された物件は次の借り手にもきっと魅力的に映ると思うんです」と村井さん。
こうした改装可能物件を望むのは、年齢は20代から30代、インテリアに興味がある人やクリエーター層が多いという。
取材・文・撮影/PLUS ONE
取材協力/DIYP