マネーと制度
50歳から考える、老後の暮らし
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嘉屋 恭子
2014年11月7日 (金)

みずほ銀行がリバースモーゲージをはじめて1年。その手応えは?

高齢者の暮らしを豊かにしてくれるリバースモーゲージ。日本でも普及しそう?(写真:iStock / thinkstock)
写真:iStock / thinkstock

みずほ銀行が日本のメガバンクとして初めてリバースモーゲージに参入して、2014年7月で1年が経過した。その後、三菱東京UFJ銀行や地方銀行も取り扱いをはじめるなど、さまざまな動きがあり、業界の取り組みも活性化している。では、実際のところはどうだったのか、利用者の反応や課題、今後の展開について聞いてきた。

家は残すものから活用するものへ。高齢者の意識変化が参入の背景に

リバースモーゲージとは端的にいうと持ち家を担保にして融資を受けるローンのことで、死亡時に住まいを売却するなどして一括で返済する([みずほ銀行が取り扱いを始めるという「リバースモーゲージローン」とは?]https://suumo.jp/journal/2013/05/29/44845/)。一般的に高齢者になると住宅ローンなどの借り入れがしにくくなるが、リバースモーゲージなら住みながら資金を手にできるため、アメリカなどでは比較的普及している商品だ。

日本ではまだあまり知られていないが、どうしてみずほ銀行では取り扱いをはじめたのか。その背景から聞いてみよう。ローン業務開発部業務開発チームで調査役を務める山口雅央さんは、こう解説する。

「高齢者世帯の増加に伴うニーズの高まりもありますが、大きいのは意識の変化です。今までの日本では、家は子どもが継ぐものという観念が一般的でしたが、近年、特に都市部にお住まいの方は“家は自分のために活用するもの”と意識が変化しつつあります。当行ではこうした時代のニーズに沿う商品として、取り扱いを開始しました」という。

さらに、国の動きとして、リバースモーゲージの必要性が提案されていたというのも参入の背景にあったのだとか。現在の手応えとしては、「問い合わせは多い」といい、あらためて高齢者の関心の高さが浮き彫りになったという。

「開始当初は、“東京都内で土地評価額4000万円以上の一戸建てをお持ちの方“を対象にしていました。現在ではご要望に応じて、東京神奈川千葉埼玉の一都三県までエリアを拡大、土地評価額2000万円以上の一戸建てをお持ちの方まで、ご利用いただけるようになりました」(山口さん)といい、需要を掘り起こしつつ、手探りで展開している面もあるようだ。では、こうして借り入れたお金はどのような費用として使われているのだろうか。

「リバースモーゲージには生活資金として利用されている商品もありますが、当行では、日々の生活資金ではなく“ゆとり資金“として使っていただく設計となっています。また、55歳から利用可能なので、まだまだみなさん若く、気力、体力がおありです。50代から60代の方の資金の使い道としては、海外旅行やご自宅のリフォーム資金などに充てられる方が多いですね」(山口さん)

シニアの選択肢として定着するか。認知拡大が課題に

加えて多いのが、病気や介護に対しての「備え」としての使い道だとか。
「70代、80代の方で多いのが、病気や介護に備えるための資金や老人ホームへの入居資金としてご利用の方です。すぐに借り入れはしなくとも、必要なときにすぐに借り入れできるようにしておきたいという方もいらっしゃいますね」(山口さん)。

こうした資金の場合、リバースモーゲージを利用せずに住まいを売却する選択もあるが、「今は売りどきではない、家は所有していて売却時期を見極めたいという方や、平日は施設で過ごして、週末は自宅に帰りたい、思い出の詰まった家はまだ処分したくない、など意向はさまざまです。われわれとしては、このような老後の選択肢のひとつとして定着してほしいと考えています」と山口さん。

とはいえ、実際の契約件数は、当初の想定数よりも若干低いものにとどまっているという。
その理由として、「やはりリバースモーゲージそのものの認知度です。住宅ローンはどのような商品か知られていますが、リバースモーゲージといってもまだ一般的には馴染みが薄く、どのような商品かご存じない方が多い。まずは『リバースモーゲージローン』という商品自体を広く知っていただく必要があると感じています」と山口さんは分析する。

また、みずほ銀行の場合、リバースモーゲージを“ゆとり資金“、いわば老後の楽しみのための資金と位置づけているため、「借金してまで旅行しなくても……」という人もいるという。また、相続にも関わってくるため、家族、とくに子どもの理解が欠かせない。そのためみずほ銀行では、法定相続人の方に承諾を得ることにしているが、家族が反対して契約に至らないケースもあったという。そのような場合には、みずほ銀行の行員がリバースモーゲージローンの商品性を丁寧に説明するなどの対応を行っているようだ。

定期的な面談でリスクヘッジ。リバースモーゲージの成否が決まるのはこれから

住宅ローンと同様に、リバースモーゲージは金融商品。借り入れ側も金融機関側もリスクを伴うが、主に借り入れ側には、(1)不動産価格の下落リスク、(2)金利上昇リスク、(3)借入期間長期化リスクの3つがある。原因は異なるが、要は借りたお金が不動産の価値を超えてしまい、最終的に家を売却しても借りたお金が返せなくなってしまうリスクだ。みずほ銀行ではこうしたリスクに対応するため、定期的な面談で不動産市況や金利状況などを伝え、相談していくようにしているという。

「不動産市況や金利状況などを踏まえつつ、随時、判断していければと思っています。加えてご本人の体調の変化、病気や介護の進行などあるでしょう。こうした外部の変化と利用者の変化、両方に対応、サポートしていく必要があると思っています」(山口さん)

リバースモーゲージの成否が決まるのは、借り入れた人が亡くなったとき。つまり5年10年スパンで検証していく必要があるため、開始1年ではまだまだはじまったばかりというのが本当のところだ。金融機関にとっては、それだけ手間のかかる商品であるが、「高齢のお客様と接点をもてるというのはメリットととらえ、お客様のニーズにあわせて、相続も含めて提案していけたら」と考えているようだ。

投資をするときには「お金に働いてもらう」というが、リバースモーゲージはいわば「家に働いてもらう」商品だ。多くの人は、長期間、住宅ローンを支払いながら年齢を重ねたてきたわけで、老後を迎えたときに、家を活用して豊かな時間を過ごすのはとても合理的なことだと思う。加えて、高齢者となっても外部の金融機関と接点を持てるのもメリットではないだろうか。高齢者になると社会とのつながりが弱まってしまうが、前述のとおり、みずほ銀行ではリバースモーゲージローン利用者には担当を付ける対応をしているようなので、資産や今後の人生計画まで含めて、相談できる相手がいるというのは心強いはずだ。

また、個人的にはリバースモーゲージは、昨今問題となっている「空き家」の予防策にもなると思っている。リバースモーゲージを考えるということは、残された時間をどう過ごしたいか、また死後、住まいをどうしたいかを話し合うきっかけとなるからだ。生前、家族で住まいについてコンセンサスを得ておけば、死後の手続きもスムーズとなることだろう。豊かな老後生活を支える商品として、今後、ますます普及していくことを期待したい。

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