2014年3月、川崎に完成したサービス付き高齢者向け住宅(以下、「サ高住」)に、日本で初めて介護型ロボットHAL(R)が導入されたという。ガンダムやパトレイバーを見て大きくなった筆者としては、ロボットと聞いて心穏やかではいられない。さっそく取材にいってきた。
そもそも「サ高住」とは、一定のバリアフリー基準を満たした建物で、安否確認および生活相談サービスがついた住まいのこと。ただ、ひと口に「サ高住」といっても千差万別で、特に近年はさまざまな物件が登場している。今回川崎にできた「リハビリふくや高津館」は、どのような住まいなのだろうか。
「基本的にサ高住は、中長期的に生活を送る“終の棲家”が大半ですが、今回の高津館は、リハビリに集中して自宅に戻るための仮住まいという位置づけです。近年、医療機関への入院日数は短くなっており、リハビリは自宅から通院して行う、という流れになっています。しかし、自宅に戻ってみると日常の雑事に追われてしまい、リハビリに集中できないという人も少なくありません。そこで退院後の、自宅に戻る前の受け皿として、今回の建物をオープンさせました」と話すのは、運営する日本アメニティライフ協会の添田哲三郎さん。
ちなみに、リハビリしながら自宅復帰を目指す施設として、介護老人保健施設があるが、首都圏近郊では空きが少ないことや、居室は相部屋が多いことを考えると、こうしたリハビリ専念型の「サ高住」へのニーズは高そうだ。
居室は全27戸で、間取りは1人暮らしタイプの1ルーム(25平米)がもっとも多いが、1LDK(40.69平米)なら2人暮らしもできそう。契約形態は通常の賃貸住宅と同様で、入居時に敷金が21万円かかり、毎月家賃は7万円〜、さらに共益費が3万4200円〜、安否確認や生活相談などの生活サービス費が2万5800円〜となっている。光熱費などは別途自己負担だ。食事などのサービスは提供されないが、同じ敷地内にある高齢者向け配食サービスから弁当を配達してもらうことができる。
室内の設備はエアコンのみで、照明やテレビなどの家具家電は備え付けられておらず、自分で持ち込む必要がある。必要に応じてレンタルサービスも紹介してくれるので、退院後に身一つで引越してくることもできる。
そして高津館の目玉(?)であるロボットスーツHAL福祉用(R)はリハビリ室に置かれている。このHAL(R)は、サイバーダイン社が開発した自立操作支援ロボットで、全国の病院や老人福祉施設などすでに170施設以上で導入されているが、こうした「サ高住」で導入されるのは初めてとのこと。ちなみに、ロボット市場は介護用を中心に年々拡大していて、2025年には4.8兆円にもなるといわれている(注1)。
ただ、HAL(R)はロボットといっても人がのって操縦するものではなく、スーツ、つまり装着して使用する。人の意思を感知して、立ち座りや歩行動作を助けてくれるのだ。そのため、病気や加齢によって脚力が低下した人でも、「自分で歩く感覚」が取り戻せるという。筆者もデモンストレーションとして腕で体験させてもらったが、意思とロボットがシンクロして動くのは、なんとも不思議な感覚で、「攻殻機動隊ってこんな感じ…?」と目を丸くしてしまった。
「特に男性は、HAL(R)が気になるみたいですね。ロボット見たさに物件見学にくる方もいます」と話すのは、高津館館長の上柳富久美さん。また、HAL(R)のほかにゲーム感覚でリハビリができる「デジタルミラー」や起立運動を効率よく行える「リハビリウム起立くん」などがある。リハビリ室といっても、堅苦しいイメージはなく、「楽しみながら」「遊んでいるように自然に」できるのがよさそう。またリハビリという共通の目的がある入居者同士なら、自然と交流が生まれそうだ。
入居者は看護師などが組み立ててくれた支援プランに沿ってリハビリを行うが、イメージとしては午前1回、午後1回の1日2回程度だという。そのほかの時間は家事にあててもいいし、散歩に出かけてもいい。また、建物内に温灸施設があるので、リハビリでがんばった筋肉をほぐしてもらうのもいいだろう。
高津館は、病院と自宅の「中間の住まい」という位置づけだが、こうした受け皿があることで、「自宅のリフォーム計画の参考になる」「食事や掃除、洗濯など、自分にできること/できないことが理解できるため、ケアプランが立てやすくなる」といったメリットがあるように思う。いくつになっても「我が家に帰りたい」という願いは切実なはず。高津館はこうした思いに応える住まいとなれるのか、注目だ。