連日大盛況を呈した東京の「サロン・デュ・ショコラ日本」。現在も京都や大阪、福岡、札幌(~2月14日)、仙台(~2月15日)で開かれているこのイベントに集う女性たちが費やすチョコレートのお金は、3万円、5万円もざらというから驚くばかり。
そこには、バレンタインデーの催事場にそこはかと漂う「人のため」「仕方なく」といった憂いはゼロ。私たちを幸せにする祭典の熱狂と興奮の甘~い現場に『悶々ホルモン』などの著書で知られるライターの佐藤和歌子さんが潜入した──。佐藤さんは一般オープンの初日と、前日に行われた内覧会の両方に行っている。
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サロン・デュ・ショコラは、パリで生まれた世界最大級のチョコレートの祭典、本場では毎年秋に開催されているそうだから、そもそもバレンタインデーとは関係ないようだ。それが日本の上陸し、今年で13回目を数え、今やデパートの食関連の催事で日本一の売り上げを誇るとまでいわれている。今年は、会場を新宿NSビルのイベントホールに移して開催された。
一般オープン初日、昨日と同じ9時過ぎに到着すると、既にざっと300人の行列。内覧会では40~60代の女性が中心だったが、今日は男性もちらほら、年齢層もばらばら。革製のカバーをかけた文庫本を読み耽る人もいれば、ニンテンドー3DSで妖怪ウォッチのゲームをする人もいる。内覧会はかなりマニアックな雰囲気だったけれども、初日の客層は思ったより幅広い。
「ちょっと見たことない光景になってるんですけど。サロン・デュ・ショコラ? みんなそうなの?」
通りがかりのサラリーマンが電話で確かめるのも無理はない。新宿NSビルといえば都庁の真横にそびえる高層オフィスビルの1つ、その1階ロビーに張り巡らされたパーテーションが続々と人で埋まっていく。主催側の予想を上回る勢いだったのか、9時40分を過ぎた頃、スタッフが高らかに宣言した。
「本日は予定を早めて、9時50分に開場します!」
内覧会ですぐに完売した約3000円の板チョコを求めて、迷わず行列に加わること20分。ようやくショーケースが見えた、その時。
「2万4×××円になります」
にまんよんせんえん? 8枚も買うのか。注意深く見守っていると他のお客さんも4枚5枚は当たり前、1枚だけ買う人は一人もいない。この人たちは、今日一日でいったいいくら使うつもりなの。普段は日本じゃ買えないらしいし、私もたくさん買っておくべきなのか?
「お待たせ致しました。いかがなさいますか」
「に、いや、さ、3枚…」
私の中で何かが壊れた。そして「板チョコ」が「タブレット」に変換された。その後は、昨日H夫人が買っていたフランク・ケストナーのタブレットとマショマロを(計5000円)、ユーゴ&ヴィクトールの日本SDC限定品を(4536円)、パティシエ エス コヤマで新作の詰め合わせとタブレットを(計5000円)。
香ばしいにおいを漂わせていたアンリ・ルルーのクイニーアマンを朝食用に(4個1300円)、冷たいものが飲みたくなってパティスリー・サダハル・アオキ・パリのショコラ・スムージーを(451円)。完全に予算オーバーなのに、何かに取り憑かれたようにライスパフ(要するに米)が入った3888円のタブレットを求めて並んでいる最中、「売り切れました」と言われた瞬間、正直「助かった」と思った。ここには魔物がいる!
※女性セブン2015年2月26日号