昨今、次々と誕生し、住まいの選択肢として定着してきたシェアハウス。最近ではゴルフやダイエットなどテーマをもったシェアハウスも登場しているが、今年3月にお目見えしたのは、主にシングルペアレントを対象にした住まい。はたしてどのような空間なのか。さっそく取材してきた。
おしゃれパーソンが集う街として知られる代官山の駅徒歩2分の好立地に生まれたのが、シェアハウス「スタイリオ ウィズ 代官山」。もともとは渋谷区の防災職員住宅として使用されていたが、老朽化のためここ数年は遊休状態に。この建物を有効活用しようと、民間企業によるコンペが行われ、東急電鉄が「子育て支援付き住宅」プランを提出。この計画が採用されて、リノベーションによる子育てシェアハウスとして蘇ったというのが、誕生までのおおまかな流れだ。
今回の事業では、東急電鉄だけでなく、住まいの企画やコンセプトについては、コーポラティブ住宅などで実績のあるコプラス、子育てシェアサービス(後述)にはAsMamaが加わるなど、複数の企業のコラボレーションで誕生しているのも特徴。総戸数は21戸で、親子用フロアは1〜2階(11戸)と単身者用フロアは3〜4階にと(10戸)と分けられている。家賃はシングルペアレント向けの住戸で8万4000円〜、別途共益費として親子で2万円が必要になる。共用スペースとしては、1階には広さのあるキッチン、リビング、ダイニングがあるほか、各フロアにミニキッチンや水まわりが設置されている。
入居できるのは、シングルマザー、もしくはシングルファーザーなどのシングルペアレントとその子ども。シングルフロアであれば、単身での入居も可能になる。入居する子どもの人数に制限はないが、1部屋の広さは11㎡〜なので、親と子ども1人、というのが現実的といえそうだ。
とはいえ、今回のシェアハウス、賃料設定としては代官山エリアの相場程度で、突出して安いものではない。シングルペアレントにとっては、シェアハウスに住むことはどんなメリットがあると考えているのか。今回のプランで、中心的な役割を担ったコプラスの露木さんはこう話す。
「このシェアハウスの一番の目的は、子育て時に感じる孤立感の解消です。シングルペアレントは日本に140万世帯いるといわれていますが、仕事と子育ての両立を迫られて、精神的にも肉体的にも限界を感じている人も少なくありません。そこで、シェアハウスの良さである横のつながりで、シングルペアレント同士の交流や情報交換をはかるとともに、子育ての孤独感をやわらげることができたらと思っています」(露木さん)
子育てシェアとしては、As Mamaのママサポーターの仕組みを活用。この仕組みは、1時間500円で、ご近所に住むママさんや研修登録済みのママサポーターに子育て支援をお願いできるというもの。シェアハウスの入居者はこの子育てシェアに登録することで、急な残業や出張などが発生しても、「ちょっと子どもを見ていて!」とお願いできるようになる。少額でも費用が発生することで、シェアハウス内や近所のママさんとの助け合いもスムーズに行えるはずだ。
「子育ては近くに頼れる人がいるだけで、グッと楽になります。シェアハウスなら入居者同士はもちろん、子育てシェアを利用することで、近隣住民であるママサポさんとのつながりができ、退去後も何かと助けてもらうことができるようになるはずです。また、広い共用スペースのリビングを活用して、地域のママサポさんと顔をあわせるイベントの開催も企画しています。シェアハウスという場を活用し、子育て中の親と子どもを、地域のコミュニティとつなげるお手伝いをできたらいいなと思っています」(露木さん)
筆者も母親になってみて実感したが、現在の社会情勢では子育ては自己責任といわれることが多く、助けてといいにくいのが現状。シングルマザー、ファザーではなおのこと声があげにくい。
「こうした社会状況だからこそ、シェアハウスの力を借りて、“ちょっと助けて!”といえる住環境を整備していけたら」と露木さんは話す。そもそも、日本では長屋や下宿に住む人同士がゆるく助けあってきた“実績”がある。シェアハウスはいわば、この現代版。こうした「ゆるく助け合う住まいのかたち」が今後、どのように成長していくのか、見守っていきたい。