大阪市大正区は海と川に囲まれた”島”のようなまち。住民の約4分の1は沖縄出身者とその家族とされるが、なかでも沖縄の文化が色濃く残る「平尾」で、まちのリノベーションプロジェクトのキックオフイベントが5月31日に開催された。
平尾リノベーション委員会が主催するイベント「リノベ@大正区~まち、水辺をすてきに編集!~」は大正区平尾の大正沖縄会館で行われた。JR環状線大正駅から市バスに乗り、イベント会場となる「平尾」バス停を降りると、ほのかに潮の香りが漂ってくる。海は見えないのだが、やはり水辺が近いのだ。
商店街へ向かって少し歩くと、空が広いことに気付く。大正区は淀川や大和川の三角州にできた土地で高低差がほとんどなく、道幅も広くて建物の圧迫感が少ないからそう感じるのだろう。現在も市営渡船が7カ所で無料運行されており、水辺のまちを実感できる。ちなみに「IKEA鶴浜」があるのも大正区鶴浜だ。
このエリアは明治時代に紡績工場がつくられ「日本のマンチェスター」と呼ばれたこともあった。その後は製鉄所や造船所がつくられ、戦前にはゼネラルモーターズの自動車工場も稼働する工業地帯に。古くから沖縄との定期航路があり、工場での仕事を求めて沖縄からの移住者が増えた結果、いまでは区の人口の約4分の1は沖縄出身者といわれるほどに。そのため、沖縄料理店や特産品を扱う店も多く、沖縄民謡や三線の音色が聞こえてくるようなまちとなった。
しかし、大正区も人口減少の波には抗えず、商店街にもシャッターが目立つようになってきている。水辺のまち、そして沖縄文化の息づくまちという特性を活かしながら、大正区を元気にするためのプロジェクトが「リノベ@大正」だ。
大正沖縄会館で行われたイベントにはリノベーションだけでなく、建築、デザイン、ストア経営、水辺再生などの各分野の人がパネラーとして参加、会場は立ち見が出るほどの熱気にあふれていた。パネラーたちはイベントに先立って大正区の水辺をめぐり、そのポテンシャルを探るクルーズも実施。「リノベーションとは何か?」「水辺の再生の事例とは?」「大正区でのリノベーションとは?」といったテーマで3時間近くにわたって、刺激的なトークが繰り広げられた。
大阪を拠点にさまざまなクリエイティブ活動を行う『graf』の服部氏が、「実は創業の地は大正区、造船業の職人さんたちから学んだ技術が合板を曲げ加工するプライウッドの商品企画につながっている」とエピソードを紹介すると会場も盛り上がるとともに、ものづくりのまち大正区が持つポテンシャルを再認識。また、地元に暮らす人は気付きにくいポイント、例えば「港湾荷役クレーンが建ち並んだ大正区独特の水辺空間が持つ魅力」や、「広い道路のすきまに残る路地を活用するアイデア」などがパネラーから提示され、まちのリノベーションへの可能性を強く感じさせてくれた。
プログラムとパネラーをご紹介しておこう(敬称略)。
※トークセッションはすべて馬場正尊氏(Open A ltd.)がナビゲート
●大正区で今後、やっていきたいこと
大正区長 筋原章博氏
●まち再生の特効薬「リノベスクール仕掛け人が語る!」
大島芳彦氏(ブルースタジオ)×嶋田洋平氏(らいおん建築事務所)
●大正にはおもろいもんいっぱい「大阪のおもろいことやってる人が語る!」
服部滋樹氏(graf)×中川和彦氏(スタンダードブックストア)
●今、水辺がきているらしい「水辺の仕掛け人が語る!」
岩本唯史氏(ボートピープル・アソシエイション)×泉英明氏(ハートビートプラン)
パネラーは知る人ぞ知るそうそうたるメンバー。そのせいもあってか、当日はスタッフの想定を超える200名近くの人が集まった。地元に暮らす”大阪のおっちゃん、おばちゃん”たちだけでなく、全国各地から集まった街づくりやリノベーションに関心を持つ若者たちも多かったようだ。地元からの参加者も「うん、うん」とうなずきながら熱心に聞き入っている姿が印象的だった。
今回のイベントはプロジェクトの”キックオフ”的な位置づけで、リノベーションの具体的な活動はこれから始まっていく。あるパネラーは「打ち合わせをすると毎回飲み会が催され、大正区の人たちはノリが違う」という言葉を残していた。水辺があって、人情に厚く、沖縄の文化と伝統が受け継がれている大正区。果たしてどんなリノベーションプランが生み出され、大正区平尾はどんなまちへと生まれ変わっていくのか、プロジェクトの進捗を、期待を持って見守っていきたい。