県民包む重い空気 急性ストレス、蟻塚医師「気持ち表現を」


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気持ちを表す場を持つことの大切さを説明する、精神科医の蟻塚亮二さん=沖縄市の中部協同病院

 米軍属女性暴行殺人事件で受けた衝撃が治まらない。抗議集会では涙を流したり言葉に詰まったりする人、無言の訴えを示す人が相次ぐ。県民を包むこの息苦しさについて、精神科医で沖縄戦のトラウマ(心的外傷)などを調査する蟻塚亮二さんは「立ち位置によって濃淡はあるが、急性ストレス反応が同心円状に広がっている。事件を他人ごとと見られず身内の死のような反応を示しているのではないか」と分析する。

 現在は福島県相馬市でクリニックを開院する蟻塚さんは、月1回来県し、沖縄市の中部協同病院で診察をしている。県内の患者の反応について「政治に関心なさそうな人が日本政府を非難する。沖縄から福島に『助けて』とメールを送ってきた人もいた」と説明。「特に戦争体験者の中には、わが事のように涙を流す人がいる」と話した。

 蟻塚さんは、このような県民反応の背景に二つの要因があるとみている。一つは、1995年の少女暴行事件後の米軍基地に反対する運動の高まりだ。「沖縄の人は熱心に闘いを続け、翁長県政を誕生させた。しかし、今回、取り返しがつかないほどの挫折を経験した。それだけにショックが深く、何十年も前に戻されてしまった感覚があるのではないか」と話す。

 もう一つは、沖縄戦の強烈な体験だ。目前での身内の死など理解し難い出来事が起きた時、まるで自分も亡くなってしまうような感覚を持つという。

 「戦争体験者でなくても、戦争の話を聞いて育つ沖縄の人は、体験者と似たような感覚を持ちやすいのではないか。その結果、事件を他人ごとのように見られないのはではないか」と説明する。

 脱力感や虚無感、涙が出るなど、事件後の感情への対処法として、蟻塚さんは「目をそらしたり、逃げ出したりする反応があるが、そうではなく、自分の気持ちを表した方がいい」と話す。

 19日には事件に抗議する県民大会がある。「気持ちを表現するいい機会になる。精神的に会場に行けない人もいるだろう。家で黙とうするなど、その人なりの方法で表現することが大切だ」と話した。
(岩崎みどり)