買う   |   これからの住まい・暮らし
マンション管理の今とこれから
murayama
村島正彦
2016年6月2日 (木)

“管理良好”なマンションに学べ、数年がかりの管理組合改革[前編]

「管理良好」なマンションに学べ、5年をかけた管理組合改革[前編]
写真撮影/村島正彦
マンション住民を対象に公募したマンションマスコットの「ゆるキャラ」の発表が行われ、デザインした女性には管理組合理事から表彰状が手わたされた−−−−2016年4月末に行われた、東京都足立区のマンション、イニシア千住曙町の管理組合総会の風景だ。

2015年末現在、わが国の分譲マンションは約623万戸あり、日本人の約12%の世帯がマンションに居住している。東京都に限れば、約4分の1の世帯がマンション居住だ。

こうした分譲マンションと切っても切り離せないのが、マンション管理組合だ。管理組合とは「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)」に基づき区分所有建物を区分所有する区分所有者によって構成される団体である。つまりマンションの購入者(所有者)は、そのまま管理組合の構成員となる。管理組合は、建物や敷地など共用部分の維持管理を行う。そのため、管理費や修繕積立金を徴収し、管理組合理事会が中心となって、その運営に当たるのだ。

さて、冒頭に紹介したイニシア千住曙町は、2009年に分譲された515戸、5棟、24階建ての大規模マンション。良好な管理組合運営でメディアにも取り上げられるこのマンションについて、2回に分けて改革の内容や理事会の運営についてレポートする。

この日行われた年に一度の管理組合総会は、建物内にあるキッズスタジアム兼集会室を会場に行われた。出席したのは、理事会役員らを合わせて住民約50人で、集会室はほぼ満員だった。
副理事長の應田治彦さん(52歳)は「このマンションでは、議案書をあらかじめ配布して各議案について賛成・反対の事前投票を行っています。本日の第7期通常総会においては事前に97%の投票を得ており、提示した議案についてはほとんど反対もなかったので、総会では詳細の説明を行うのが中心になります」と話す。

土曜日の午前10時、マンションのお祭りやイベント、周辺町会との連携を行うマンション自治会の総会が先に執り行われ、自治会活動や予算執行についての説明があった。その後の40分程度で管理組合の議案の説明と採決がテンポ良くスムースに行われた。総会の締めくくりに、第7期から引き続き第8期の理事長をつとめることになった滝井康彦さん(63歳)から次年度の運営について「リカバリー&フューチャー」という所信表明が簡潔に述べられ、昼時には予定通り全ての議事を終えた。

500戸を超える大規模マンションの管理組合では、輪番制による理事会の硬直化や総会への出席や委任状の確保など、その運営に苦労しているマンションが多いと聞く。ここイニシア千住曙町の管理組合では、風通しのよい管理組合運営が進められ、最後にはゆるキャラの発表・表彰式というオマケのイベントも行われるなど、和気あいあいとして余裕の感じられる運営が印象的だった。

【画像1】4月末に開催された年に一度の管理組合定時総会の様子。この日は、理事等を含めて約50人の出席があった(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】4月末に開催された年に一度の管理組合定時総会の様子。この日は、理事等を含めて約50人の出席があった(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

問題をあぶり出し、絶え間なく取り組む管理組合改革

「マンションは管理を買え」という言葉がある。これは、良好な管理組合運営が行われているマンションは中古市場でも資産価値も維持される……ということに基づいたものだ。そうしたことを裏付けるように、ある住民からは「最近売りに出され成約した部屋がありましたが、価格は当初からあまり落ちていないようです」という話しが聞かれた。

イニシア千住曙町では、どのようにして「良好な管理組合運営」が行われているのであろうか?
マンション分譲直後の第1期から現在にかけて管理組合の役員をつとめる應田さんは「当初は、管理費・修繕積立金はほとんど余裕がなく、また部屋番号の輪番制による理事会という、財政・ガバナンスはとても脆弱(ぜいじゃく)なものでした」と最初はけして”良好”とは呼べなかった状況を振り返る。

【画像2】第1・2期に理事長をつとめ、現在も理事として管理組合理事会の運営に関わる應田治彦さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】第1・2期に理事長をつとめ、現在も理事として管理組合理事会の運営に関わる應田治彦さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

イニシア千住曙町の理事会は、これまでの7期にわたり改革に取り組んでいるという。ポイントはつぎに挙げる3つに集約される。
1)管理費用の見直しによるスリム化
2)修繕積立金の前倒ししての合理的値上げ
3)管理組合法人化と理事会の活性化

管理費用を見直して収支を改善、財政基盤を強固に

まず、「1)管理費用の見直しによるスリム化」については、各種契約を見直すなどして、これまで年約3200万円の収支改善を行ってきたという。見直したのは、以下の項目だ。

・共用部電力契約方式の変更、共用部保険の10年積立式への変更、臨時駐車場の有償化…などで400万円の収支改善
・利用が少なかったミニショップの廃止、管理委託会社の契約費削減…などで1100万円
・共用部照明のLED化、エレベーターの保守契約の切り替え…などで470万円
・コピー機の買い取り、ネットワーク保守経費の削減…などで160万円
・自販機無償化、防犯カメラ見直し、エレベーター保守の再見直し…などで370万円
・マンション全体で高圧一括受電移行、空き駐車場の外部貸し出し…で700万円

直近の第7期に行った一括受電については全戸の承諾が必要であり、粘り強い合意取り付けが求められた。このように理事会主導により、継続的に地道な管理費用のスリム化を図っている。
「管理費の収支改善は、理事会による裁量的経費の確保を目的としています」と應田さんは解説する。

これによって、住民用Web掲示板、理事会運営補助のマンション管理士費用や集合玄関にオリジナルマットの導入など住民の生活上の利便やマンション価値を高める費用を捻出しているのだという。しかも、わずかではあるものの管理費の値下げも行った。
また、管理費と駐車場利用料は消費税率に連動することも可決し、将来の管理組合財政悪化の不安にも万全に備えた。

将来値上げが必要となる修繕積立金、早目の値上げを実現

次に「2)修繕積立金の前倒ししての合理的値上げ」について。管理費に並んで、管理組合が持つもう一つの財源が修繕積立金だ。管理費が日々の清掃やフロント業務などの管理にまつわる財源で、一方の修繕積立金は5年、10年という建物の経年劣化に伴う修繕費用のための貯金の性格をもつ。

国土交通省は2011年に「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を示し、必要な計画修繕工事の費用を長期均等割で徴収することを勧めている。ただ、イニシア千住曙町では、分譲時期がそれ以前であったこともあり、初期には安く、5年毎に値上げしていく漸増方式と呼ばれる積立計画であったという。

分譲後の初期の5年間は118円/m2という徴収額だった。マンションの修繕計画の30年間を見通した総費用を均等割にすると248円/m2と計算されたという。実に2倍以上の開きがある。仮に80m2の住戸であれば約9400円/月の支払いが、約1万9800円/月へのアップである。

理事会では、その状況について「かわら版」と題した説明資料を幾度も各戸投函するなどし、念入りに説明を行うとともに、まずは5割アップし、その後順次値上げを行う案と、即刻約2倍に値上げする2つの案を示し住民に意見を求めた。この理事会の地道な活動が幸いし、修繕積立金については第6期より2倍値上げすることが9割の賛成で可決できたという。

理事長に集中していた責任や負荷を軽減、副理事長・委員会を設置

最後に「3)管理組合法人化と理事会の活性化」について。区分所有マンションで管理組合の法人化を行っている例は少ない。
あえて法人化を行った理由を應田さんに聞くと「従前は理事長の権限と責任が大きかった。法人化に伴い副理事長等に権限や負荷の分担を行い、合理的・円滑に管理組合運営を行うことを目的としました」と説明する。應田さん自身が2期理事長をつとめて、年に2.5億円という小さな村の予算規模の徴収を行い、400~500の決済にまつわる押印を行うなど、その責任の大きさに驚いたのだ。

マンション全体では20人近くの理事がいるものの、その役割と責任の大きさから理事長職についてはみな固辞され、決めるのが困難な状況が幾年も続いた。このため、理事長のほかに副理事長を3名置き、理事長を含む4名を法人の代表理事とし、3名の副理事長はそれぞれの分野の決裁権限をもつこととした。また、3名の監事の権限を強化した。

このほか20名からなる理事に就任しても理事会の進め方を学ぶのに最低3カ月はかかり、1期しか理事として活動しないと複数年にまたがる懸案事項についての処理ができず、理事会運営の継続性も危ぶまれた。そこで、理事については任期を2年間とし、1年毎に半数を改選し、経験豊かな理事から新人理事へノウハウ継承を可能にし、事業の引き継ぎも円滑に行われるよう工夫したという。

副理事長は3つの分野の委員会を分担し担当する。規約など共用部の決まり事、共用部の備品調達は「ソフト面」を担当する副理事長A、マンション建物の維持保全など「ハード面」を担当する副理事長B、防災や自治会連携など「ハート(コミュニティ)面」を担当する副理事長Cという構成だ。これら各委員会がそれぞれの事案を検討し、毎月開催される理事会では、理事長は管理会社や各委員会からの報告提案資料をさばく議長役に専念でき、真にマンションにとって重要な案件のみに集中することを可能にしたという。

それとともに、各副理事長、理事などが行う業務について、コンサルタント契約しているマンション管理士の手助けも得てマニュアル化した。

長くなってしまったが、以上の改革を分譲以降、逐次行ってきており、このことがイニシア千住曙町の良好な管理組合運営を行える土台となっているのだという。
後編では、管理組合の理事を担当していた住民の声をレポートする。

●取材協力
イニシア千住曙町
https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2015/12/201ab8460bc69341b6f401f3de2dd793.jpg
マンション管理の今とこれから 「より暮らしやすいマンション」を目指す、マンション管理の今とこれからについて、さまざまな事例や考え方を紹介していきます。
14
前の記事 マンション理事会のお悩み[2]漏水が発生…保険で補償される?
次の記事 “管理良好”なマンションに学べ、数年がかりの管理組合改革[後編]
SUUMOで住まいを探してみよう