【超フワ玉子焼き】「重曹」の美味しいレシピを科学の視点から考えてみる【理系メシ】

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重曹で玉子焼きが超フワフワに?

今回のテーマは「重曹」。どうも評判らしく以前から試してみたいと思っていた「ダイナマイト玉子焼き」と主婦たちの間で話題になった重曹入りの玉子焼きをつくってみる。

これがもう、とにかくフワフワになるんだそうだ。

 

重曹は、炭酸水素ナトリウム。

これを加熱すると、炭酸ナトリウム&水&二酸化炭素に変化する。二酸化炭素が粉を膨らませるので、とうぜん膨らし粉として利用できる。タマゴを膨らませて、口あたりを柔らかくするらしい。

 

というわけで、いきなりだが茉衣ちゃん、自己紹介を。

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「は~い、茉衣にゃんです!」  

茉衣ちゃん? ああ、高実茉衣ちゃんは科学実験酒場で私の助手をしている、コスプレアイドルだ。毎週日曜日にこの店でコスプレ姿でアシスタントをしてもらっている。

 

……ところで、なんでタマゴを持ってるの?

「『ダイナマイト玉子焼き』を知らないんですか?」 

知らんよ。なんだそれ。

「重曹でフワフワになるんですって」 

重曹? そりゃ重曹はふくらし粉だけどさ。

「ママさんたちの間で話題なんですよ!」 

 

ふむ。重曹は炭酸水素ナトリウム。これを加熱すると、炭酸ナトリウム&水&二酸化炭素に変化する。二酸化炭素が粉を膨らませるんだな。それでタマゴを膨らませようと。よくそんな大胆なことを思いつくねえ。

 

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「まずタマゴを割ります!」

割りましょう。タマゴは3つ使おうか。茉衣ちゃんは広島出身だから、やっぱり玉子焼きは甘いのが好きかな?

「甘いのが好きです〜」

 

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「ジャン! これが玉子焼きをフワフワにする魔法の粉です!」

重曹は食用と掃除用とあるからな。買う時は気を付けよう。知ってた?

「知ってます! 花嫁修業中なんです! おそうじは大好きです」

結婚するんだっけ?

「素敵な方を募集中です!」

 

重曹と言えば、10年ほど前、広告代理店から「重曹の使い方を考えてくれ」と相談されたことがある。

重曹=ベーキングパウダー=膨らし粉なのだが、どこで何を間違えたのか、ベーキングパウダーをホットケーキミックスみたいに焼けばお菓子ができるものだと勘違いした会社が、なんと「トン単位」で輸入してしまったのだという。

 

重曹? 膨らし粉なんて、どうにもならないだろうよ。

私は断ったのだが、その半年後、重曹ブームが来た。自然に優しい天然洗剤として、食器洗いからレンジ磨きまで、何にでも使えて安全安心と爆発的にヒットした。

俺のバカ! とみすみすチャンスを逃した頭の固さを呪ったものである。

 

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「小さじ半分を入れます! お砂糖とお塩をちょっぴり、茉衣の愛情もいっぱい入れてかき混ぜます!」

問題は苦みだね。

「苦いんですか?」

苦いよ。重曹から生成される炭酸ナトリウムはアルカリ度が高く、苦いんだ。

「苦いの、苦手かも」

 

重曹から生成される炭酸ナトリウムはアルカリ度が高く、苦い。

苦いのが苦手なら、ベーキングパウダーがいいだろう。ベーキングパウダーは重曹に酒石酸やミョウバンなど酸性の添加物を加えてあるため、アルカリ度が中和されて苦みが少ない。苦みが気になる場合はこちらを使うことをお勧めする。

 

さて、そろそろいい感じになってきたんじゃない?

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「はい、それじゃあ焼きます! こんな感じですか?」

ちなみにその玉子焼き器は銅製で熱伝導率が高いからな、中火でいいぞ。

 

……おお! 膨らむなあ!

「お菓子みたい」

 

焼くとわかるが、普通の玉子焼きと全然違う。膨らし粉が入っているから当たり前だが、みるみる膨張する。お菓子を焼く感覚でやらないと失敗するな、これ。

 

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「できました! 茉衣のスぺシャル玉子焼き、どうかな?」

ダイナマイトだなあ。でかいよ、これ。

 

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「左が重曹を入れたもの、右が普通に焼いた玉子焼きです!」

大きさが全然違う。

重曹入りはフワフワだ。

まるでスフレだね、これ。店で出すか。茉衣ちゃんプレミアつけて。

 

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「いいかも〜」

うん? だけど、色がヘンじゃない?

「ホントだ。青い? 黒い?」

なんでだ? 重曹がアルカリだからか? ちょっとググって、と。

なるほど、わかった。ゆでたまごの黄身が黒い時、あるじゃない?

「お弁当とかでありますね。黒いというか、青緑みたいなの」

あれはサビなんだな。

「サビ?」

白身のアミノ酸(シスチンやメチオチンなど)が熱で分解し、硫化水素が発生、それが卵黄の鉄分と結合して硫化第一鉄となる。その色だ。

「硫化鉄? 温泉みたいな?」

そうそう。卵白から硫黄分が出やすいph値は9.5〜10.0で、アルカリ度が高い時だ。通常、タマゴのph値は7.8程度(中性はph7)で、タマゴが古くなるとアルカリ度が高くなり、ゆで玉子の黄身が変色しやすくなるんだ。重曹から発生する炭酸ナトリウムはph11〜12とアルカリ度が高いため、ゆでたまごの黄身と同じように玉子焼きも変色してしまった。

※食べても身体に害はありません

 

じゃあ、食べてみて。

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「お菓子みたい。めっちゃ柔らかくておいしい!」

どれ? うん、おいしいね。ホントにお菓子だ。でもちょっと苦みがあるな。

「ですねえ」

小さじ半分では多いみたいね。あまり少なくても膨らまないだろうし、多めのひとつまみか、ベーキングパウダーを使うか……あれ、小さくなってない?

「ホントだ」

二酸化炭素が抜けてるのか。

「愛妻弁当に入れられないですね」

そうだね。作りたてしかおいしくない。オムレツの方がいいかもね。すぐに食べれば、フワフワだ。面白かったよ。はい、じゃあご挨拶。

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「みなさん、『ダイナマイト玉子焼き』いかがでしたか? 重曹を入れてつくるのも、つくりたてならかなり美味しかったです!」

 

それにしても、これを考えついた主婦の皆さんの大胆な発想には驚かされた。玉子焼きを作る時に、重曹をほんのひとつまみ。それだけでフワフワでダイナマイト。

「それじゃみなさん、がんばって作ってね! 茉衣にゃんも応援しているよ! バイにゃん!」

バイにゃん!

 

書いた人:川口友万

川口友万

サイエンスライター。科学情報サイト『サイエンスニュース』の編集統括。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。東京・武蔵小山で、毎週日曜日のみ、肉に電気を流して食べたり、ワインを超音波で振動させて飲むイベントバー『科学実験酒場』を主宰。

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