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50歳から考える、老後の暮らし
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冨丸 幸太
2015年9月14日 (月)

67歳で一戸建てから低層マンションへ 実際に住み替えたシニアの声

67歳で一戸建てから低層マンションへ 実際に住み替えたシニアの声
写真:iStock / thinkstock
在職中に住宅ローンを組んで家を購入し、定年までにローンを払い終え、引退後は「終の棲家」(ついのすみか)として終生住み続ける――。そんな価値観が主流だったのも今は昔。高齢化やライフスタイルの多様化によって、引退後に住み替えをするシニア層が増えている。ただ、その実、住み替えをしたシニア層の生の声を聞く機会は少ない。今回は、住み替えをしたシニアに取材し、その実像に迫る。

“終の棲家”のつもりだった一戸建てから、低層マンションに住み替え

今回、住み替えの経験談を話してくれたのは、中央線沿線の閑静な住宅街にある中古の低層マンションに今年4月に住み替えたばかりの田中良彦(仮名)さんだ。年齢は67歳。2人の娘は結婚して家を出ており、現在は64歳になる妻と2人で暮らしている。

田中さんは約20年前、当時築10年の中古一戸建てを購入した。間取りは4LDKで居住面積は約95m2だ。今回はその物件を売却する資金に少しの資金を追加して、これまで住んでいた一戸建てから目と鼻の先にある築5年程度の中古マンションに住み替えた。

住み替えた物件で一番のお気に入りが、ベランダから見る眺望だ(下の写真、田中さんが撮影)。田中さんの住戸は5階建ての4階にあり、窓からは同じマンションの別棟(3階建て)の屋上に植えられた植栽が見え、その先には広大な空が広がる。「都内の一戸建ては密集して建っていることが多く眺望を楽しめる物件は少ない。物件を見学したときに、この抜けるような眺望を見たことが住み替えの決め手となった」と田中さんはうれしそうに話す。また、ここから高架の線路を走る中央線の電車も見え、遊びにくる孫にも大好評だと言う。

田中さんが住み替えを決断するまでの期間は短かった。今年の2月下旬、売却物件が出たことをチラシで知り、物件を見学した。それで気に入り、3月下旬には購入契約に至った。「この物件に狙いを定めて待っていたわけではないが、以前から素敵なマンションだと妻と話していた。当時は明確に意識していなかったが、今振り返れば、住まいに求める条件が全て希望通りの“意中の物件”だった」(田中さん)。

住み替えの決め手となったベランダからの眺望(田中さんが撮影)

住み替えの決め手となったベランダからの眺望(田中さんが撮影)

希望の物件が出たら決断できるよう、住まいに求める条件を整理する

マンションに住み替えて居住面積は約20m2減った。しかし、それによる不自由さは感じないと言う。「子どもが独立してからというもの、夫婦が過ごす部屋はリビングや寝室などに限られる。全体の面積は減ったが、2人暮らしにはゆとりがあり快適に過ごせる。また、妻は一戸建てのときと比べて、1階で洗濯し、2階で干すために階段を昇降する必要がないなど家事動線が楽でいいと言っている」(田中さん)。セキュリティや管理なども基本は自力で行う一戸建てと比べて、マンションの方が楽で安心感もあるという。住み替えによる“想定外”は「今のところない」と田中さんは笑顔で話す。

シニアでの住み替えは、今度こそ“終の棲家”となる場合が大半だろう。その意味で失敗や後悔は回避したいが、住み替え物件選びのポイントはあるのだろうか。田中さんの場合、明確に意識していたわけではないと本人は言うが、過去の長い人生を振り返って、住まいに求める条件を整理していたことが挙げられる。

田中さんの条件は3つあった。まずは「新築マンションより中古マンション」。現物を見ずにモデルルームだけを見て購入することに不安があった。それに、築浅なら躯体がしっかりしていると考えた。次に「タワーマンションより低層マンション」。高層マンションは災害時に不安があり、大地から離れた感覚が落ち着かない。最後が「エリアは周辺で」。東京にしては緑豊かな環境と、これまで築いてきた地元との関係を続けていきたかった。

子どもの教育や会社の事情による制約や引越しまでの期限がある現役世代と比べて、シニアの住み替えは切迫感を抱く必要はない。しかし、意中の物件が出たらすぐに決断できるよう、住まいに求める条件を整理しておく必要がある。
「老後は子どもに頼らず、自力で暮らしていくつもりでいる。どちらかが1人になってケア施設などに入る場合に資金が必要なことを考えると、流動性が高く売却しやすいマンションの方が魅力」(田中さん)

終の棲家と思って購入した住まいも家族構成やライフスタイルが変化することで、時にそうではなくなる。これまでの人生を振り返り、今の暮らしを客観視して、住まいに求める条件を整理する。そうすることによって真の終の棲家が見つかるのではなかろうか。

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