JR西日本が3月に開業させる新駅は、JR神戸線六甲道~灘間に設置する「摩耶(まや)駅」と、御着(ごちゃく)~姫路間の「東姫路駅」。京阪神を結ぶ幹線としては「桂川駅」以来の、8年ぶりとなる新駅だ。
新駅には地元住民や企業、自治体などが積極的に誘致し、建設費用の一部を負担する「請願駅」と呼ばれるものと、逆に鉄道会社が主導して自治体などに計画を持ちかけるものがあるそうだが、今回はどうなのだろうか? 西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)近畿統括本部総務課の西内花菜子氏にうかがってみた。
「今回の2駅に関してはいわゆる請願駅というものではなく、JR西日本が主体となって地元の自治体とも協議をしながら進めた新駅計画です。周辺道路の整備など地元自治体にもご負担いただいた費用もありますが、駅舎建設など基本的な整備は自治体協力のもと当社が行っています」とのこと。
地元にとっては、多額な費用をかけずに駅ができて利便性がアップするのだから、うれしい話である(例えば摩耶駅の建設費用は約40億円という報道もある)。何故、JR西日本は費用をかけて新たに駅をつくろうとしているのか?
人口減少が現実となった現代の日本は、手を打たなければ乗客数も自然減少していく可能性が高いという、鉄道会社にとっては厳しい市場でもある。各社は都市開発や商業施設の運営など多角化による収益確保も図るとともに、自社路線の利用客を増やすためのさまざまな戦略を進めているが、そのひとつが自社主導による積極的な新駅の設置だ。
実は、JR西日本ではJR神戸線・JR京都線において、この10年間でも4つの新駅を設置してきている。JR神戸線・JR京都線は京阪神を直通で結ぶ大動脈だが競合する私鉄路線も多く、速度や運賃面でも厳しい競争を続けている路線である。その中で積極果敢に新駅投資を続けてきたわけだが、その成果や影響はどうなっているのか?
西内氏によると「おかげさまで、いずれの駅も乗客数は順調に伸びています。開業翌年の年間乗客数と直近の年間乗客数を比べると約40%から約100%アップとなっています」とのこと。
これらの4つの駅も請願駅ではなく、JR西日本が主体となり自治体などと協力して開業した新駅だ。鉄道会社の投資計画としては成功、と判断してもよさそうだ。逆にいうと、乗客数が確保できるというリサーチを綿密に行った新駅投資計画なのだろう。それだけのポテンシャルを秘めた場所でないと、新駅計画は成立しないはずだ。こうした投資の成果もあって、JR西日本の輸送人員は減少とはならずに横ばいを維持しているようだ。
いっぽう、新駅が誕生して乗降客が増えると、街にも新しい人の流れが生まれる。
来春へ向け開業準備が進む摩耶駅周辺では、駅に隣接する場所でマンション開発も行われている。2018年開業予定の摂津富田~茨木間の新駅予定地周辺でもマンション開発が始まっている。新駅の開業によって利便性の高い住宅地がうまれ、住宅開発が進むという現象だ。
また桂川駅では、隣接するビール工場跡地再開発によりショッピングモールが誕生したことも乗客数が大きく伸びた一因だろう。定住者が増えるばかりではなく、ショッピングモールの最寄駅として来訪者が増えるケースも考えられる。2019年春に開業予定の嵯峨野線 京都~丹波口間の新駅は、「京都鉄道博物館(2016年4月オープン予定)」の最寄駅としても期待されている。
今後も新駅が予定される周辺では、人の流れに変化がうまれるはずだ。新駅ができる街は、ポテンシャルを秘めている可能性が高い。住む街を選ぶ際は見逃せない情報であることは確かだ。