40年ぶり同居 島言葉「みゃーくふつ」母娘つなぐ


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みゃーくふつで心を通わす前川良子さん(右)とカナさん=6日、宮古島市下地

 【宮古島】40年ぶりに故郷の宮古島市に戻った娘が慣れない「みゃーくふつ」を通じて、高齢の母と心を通わしている。20歳で東京に出た前川良子さん(64)=市下地=は2012年から故郷に戻り、母のカナさん(98)と暮らす。

 前川さんは当初は標準語しか話せず、耳も遠くなったカナさんとうまくコミュニケーションが取れなかった。だが、ある日偶然に出たみゃーくふつが娘と母の心の距離を縮めた。前川さんは「標準語では伝わらなかった気持ちが方言では伝わる」と実感を込めて語る。

 前川さんは90歳を過ぎても故郷で1人暮らしをするカナさんを心配して、定年退職を機に40年ぶりに実家に戻った。同居を始めて1年たったが、カナさんに話し掛けてもうまく意思疎通ができない。時には腹を立てることもあった。

 ある日のお昼時。カナさんが食事をえり好みしようとしたのを見かねて「ういまいかいまいふぁいよー(あれもこれも食べてね)」と、みゃーくふつが思わず口に出た。

 標準語励行の時代に幼少期を過ごした前川さんは、みゃーくふつを聞き取れはするが話せない。だが、この時は母の体を心配する思いから不思議と口に出た。すると、カナさんは呼び掛けに素直に応じたのだった。

 「方言で話すと伝わる感じがした」。前川さんはカナさんにみゃーくふつを習い始めた。カナさんも積極的に教えた。前川さんは昨年末にしまくとぅば講座も受講し、見る見る上達した。

 6月に開かれた「第23回鳴りとぅゆんみゃーく方言大会」では準優勝に輝いた。当初は片言でたどたどしく話していたが、今ではカナさんとの日常会話は全てみゃーくふつだ。

 「言葉を得たことで、母にもっと寄り添える気がする」と前川さん。「母ちゃんが私の方言の先生よ」と語り掛けると、カナさんは「上等さぁ。方言がいいけど、今は話す人がいない。でももっと習いなさい」と手厳しくも温かく応じた。(梅田正覚)