梅酒作りも輸入旧車も「あえての手間ヒマ」に価値がある
2016/07/01
スーパーでも買える梅酒をわざわざ家で作る意味
過日、生まれて初めて「梅酒」を自宅で仕込んでみた。初めてのことゆえ今ひとつ勝手がわからず、数ヵ月後どんな味になるのか想像もつかないが、とにかくその作業はひたすら楽しかった。出来上がりが今から楽しみでならない。
合理的に考えれば、わざわざ自宅で手間と時間をかけて梅酒を作る意味はあまりない。スーパーに行けばチョーヤの梅酒がいくらでも売っているし、もっとマニアックなものが欲しい場合でも、今の時代はネット通販でかなりのモノが買える。少なくともスーパーやネット通販で市販品を買う方が、自分で仕込むより確実に便利だとは言うことができるだろう。
だが、やはりこの「自分でアレコレ考えながら仕込み、その結果として出来上がる宇宙で唯一のオリジナル品を味わう」という行為自体が、便利だとか不便だとかいう浮世の瑣末な問題を超えて、ただひたすらに楽しいのである。梅酒を仕込んでみて本当に良かったと思っている(まだ出来上がってないですけど)。
それと同様に車も、「ちょっとクラシカルなやつを買い、それにアレコレ仕込みを加えながら宇宙で唯一のオリジナル品に仕上げていく」という行為が、もしかしたらいちばん楽しいのかもしれないなぁと思う昨今だ。その場合の車種は別に何でも構わないのだが、例えばシトロエン GSやルノー 4、BMW 2002あたりが、趣味性と実用性がちょうどいい塩梅で釣り合うポイントだろうか。
輸入旧車のコンディションは「松・竹・梅」で考えるとわかりやすい
そういった年式のこういったモデルというのは、希に「完全レストア済みで機関も絶好調。買って登録したその日から、何の手を加えることなく買い物の足あるいはグランドツアラーとしてフツーに使えます」というケースもある。しかし、たいていの場合は筆者が言う以下の「松・竹・梅」に当てはまる状態であるはずだ。
●松:かなり状態が良く、手を入れるべきポイントはほとんどない。しかし、それでも一部に年式なりの劣化等はあるため、そこを今後どうするかはゆっくり考えていかねばならない。
●竹:普通に状態が良く、特に問題なく走行することができる。しかし、それでもあちこちに年式なりの劣化等はあるため、そこをどうするか、長い目で検討しなくてはならない。
●梅:ある程度フツーに動くは動くが、各所に問題は山積している。そこをどうするか、こうなったら急いでも仕方ないので、とにかくじっくり検討しなければならない。
当然ながら車両価格は「松」から「梅」に向かっていくほど安くなるわけだが、その分、かかる手間ヒマとお金は増大していく。基本的に旧車ビギナーであれば「松」を選ぶのが安パイであり、攻めたとしてもせいぜい「竹」だろう。最初に買う旧車が「梅」ではそのまますべてに嫌気が差し、最終的には「都会人の移動は電車とタクシーがいちばん!」という悟りの境地に達してしまう危険性もある。まあそんな悟りも決して悪いものではないが、自動車趣味人としては考えものだ。
同じ「味」はこの世に2台とない。だから、愛おしくなる
そして「竹」であれば無論のこと、「松」であっても旧車は旧車なので、乗っているうちに必ずどこかが調子を崩したりはする。そうなると手間もかかるし、お金もある程度かかるのは当然のこと。それを聞いて、「うむう……やっぱ面倒くさそうだからそういったクラシカル系を買うのはやめとこうかな」と思う人も多いだろう。
それはそれで個人の判断であるゆえ、筆者から言うべきことは特にない。ただ一つだけアドバイスをさせていただくとしたら、「そこが逆にイイんじゃないですか!」ということだ。
例えばスレが激しくなったレザー巻きステアリングホイールを交換すること一つとっても、「純正品を根気よく探すか、それとも純正風の社外品にするか? はたまた純正とはまったく別ニュアンスの品を装着することで新たな世界観を創出してみるか?」というような選択肢があり、いちいち決断を迫られる。それはある意味、梅酒をわざわざ仕込むのと同様に面倒くさいことではある。しかし、梅酒をわざわざ仕込むのと同様に「楽しい手間ヒマ」でもあるのだ。
で、そういったモロモロを経て出来上がった1台は、完全に「あなただけの1台」だ。世間に同型車はたくさんあるのかもしれないが、各部のヤレ方やその直し方、部品選択のセンスまで含めて考えると、まったく同じ車は世界に2台とない。で、満足のいく仕上がりまで達したあかつきには、このうえない歓びにあなたは震えることだろう。
そしてその震えは、「旧車っぽい雰囲気で作られた最近の車」を買うことでは決して感じることのできないものだ。近年ワイドショーを賑わしているようなお金で買う海外のインチキ学位と、自ら真剣に努力した結果手に入れた学位ぐらいの差……と言えばいいだろうか。
ということで、もしもご興味があるのであれば、ぜひ。
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