「会社員であること」に縛られていないか?50歳で朝日新聞を辞めた“アフロ記者”が提言する「会社からの自立」

 朝日新聞社といえば、日本の誰もが知っている「超大手企業」。そして、大手の中でも給与水準が高いと言われています。

 その朝日新聞社に28年間務め、記者、デスクを経て論説委員として活躍してきたのが、稲垣えみ子さん。「アフロヘアの新聞記者」としてメディアでも頻繁に紹介されているので、ご存知の方も多いでしょう。

 そんな稲垣さんが朝日新聞を退職したのが、今年の1月。「50歳、夫なし、子どもなし、無職」となった彼女が「会社を辞めるということ」に真摯に向き合い、自身の生き方を1冊の本にまとめました。

 その著書『魂の退社』の中から、今回は「働くとは何か」を考えさせられる一部を抜粋し、ご紹介したいと思います。

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会社勤めをしている人がエライ、高給取りがエライ…こんな思考に陥っていないか?

 会社を辞めるに際し、恵まれた境遇を捨てることに対して多くの人から「もったいない」と言われ続けたという彼女。それに対する解として、「おいしいことからいい加減逃げ出さねばならない」との思いを紹介している。

「高い給与、恵まれた立場に慣れ切ってしまうと、そこから離れることがどんどん難しくなる。そればかりか『もっともっと』と追求し、さらに恐ろしいのは、その境遇が少しでも損なわれることに恐怖や怒りを覚え始める。その結果どうなるか。自由な精神はどんどん失われ、恐怖と不安に人生を支配されかねない」(プロローグより)

 まっとうに会社で働いている人たちが日本を支えているわけではなく、会社で働いていない人だって日本を支えている。フリーランスはもちろん、専業主婦や、リタイヤした高齢者、子ども、何らかの事情で働けない人も、さまざまな人が存在し、「会社で働く」以外の何らかの方法で周りに貢献している。

 しかし、会社で働いているとそんなことを忘れてしまい、お金を稼がなければ何も始められないと思いがちだ。果ては「高給をもらっている人がえらい」とまで思ってしまいかねない――こんな感情に支配されていて、果たして「幸せな人生」を送れるのだろうか。

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会社への依存度を下げることで、本来の「働く喜び」が蘇る

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 この感覚をまさに体験している著者は、「会社に依存し過ぎている現代の日本人」に警鐘を鳴らしている。そして「会社依存度を下げ、自立すること」を勧める。その理由はこうだ。

 働く原動力は、本来「もっとお金がほしい」「もっと偉くなりたい」という欲求、そして「自分の仕事が人のために立っていて、喜ばれていると実感したい」という思いにあった。高度経済成長期からバブル期においては、この3つがうまくバランスを取り、働く人々のモチベーションを維持し続けてきた。

 しかし、経済成長が鈍化し、モノが売れにくくなる時代においては、肝心の「自分の仕事が人の役に立っている」という感覚が得られにくい。そのため、働く原動力が「カネと人事」だけになってしまっているのではないか…と分析する。

 こんな時代だからこそ…と著者が提案するのは、「ほんの少しでいいから自分の中の『会社依存度』を下げる」こと。

 例えば、会社から得られる給与の額は人それぞれだが、可能な限りその給与に全面的に依存しないようにする。副業するというわけではなく、生活を見直し、自分に本当に必要なものは何かを見極め、少しでいいから支出を抑えてみる。その結果、少しずつでも「使わないお金」が溜まっていけば、それだけでも会社に対しても「構え」が変わってくるのではないか、と提案する。

 実際、著者は「買いたいモノを買い、食べたいものを食べる」欲望全開の生活を見直し、電気を極力使わない生活を実施。現在では、冷蔵庫、電子レンジ、掃除機、炊飯器…あらゆる家電を持たない。1カ月の電気代はわずか200円台だという。

 また、「会社で働くこと以外に、何でもいいから好きなことを見つける」ことも勧めている。

 同じ趣味を持つ仲間を作り、定期的に活動するだけでも、自身の価値観が会社に則られてしまう度合いは減るのではないか、という。会社以外の場所を作ることで、ものの見方や考え方が複眼的になり、気持ちに余裕ができてくるはず…という考え方だ。

 このような方法で「会社依存度を下げる」ことができれば、「自分の仕事が人のために立っていて、喜ばれていると実感したい」という、本来の“仕事の喜び”も蘇ってくるはずだと説いている。人がどうすれば喜びかを考えるのは、創造的で心躍る行為であり、「お金」や「人事」など自分の利益だけを考えていては実現できないからだ。

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退社したからこそ、仕事の素晴らしさ、働く喜びに気付けた

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『魂の退社』の一部を、ご紹介させていただきました。

 会社への依存度を下げると、本来の仕事のやりがい、喜びが純粋に追求できる――この一見、相反するように思えることも、著者の実体験に基づいたアドバイスだからこそ、納得できます。

 本書においては、上記のような「働き方の提案」だけではなく、稲垣さんが退職に至るまでの気付きや葛藤などが、軽快なタッチで描かれています。そして「会社を辞める」という選択をした稲垣さんですが、本書を通じて「会社員として働くこと」の楽しさや愛情も強く感じることができます。

「会社を辞めて、『ずいぶんと下駄をはかせてもらった』ことに気付いた」という稲垣さん、現在は「自身の身の丈」を知ったことで、①古くて狭い家でも平気、②お金がそんなになくても平気、③家事ができる、④近所づきあい、友だちづきあいができる、⑤健康である、という自身の「できること」に気付けたそうです。そして、会社を辞めたからこそ、「仕事の素晴らしさ、働く喜び」も強く実感しているのだとか。

 もし「会社とは何か」「働くとは何か」に悩んでいるのであれば、この本を手に取ってみるといいかもしれません。稲垣さんの「生き方」に笑い、「働く」に対する持論に考えさせられ…読み終える頃には何らかのヒントが得られているのではないでしょうか。

 なかには「会社になんて依存していない」という人もいるかもしれませんが、多くの人は1日8時間以上という長い時間を会社に費やしています。その時間を、果たして自分はどのように使っているのか。

 これからまだまだ続くかもしれない、会社員人生。この本を読むことで、「働くことの本質」を考える機会を持ってみてもいいかもしれません。

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参考書籍:『魂の退社』/稲垣えみ子/東洋経済新報社

EDIT&WRITING:伊藤理子

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