2018年6月10日掲載 

シスター・チャンコン  Photo by Paul Davis.

“シスター・チャン・コンが語る ティク・ナット・ハン”

仏教誌『Lion's Roar』2018年6月8日インタビュー記事 日本語訳

 

ティク・ナット・ハン禅師の健康状態と

その教え、共同体の未来について、

ティク・ナット・ハン禅師に最も近い協力者の

シスター・チャン・コンが語るインタビュー。


 

メルヴィン・マクラウド:3年前の脳いっ血以降、ティク・ナット・ハン師は現在タイ国のプラムヴィレッジで療養され、回復をはかられていますが、今のご様子はいかがですか?

 

まだ自分の足で立つことはできませんが、日に日に力強さを増しています。あまり明瞭ではないものの、言葉もいくらか話し始めています。時々私たちが「ここに着いた、今ここにお帰りなさい…」といった歌を歌うと、「ここ」「いま」などの言葉を言います。回復は順調ですが、ゆっくりとしています。

 

 

タイ(ティク・ナット・ハン師)のサンフランシスコでの治療中、光栄にもお見舞いする機会がありました。車いすに乗られ、言葉を発することはありませんでしたが、相変わらず頭脳明晰で、その場の出来事を理解されていることは明らかでした。シスターはその時サンフランシスコでタイに付き添われていました。そして、タイは生死をさまよう状態だったと話してくださいましたね。

 

それまでにも、ティク・ナット・ハンは長年大きな健康問題を抱えていました──肺と消化器官に──脳いっ血の発作以前のことでした。そして、脳いっ血を起こした時には、神経科の医師たちに1日もたないだろうと言われたのです。こうして生き永らえたことを、私は奇跡だと思っています。

 

 

そうですね。あなたは世界中の人々からの祈りと善意の願いを信じると言われました──弟子であろうとなかろうと、仏教徒もそれ以外の信仰の人々からであろうと──それがあの変化を起こしたのだと。

 

ティク・ナット・ハンが脳いっ血を乗り越えて三日後、フランスのある地方の神経内科の権威の病院に移送されました。その際に報道陣が間違えて、ティク・ナット・ハン師が死去した、との誤報を出したのです。貴誌のアンドレア・ミラー氏から、その真偽を確かめる電話を受けました。私は「いいえ、私の師はまだ生きています」と答え、ミラー氏は「まだ師が存命だと発表してもよろしいですか?」と尋ねられ、私は「もちろんです、お願いします。」とお伝えしました。

その発表後、数百万人もの人々が、心からの癒しと愛のエネルギーをティク・ナット・ハン師に送ったのです。その後、神経内科医がティク・ナット・ハン師の脳内にあった液体が大幅に減ったことを発見し、こう言いました。「なぜこうしたことが起きたのか、私には理解できませんが、彼が生きるということは確かです。」

 

 

ティク・ナット・ハン師の教えによって何千万人もの人々が恩恵を受け、この数十年で、何十万もの人々がその教えを実際に聴きに訪れました。私は幸運にも日間のリトリートに参加できましたが、師のダルマの教えは、これまで私が聞いた中でもっとも力強く、包括的なものでした。現在タイご自身が教えを説くことはなくなったわけですが、その教えはこれからも人々の元に届き続けるのでしょうか?

 

タイが脳いっ血で倒れた当初、続けていくことは難しいのではないかと私たちは思いました。毎年フランスのプラムヴィレッジでは、4日間に渡って法話を聴き、実践する集まりがあります。タイ自身が法話している頃は1200~1300人程が集まってきていました。現在も以前と変わらない数の人々が法話を聞きにプラムヴィレッジを訪れています。もしかしたら更に多いかもしれません。

 

タイの強い影響力が未だ広がりつつあることは

間違いありません。

 

つまり、ティク・ナット・ハンの教えの恩恵はヨーロッパ、米国、アジア、そして他地域において、これからも続いていくでしょう。タイの教えを継続していくことに問題が起こるとは私は思いません。多くの人々が著書を読んだことをきっかけにやってきます。彼らは変わっていくためにベストを尽くそうと、マインドフルネスの1日や1週間を過ごしに来るのです。タイの強い影響力が未だ広がりつつあることは間違いありません。

 

 

ティク・ナット・ハン師は後継者を一切指名されませんでした。たとえあなたのような自分自身のもっとも古くからの弟子であっても。ティク・ナット・ハンの宗派と共同体の未来は?

 

脳いっ血で倒れるよりも前に、タイは全てをあらかじめ準備していたと私は思います。自身を継ぐひとりだけの後継者をタイは望みませんでした。タイはサンガの集合的な洞察が非常に大切なのだと言ったのです。

 

つまり、ティク・ナット・ハンの継続とは、ダルマ・ティーチャーたちのサンガと、僧と尼僧たちのサンガ、そして在家実践者たちのサンガなのです。ここが肝心なのです。一見、年長の尼僧である私には権力や正しい見識がある、と思うかもしれませんが、それは違うのです。多くのダルマ・ティーチャーたちによる集合的な洞察が必要とされています。それがティク・ナット・ハンの法印のひとつです。ティク・ナット・ハンはその継承を、僧侶たちと在家者たちから成るサンガ全体に対して与えたのです。

 


シスター・チャン・コン

シスター・チャン・コンはティク・ナット・ハン禅師のもとで具足戒を授かった最初の出家者の弟子。現在、世界プラムヴィレッジ・サンガの長老の尼僧。10代でスラム街での福祉活動を始め、後にベトナムのボートピープルや孤児、戦争・自然災害被災地への救済活動に尽力。1960年代から現在まで、ティク・ナット・ハン師の人道支援プロジェクトの主事をはじめ多くの活動の中心的役割を果たし、公私に渡ってティク・ナット・ハン師の重要な補佐役を務める。プラムヴィレッジ設立、社会福祉活動家のための教育機関の発足などを助けた。1938年ベトナム・ベンチェ省生まれ。


(翻訳・文責 西田佳奈子/ハートオブ東京サンガ)