シンクロライフとの実証実験を開始した三菱UFJニコスの公式ウェブサイト。
撮影:川村力
世界初「食事するだけで暗号通貨が貯まる」グルメSNSのシンクロライフは7月25日、三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)のクレジットカード子会社、三菱UFJニコスと協働して、決済データをマーケティングに活用する実証実験を始めると発表した。
実証実験では、三菱UFJニコスの社員が同社のクレジットカード加盟店で飲食した際、会計時に同社発行のカードを使って決済すると、その利用明細データに基づき、飲食代金の一部が暗号通貨「シンクロコイン(SYC)」で還元される。
シンクロライフアプリとクレジットカードのWEBアカウントをあらかじめ紐づけておくことで、カード利用明細に決済が反映された日から15日以内に、アプリ内のウォレットを通じて暗号通貨を受け取れる。
シンクロライフの従来サービスでは、飲食代金の支払い後、加盟店側が提示するQRコードをユーザー側のアプリで読み取り、代金を入力するといった手間があった。クレジットカードの利用明細データを活用することで、それらの面倒を省いて暗号通貨の受け取りが可能になる。
なお、三菱UFJニコスの加盟飲食店で暗号通貨の還元を行うのは実証実験中のみで、終了後も継続するにはシンクロライフの加盟店登録を行う必要がある。
大手決済事業者と次々連携するメリット
オリコとシンクロライフの資本業務提携を伝えるリリース文書。三菱UFJニコスとの実証実験開始のほぼ1週間前の発表。
出典:Orico
シンクロライフは、7月17日に信販大手のオリエントコーポレーションと資本業務提携を結んだばかり。今回の三菱UFJニコスとの取り組みにより、またしても大手決済事業者との連携を広げたことになる。
三菱UFJニコスとオリコに共通する現時点でのメリットは、シンクロライフと協働して暗号通貨を付与することが、自社カード会員への新たなサービス提供になるとともに、自社加盟店でのカード利用額増大につながること。
シンクロライフのサービスは、飲食店にとって完全成功報酬型の広告事業とも言える(詳細は以下の過去記事を参照)仕組みなので、カード会社が自らの加盟店にサービス導入を促すリスクもコストもほぼゼロだ。
カード会社の加盟店も、シンクロライフを導入することで、来店客への暗号通貨付与やアプリ上での露出増などの優遇を受け、集客の可能性を広げることができる。
一方、シンクロライフ側にとっては、オリコなら全国80万店以上の加盟店、1000万人以上のクレジットカード会員を対象に、三菱UFJニコスなら3000万人以上の会員(加盟店数は公式サイト等では非公開)を対象に、認知度を一気に広げ、ユーザーや加盟店を増やす基盤になる。
飲食店への「送客モデル」確立急ぐ
シンクロライフの加盟店になると、来店客への暗号通貨還元や、左のアプリ画面のように「SYC還元」カテゴリに店舗情報と還元率が掲載されるなどのメリットがある。加盟店登録時点の費用負担はゼロで、アプリ経由で客が来店した場合にその飲食代金の5%をシンクロライフに支払えばいい。いわば完全成功報酬型の広告による誘(送)客モデルと言える。
提供:GINKAN
実は、オリコとの資本業務提携後、ソーシャルメディアやSNSなどでこんな意見が多くあがっていた。
「食事して貯めた暗号通貨を使う方法を早く示してほしい」
「暗号通貨は価値が変動するのが魅力。評価が高まったシンクロコインを、アプリ内のウォレットからそのまま飲食代の決済に充てられるようにしてほしい」
これに対し、シンクロライフの神谷知愛CEOは、Business Insider japan編集部の取材にこう答えている。
「受け取った暗号通貨をすぐ使ってしまうのは、正直つまらないことだと思っています(笑)。まずは、日々価格が変動する暗号通貨保有の『体験』をしてほしい。約1年前から保有している人たちのシンクロコインの価値は、すでに3倍近くなっているんです。
もちろん、暗号通貨の『保有』の先に『使用』という利便性を加えたモデルの確立は急いでいますが、コストフルな決済事業への進出よりは、何よりもまずそうした『体験』を増やしたいと考え、決済事業者との連携を選んだんです」
神谷CEOは、2019年中に1000店舗の加盟店登録を目指しているという。影響力を拡大したシンクロライフが、暗号通貨を通じて飲食店を活性化するだけでなく、連携した決済事業者とともに暗号通貨を含めたフィンテック(FinTech)の新サービスやデータ活用の新たな領域を切り拓く展開に期待したい。
※シンクロライフはサービス名で、運営会社はGINKAN(東京都港区)。記事中では便宜上シンクロライフで統一した。
(文:川村力)