豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

富士山救助失敗の件でちょっと長めに書いてみる

2016年02月08日 | 遭難と救助について考える
富士山の救助失敗の件については静岡市が事故調査委員会を立ち上げ、2014年3月に調査結果を報告しています。(参考URL

で、この件で遭難者の遺族が静岡市を訴えるというニュースが報道された時にふと思い出したのですが、国土交通省の運輸安全委員会もこの件で調査をしているのではないかと。東邦航空の篠原氏が亡くなった事故でも調査が入っていますので、富士山の方も当然調査が入ってるものと思い込んで検索してみました。が、見つからないんですよね。

そこでいろいろ検索かましてみたところ、以下のブログがヒットしました。そういえばこのブログ、不覚にも最近はほとんど見ていませんでした。

富士山救助ミス 裁判へ、、、/ドクターヘリパイロット(元)奮闘記

引用
この事故の調査がなぜ不明朗であるかと言うことを再度取り上げますが、事故調査は当事者である静岡市が調査委員会を設けて行っただけで、航空事故調査や県警による刑事事件としての捜査もされなかったようです
引用おわり

あれま、運輸委員会どころか県警の捜査も無かったのですか。こういうケースでは警察が捜査するのが普通だと思うのですが、それすら無いとは…
富山県警山岳警備隊の隊員が訓練中に雪崩に遭遇して1人が死亡した事故がありましたけど、あれだって業務上過失致死傷の容疑で捜査されています。

引用
この遭難者の方が命を落としたのがヘリからの落下によるものか、翌朝まで放置されたための凍死なのかそれとも救助される前から高山病が原因なのか調べてみないと判りませんし、ヘリのホイストから落下したことは事実のようですから、救助作業に何らかの過失や違法行為がなかったも、身内で調べるのではなく、第3者の安全運輸委員会や、過失致死などの疑いで司法当局が厳正な調べをするべきであったことは間違いありません。
引用おわり


うむむ、まさにそのとおり。静岡市の調査が公表された時はそのまんま鵜呑みにしたエントリーを書いてしまいましたけど、よくよく考えると事故の当事者である静岡市が自分で調査しているわけです。責任問題を回避するように報告書の結論を持っていっても何ら不思議ではありません。






ところで、富士山の救助失敗の件について運輸安全委員会の調査が気になった理由なんですけど、それは以下の記事を読んだからです。

ヘリから落下の男性遺族、静岡市を提訴
毎日新聞  2016年1月8日


引用
市救助事故調査委は14年3月にまとめた報告書で、つり上げ用具がすり抜けた要因として「男性が負傷の痛みで姿勢を変えようとした」など三つを挙げたが特定しなかった。
引用おわり

この部分を読んだ時、正直、目が点になりましたよ。ケガをしている要救助者が痛みに耐えかねて身体をよじっただけで救助器具からスッポ抜けるようでは、救助器具の意味が無いじゃん、と。
2014年3月に報道された時はスキッドに足が引っかかったという話が出ていて、「男性が負傷の痛みで姿勢を変えようとした」という要因は出ていませんでした。


そういえばあの報告書だと再発防止策として「救助中の異常を監視する隊員をヘリに同乗させるなど再発防止策も盛り込む」なんて話が出ていました。以下のページの下部に出ています。

富士山の件で静岡市の事故調査委員会が調査結果を公表/豊後ピートのブログ

ホイストでの吊り上げ中に起こる異常を監視するのは、ホイストマンです。通常はそれで充分です。今回みたいなスッポ抜けでは監視役が他にいても操作が間に合わないでしょうし、ただでさえ重量にシビアな標高3000m以上でのレスキューで余計な人員をひとり載せて監視させるなんてのは変な話です。そして、そんな再発防止策よりももっと有効で簡単な対策である「股間を通す補助ベルトを必ず装着する」ことについては触れていません。

このエントリーを書いた時もなんだか変だなあと思いましたけど、元ドクターヘリパイロット氏のエントリーを読んでようやく納得いきました。つまり、補助ベルトを装着すべきだったと報告書に書くと過失を認めたことになってしまう可能性があるので、それを巧みに回避した内容の報告書を作ったということです。

遺族へもそれを元に説明したのでしょうけど、要救助者が身体をよじったことに原因があるなんて言われたら怒りを覚えるでしょうな。その結果、訴訟になったのかもしれません。



いちおう書いておきますけど、現場に出動した隊員達は問題無いと思います。基準に従って「サバイバースリング装着、補助ベルト無し」と判断し、日頃の訓練通りに救助活動を行った結果、要救助者がスッポ抜けたわけです。だとしたら問題なのはその基準であり、それを決めた組織の上の方にあるのではないでしょうか。

ついでにもうひとつ。毎日新聞の記事だと遺族が示談を要求してたなんて書いています。それを元に「カネ目当てじゃねーか!」と吹き上がってるツィートをどこかで読んだんですけど、それもアレですね。本当にカネ目当てであれば、いつまでもまどろっこしく示談交渉なんかしないでしょう。報告書が出た時点で裁判に訴えているはずです。今回の訴訟は事故発生から2年も経過していることを思い出してください。


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5 コメント

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Unknown (ons)
2016-02-09 02:18:30
吊り上げ時に要救がカラビナで指を挟んだ事故ですら運輸安全委員会の調査があったのに、死亡事故で調査されないというのは、どういう基準で調査してるんでしょうね。

http://flyteam.jp/news/article/49362
Unknown (bongo-pete)
2016-02-09 06:08:06
ons様

リンク先読みましたけど、こんなんでも調査が入るんですね。ますますワケがわからなくなりました。
当事者が反対すると調査できないとかってあるんですかね?ヒマな時にでも調べてみます。
隠蔽なのか? (王子のきつね)
2016-02-09 11:41:47
この事故、遺族が裁判を起こしたというニュースで知りまして、こちらのブログやドクターヘリパイロットさんのブログなどを読ませてもらってます。

それで、気づいたのですが、事故が起きた当日(12/1)と翌日(12/2)は、要救者は「意識がなかった」と報道されていたのが、12/4にサバイバースリングの使用が問題になると、翌日からは「意識があった」と報道されているようなのです。2年前なので、記事の多くが削除されていて、ネットでは調べられないのですが…。

http://kitsunekonkon.blog38.fc2.com/blog-entry-6911.html

意識がないのに、補助ベルトを使わなかったら、消防航空隊の基準違反となってしまうので、意識があったことにして「問題はなかった」ことしたんじゃないのか?って疑問が湧いています。
Unknown (ひよ)
2016-02-09 20:44:07
先日、この事故の話を静岡県の民間の救助隊の方とお話する機会があったのですが、「あれはミスじゃない!」の一点張りでした。
ですがよくよくお話を伺うと事故の概要もよくご存知ではなくて、なんだかよくわかってらっしゃらないようでした。
挙句には、山岳会に問題があるとおっしゃるのですが、勿論、山岳会にも問題はあるでしょうが、それとこの事故をごっちゃにするのは如何なものでしょう?と思いました。
なんだか身内をかばいたいだけ?のお話しだなぁと思いました。それでは遺族は納得出来ないでしょうね。
Unknown (bongo-pete)
2016-02-10 06:26:56
王子のきつね様
リンク先拝見しました。自分の記憶だとかろうじて意識はあるけどヨレヨレみたいなイメージですね。実際はどうだったのか気になります。結局、第三者による調査が無いので、断定しづらいですわ

ひよ様
まあ、感情だけで語れば楽なんですけどね。