豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

奥入瀬渓流落木訴訟の判決が確定

2009年02月06日 | 山ネタ そのほか
奥入瀬渓流の遊歩道で2003年に起きた例の事故ですが、最高裁での判決が出たようです。


1億9300万円賠償確定/奥入瀬渓流落枝訴訟(2009/02/06)
デーリー東北新聞社



これは厳しい判決ですね。私自身、登山道をいじくっている人間ですから、これはちょっとなあ、と思います。


この裁判の影響ですが、判決が出る前から一部で出ています。ウチのブログから引っ張りますが、


登山道の管理責任

八ヶ岳においては登山道上の遭難事故の責任を巡って、南信森林管理署と茅野市、そして山小屋の間で「責任は誰がとるのよ?」と、議論になっているようですし、


登山道の管理責任 その3

雲取山では、整備が必要な場所であっても管轄が違うと一切さわるな!ってなことになっているようです。





遊歩道とか登山道の管理責任を考えるとき、まず問題になるのが、登山道の所有者が誰かということですね。登山道を整備している山小屋は多いですけど、別にそれは山小屋の所有物だから、というわけではありません。多くの登山道や遊歩道が、所有者でもなんでもない誰かによって何となく整備されている、と言っても過言ではないでしょう。

この裁判のケースはまだ国と県だけが被告になっていますけど、普通の登山道だと山小屋が絡んできますから、裁判になった場合、もっと複雑になるかもしれませんね。

例えば、上高地から槍ヶ岳に登るコースですけど、あそこは一応県道らしいです。でも山小屋の人が整備しているわけですし、整備について特に指示があるわけではありません。作業風景を撮影して長野県に送ると多少補助金が出るそうですけど、ただそれだけです。もちろんめちゃくちゃなことをすれば、環境省あたりがダマっていませんが・・・・・・・


また整備がほとんどされずに放置されている登山道や遊歩道はいくらでもあるわけで、そこでたまたま事故があって裁判だ!となったら、行政の担当者もびっくりでしょう。




こうなると、登山道を整備しても、事故が起きてしまったら「整備の仕方が悪い」となり、かといって放置したところで「怠慢だ」となりますから、訴訟を避けようとするなら登山道閉鎖しかないですな。大雪渓コースなんて、裁判のことを考えたらベンガラで赤いラインなんか引いている場合ではないですよ。



最高裁の判決文はまだ読んでいないのですが、1審2審のを読んだ限りですと、注意を観光客に促していないのがまずい、ってな感じです。となると、とりあえずできることは、すべての登山道や遊歩道の入り口にその危険性について数千字の文章を書いた看板を立てて、最後に

「遊歩道に1歩入った時点で、この看板に同意したものと見なします」
とでもちょっと大きな字で書いておく必要があるかもしれません。まあこれは半分冗談ですけど、せめて法律による保護は欲しいところですね。でないと登山道整備があまりにもリスキーな商売になってしまいます。


なお、この件については法律とか裁判の問題であり、個人的には小難しいので、詳しい方がおられましたらコメントプリーズです。




↑この記事が参考になる、面白い!と思ったらクリックしてください。ランキングサイトです。



8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (たぬたぬ)
2009-02-06 11:46:23
なんでも他人のせいにするこの風潮、いかがなものでしょうか。とくにバックカントリーなんて完全自己責任でもいいと思いますがね・・・。

日本の場合、私有地や山小屋の存在とかの関係が、この問題を複雑化していると思いますが、いっそアメリカの国立公園のように、「登山道の整備はすべて環境庁が全責任に置いてやる。そのために予算をつける。人も配置する」ってことがもっとも管理者、利用者、納税者にとってふさわしいと思うんですけどね~

まあ日本じゃ無理でしょうね。
終わってるし、この国。
ジャストタイミング (ばぎ)
2009-02-06 12:50:26
ちょうど国家賠償法の自然物の危険を勉強しました。
自然による被害に関しては①人工物の管理責任②自然物の管理責任があります。

代表的判例として①は国道で落石事故があり 予防や警告をしなかった国が敗訴しました。
公共物は安全に利用できるように管理する義務があると指摘されています。
②は河川の氾濫による訴訟ですが、元来そこにある自然の危険に対しては 責任は問われず国の勝訴となりました。

一旦切ります
続き (ばぎー)
2009-02-06 13:09:49
今回のケースでは完全に①ですね。
事実上の管理者である県は国賠法による公共物の管理責任を問われました。
また 所有者である国には 民法に基づいた賠償ですね。

さて登山道に関してですが、コツコツと多くの登山者により作られ維持されてきた事を踏まえると敗訴のリスクは軽いと思われます。
山小屋なんかの訴訟リスクは民法によるものですね。
敗訴が予想されるケースとしては
・設置したばかりの鎖が抜けて転落
・登山道にハンパ打った杭を踏み抜いてケガ
・道標が間違っているのを放置していて遭難
・道標が風で飛んできてケガ
こんな感じでしょう。

ただ 過去の判例を見ると 登山に関してはかなり登山者の自己責任を重視しています。
よっぽどの手抜き工事や 明らかな危険の放置でないと 敗訴のリスクは少ないと思いますし、敗訴しても過失相殺が期待できると思います。

ただし 訴えるのは自由ですから 訴えられる可能性はありますね。
Unknown (きじばと)
2009-02-06 14:25:40
今回のことは遊歩道で起きたことですが
登山道と遊歩道の区別も明確でないし、
登山道に波及することを恐れます。
登山道では、ばぎーさんのご意見のとおり敗訴することは少ないと思いますが
訴訟を起こされるだけで大きな負担を強いられます。
特に民有地を通る登山道は枝が落ちて登山者が怪我して訴えられるとなると進入禁止する以外手はないでしょう。
影響が大きくならなければいいのですが
Unknown (ばぎー)
2009-02-06 17:39:22
遊歩道か登山道かの違いははっきりしていると思います。
判決文を見てみないとはっきり言えませんが、今回のはそこを遊歩道として整備していた事が大きいのではないかと思います。

登山道といっても 観光客(登山客)を招く為に作ったのなら管理責任があるでしょうが、
以前からある登山道を整備する分には管理責任は生まれないと見られます。

回のケース、国も県も管理担当の部署がありますから、副業やボランティアで整備をやる山小屋やパトロールさんとは立場が違うと思われます。
あくまで公務員と土地所有者の不作為が問われた判決です。

また 訴訟を起こすのは国民の権利ですから それを妨げる事はできません。
山小屋などが訴えられるリスクですが 山で登山客から利益を得ている以上、多少はやむを得ないと思いますよ。

今回の判決をうけ、
「類似のケースで登山客に訴えられるかも」
「勝てる可能性が高いけど、そもそも裁判自体が負担だ」
「訴えられると困る、こんな判決は困る」
というのは違うと思います。
それは訴訟を起こす人への牽制になりかねない論法ですし、
そんな事いちいち気にしてたら登山どころか運転も商売もできませんよ。
こういった事故で訴訟になるのは珍しい事ではないと思いますし。
Unknown (bongo-pete)
2009-02-07 06:32:17
たぬたぬ様

もちろんケガをされた方には同情しますし、私自身としては何らかの形で国家による救済があってもいいと考えています。ただ裁判で訴えられてしまうのはなあ、といったところでしょうか。

で、ばぎ様をちょっと飛ばして
きじばと様

実はガイドやっている時に、巨大な枝がずどーんと行列のど真ん中に落ちてきたことがあります。たまたま誰にも当たらなかったのですが、万が一アレで事故ってしまい、裁判になったらどうすんべ、と考えたことがあります。

勝ち負けはともかく、裁判費用が無いなあ、と、マジで考え込みました。
Unknown (bongop-pete)
2009-02-07 06:32:51
詳細な解説ありがとうございます。

ただ、多くの山関係者とか行政の担当者にとって、裁判ってのは忌避すべきものですし、勝ち負けなんてわかりませんから、メンドウ臭くなって遊歩道閉鎖、なんて動きが出てくるかもしれません。

この最高裁判決を知ったのは関係者からのメールでして、やはり彼も「どうなっちゃうの?」と心配していました。

記事本文でも触れましたように、この事故を知った行政関係者が、登山道や遊歩道整備に対して萎縮してしまうのは避けられないでしょうね。判例が多くあって「これは○、これは×」ってのが多くの人に理解されてくればいいんでしょうけど、今のままでは法律をよく知らない私のような人では、ちと怖いと思います。
Unknown (ばぎー)
2009-02-07 14:31:00
そうですねぇ
一応 裁判の前には示談があり 次に裁判所による調停とか和解がもたれるみたいですが そこでまとまらなかったら訴訟になるみたいですよ。

登山道の閉鎖とかは良いかもしれないと思います。
管理者が不安になるような道は、自己責任で本当に入りたい、入れる人が入れば良いかもな と

まあツアーなら保険に入ってますからねぇ 裁判になる前に保険屋が頑張るでしょう
そういえば、私らは賠償責任保険もかけてますね