離島で働いてわかった「できること、できないこと」──テック記者が実験!

五島列島での仕事の様子

東京から約1240kmも離れ、大自然広がる五島列島で仕事をしてみた。

撮影:濱名栄作

普段取材をしているITツールの数々は、東京から約1240km離れた五島列島でも役に立つのか。

自分が、5月7日〜6月7日の4週間にわたりBusiness Insider Japanが開催した長崎県・五島列島で第2回リモートワーク実証実験に参加した理由は、それを知りたかったからだ。

筆者はテック系記者で、よく海外の発表会や展示会などにおもむき現地で記事を書いているが、結局は会場のプレスルームなど、環境のある程度整った場所で原稿を書くことが多い。

仕事の様子

五島に限らず、筆者は場所を選ばず仕事をしているが……。

そのため「外で仕事をする」ということに対し、そこまで大きなハードルは感じていなかった。とはいえ、通常業務を外で腰をすえて行おうと思ったことはなかった。また、自分は記者という仕事しか経験したことがないため、他の業種の人にとってリモートワークにどんな課題があるのか知りたいという気持ちがあった。

そんなわけで、実証実験期間中の5月13日から18日までの5泊6日、デザイナーの妻と一緒に五島列島・福江島に滞在。自らの実感と参加者の方の一部から聞いた感想を元に、「東京から離れても仕事ができるのか」を考えてみた。

ネット接続やITツールなど、リモートワークに必要な環境とは

ルーター

とりあえず、ネットワーク環境がないと何もできない。

仕事とひと言に言えどその内容はいろいろある。今回、具体的に検証できたシチュエーションは以下のとおりだ。

  • 東京にある編集部で行われる会議に出席
  • 東京で開催される発表会を取材し、記事を書く
  • 外部ライターさんからの原稿を受け取り、編集する

この3項目に共通して必要な環境は、インターネットの接続環境とコミュニケーション手段だ。今回の実証実験では以下の3社のテクニカルスポンサーの協力もあり、クリアーできた。

  • NTTドコモ(九州支社):モバイルWi-Fiルーターによる各拠点でのネットワーク環境を提供
  • Slack:実証実験の参加者や運営・編集部メンバーのコミュニケーションを行なうため、有償プランを提供
  • ロジクール:ビデオ会議に利用できるWebカメラやマイクなどの機材の提供(参加者のみ)

スピードテスト

参加者が宿泊した富江エリアのバンガローで計測したスピードテストの結果。参加者いわく、「GB単位のデータのやりとりがなければ快適」とのことで、実際ネットでの調べ物やテキストなどのアップロード作業、ビデオ会議などに支障はなかった。

個人的にはとくに、福江島のインターネット環境については、おおいに憂慮していた。Slackでコミュニケーションをとるにせよ、ロジクールの機材でビデオ会議をするにせよ、インターネットにつながらない、つながりにくいようならば、本末転倒だ。

実際、現地で速度計測を行ってみたが、自前のNTTドコモ契約のSIMカードを入れたスマートフォン「Pixel 3」では、下り上りともにだいたい25〜10Mbps程度といった結果だった。

エリア的には、人が住んでいる街中は通信事業者3社ともきちんとLTEのエリア化が行われており、問題なし。逆に、人が住んでいないような秘境と言えるようなエリアは、3Gも含めて圏外だったが、さすがにそのような場所で仕事をしようという人はいないだろうから、実質問題ないと言える。

東京とのコミュニケーションはとくに問題ナシ

Slack

五島と東京を主につないだのはインターネットとSlackだった。

リモートワークの代表格と言えば、やはり遠隔地(五島目線で言えば東京などの都市部)とのコミュニケーション業務だ。筆者は、五島から東京への会議を2回、東京から五島につなげた会議を2回、経験したが、とくに問題なく業務を完遂できた。

会議自体は、Slack標準の「Slackコール」やグーグルの「ハングアウト」「Zoom」などを利用。遅延はやや感じたものの、致命的と言えるほどではなく、LINEの無料通話などのIP電話に慣れている人であれば問題ない程度だ。

機材という意味では、やはりロジクール提供の「C922n」や自前のヘッドホンを利用した方が快適だった。カメラはPCやスマートフォンの標準のものでも十分こと足りるが、マイクについてはやはり別途用意した方がまわりのノイズも入りづらく、五島・東京双方の会議参加者にとってメリットがある。

henkou

遠隔環境で会議に参加してみたが、とくに問題はなかった。あと、できれば音声通話よりビデオ通話の方が相手の表情や反応も、視覚的に認識できて便利。

また、遠隔地とのコミュニケーションを円滑にするためには、日常的にリアルタイムのコミュニケーションをとっておくことも大事だと感じた。

前述のとおり、今回の実証実験ではSlackを導入しているが、そこでは常に参加者同士や運営、協力してくださる五島市役所や住民の方々とつながっていた。

自分のステータスや現場の状況を常に伝えられるコラボレーションハブの存在によって、会議のたびにお互いの状況を改めて伝える必要がなくなり、物理的に離れた都心と五島の距離をグッと縮めてくれたように思える。

記者仕事は「現場じゃないとできないこと」以外はできる

作業風景

メインの仕事場としていた福江にあるセレンディップホテル五島の1F。

取材をする記者の仕事は、リモートワークではなかなか困難を極めた。自分が五島滞在中の間には、東京でKDDIとNTTドコモの新製品発表会、LINE Payの新キャンペーン発表会などがあったが、当然残念ながら出席できなかった。

発表会に行けない、ということは、まず登壇者への直接的な質問ができない。製品など物理的なものがある場合、試して仕様や動作を確認できない。それに、そもそも写真や動画など伝えるための素材がつくれない。これらは記者にとってはなかなか致命的だ。

ストリーミング

LINE Payの300億円キャンペーンの発表会は、ストリーミングで見ていた。

しかし、自分は記者であり編集者である。実際の取材は編集部のメンバーや外部のライターさんにお願いをして、記事を載せることができた。とくに、前述の3つの企業の発表会はどれもYouTube LiveやLINE LIVEなどでリアルタイム配信が行われていたため、発表会の状況などは確認可能だった。

また、発表会での疑問点は音声通話や各種チャットツールを利用することで広報に確認できたので、時差がある海外に比べて国内では意外と取材しやすいと感じた。

したがって、記者にとってリモートワークで東京と完全に同じ仕事をすることは難しいが、社内外の協力や準備、その取材先の性質によっては全くできないというわけでもない、といった印象だ。

課題は「方法」ではなく「心情」や「評価基準」か

参加者の作業風景

仕事の内容にもよるが、現代ではインターネットと電源、机、椅子があればある程度できる場合がある。

では、記者以外の仕事はどうか。期間中に共に行動した参加者であるスタートアップ企業の役員の男性と、大手IT企業でコンテンツ制作を行っている男性に話を聞いてみた。

2名とも普段から出張が多く、遠隔で仕事をすること自体には慣れていたようで、とくに五島特有の理由で不便に思ったことはなかったようだ。むしろ離島という場所でありながら、電源やWi-Fiなどの設備面、プロジェクト特有のSlackや機材などの充実さに感心している様子もあった。

ただ、一方で2人とも疑問を呈した点もあった。

開放的な五島

豊かな自然が広がる五島。何のために訪れるのか、個人や会社単位の目標設定が大事だ。

コンテンツ制作を担当している男性は「東京にいるときよりパフォーマンスが落ちている」と話す。これは例えば、普段なら残業をしてでも終わらせようと思う場面で、リモートワーク先では「まあ、明日やろう」と考えてしまうようなことだ。もちろん明日でも間に合うことであればそれでもいいが、普段から仕事に情熱を傾けている人にとっては少しフラストレーションが溜まるきっかけになる。

また、役員の男性は「個人として効率は上がっているかもしれないが、チームや会社単位ではわからない」と役職特有の課題点を挙げていた。いくらインターネットのツールで議論ができるとはいえ、対面の方が細かいニュアンスなどが伝わることもある。会議後にカンタンに相談したいことがある場合など、同じ場所にいれば少し相手を呼び止めることもできるが、終話ボタンを押せばすぐに切断されてしまうビデオ会議などでは、その1歩は踏み出しづらい。

個々の業務内容や考え方、感じ方次第で「リモートワーク」や「ワーケーション」という働き方の向き不向きは違うようだ。それでも、インターネット環境とSlackなどのツールによって、工夫できる幅が広がってきていることだけは間違いない。

(文、撮影・小林優多郎)

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