大阪 難波「自由軒」ご飯とカレーが〝あんじょうまむされ〟た至極のカレー【料理解析・旅情編2】
前回、食い気のためだけに大阪に来た我々ですが、
「わざわざ来たんだからもっと色々食べたいよね」と私。
「確かにそうね」と妻。
「我々は夫婦だよね?」
「そうね」
「『夫婦善哉』って小説知ってる?」
「いいえ」
「織田作之助という人が大阪を舞台に書いた短編小説で、そこで紹介されてる有名なカレー店があるんだよね」
「ようするに、食べに行きたいのね」
「……はい」
ということで、難波にある洋食の「自由軒」さんへ。
明治43年創業の老舗で、大阪で特徴的なカレーと言えばここで出される「名物カレー」とのウワサを聞きつけてやって来ました。
万全を期して開店前に来店したのですが、もうかなりの人が並んでいます。
さあ開店です!
席に着いてメニューを色々と吟味。店内もレトロでなかなか良い雰囲気です。
ここの「名物カレー」はあらかじめご飯とカレーが混ぜてあり、その上に生卵がパカリとかけてあるという、ちょっと変わったもの。
ちなみに、大阪のカレーといえば基本ビーフカレーで、生卵をのせることもよくあるそうですが、この「カレーに生卵をのせる」という習慣を広めたのが「自由軒」だという話もあります。
食べ方も「織田作(織田作之助の愛称)好みの」と小さく書かれつつ、店オリジナルの〝四代目ウスターソース〟をかけ、生卵とご飯をよくかき混ぜるというのがおススメ。
さっそく注文し、待つことしばし……
やって来ました「名物カレー」(680円)!
コレが織田作が愛したカレー。『夫婦善哉』の主人公蝶子と柳吉夫婦が食べ、柳吉曰く「自由軒のラ、ラ、ライスカレーはご飯にあんじょうま、ま、ま、まむしてあるよって、うまい」(『夫婦善哉』織田作之助著、青空文庫より)と語らせています。
早速、〝まむして〟いただきます!
(あ、ソースをかけるのと生卵を混ぜる順番を間違えましたが、まあ良いでしょう)
「うまい!」
東京人のクセに思わず〝う〟にアクセントが付いてしまうぐらい美味しい。
味そのものが文明開化と形容すれば良いでしょうか、モダンな味。今まで食べたことのないオリジナルなカレーなのに、何処か懐かしいのです。
具材は牛肉と玉ネギのみ。トマトピューレを使ったソースに牛スジのブイヨンを合わせたカレー、そしてフライパンで炒め混ぜる時に「うすくち」という店独自の秘伝の出汁を合わせると名物カレーが出来上がるそうです。
カレーそのものは意外にスパイシーですが、ご飯と卵の甘さとウスターソースの酸味が混ざることで、なんとも良いバランスに。
大阪の人には身近すぎて大げさな表現に感じるかもしれませんが、この「名物カレー」は、たこ焼きやお好み焼き等と同じ地平にある食べ物と言って良いのではないかと。
ヨソの我々からすると新鮮な味なのでした。
若女将に聞く「名物カレー」の話
自由軒の名物カレー誕生秘話を、若女将の吉田純子さんに直接お聞きしたところ、
「その当時(明治の創業時)はご飯を保温できる炊飯器なんて無かったわけですんでね、なのでお客さんにアツアツのカレーをいただいてもらいたくって、アツアツのカレーとご飯を混ぜることで、温かいのをお客さんに食べていただけると、初代の吉田四一(しいち)が開発したわけなんです。
当時としては高級品だったウスターソースをかけていただいてもらうのと、それからやはり高級品だった生卵をかけて、それでもお値段をお安くしてお出しして大評判になったわけです。
そしたら作家の織田作さんにご贔屓にしてもらって、それで『夫婦善哉』に書いて下さったりしたわけなんです」
当時のお店は戦災で消失してしまったが、また同じ場所で再建したそうだ。
余談だが「名物カレー」以外に「別カレー」(650円)というメニューもあって、
コレもうまいのだが、
「あの、別カレーってありますがあれって」とお聞きしたところ、
あ、あれはね、名物カレーはカレーとご飯を混ぜてありますけれども、カレーとご飯を別にお出ししているので『別カレー』と
あ、やっぱり。
でも名物カレーと別カレーは、作り方も味も全く違うものです
とのこと。
名物カレーほどの目立った特徴はないが、例えば他の無名の店で出されていたとしても「あそこのカレーはうまい」と評判になるような味でした。
家で「名物カレー」を作る
やっぱり家でも食べたいですよね。
で、買って来ちゃいました。
「名物カレー 徳用3食パック」(レトルト)、「四代目ウスターソース」、それからちょっと興味があったので「自由軒 万能カレーソース」。
レトルトの3食パックは自由軒本店のレジにて購入。ウスターソースと万能カレーソースは「なんばグランド花月」の売店で購入。
レトルト名物カレーはパック入りのカレーをお湯で温めるのではなく、フライパンで温めながらご飯と混ぜて完成。
ここで若女将からお聞きした裏技があります。
若女将によるとレトルトのカレーは具が煮込まれていて、溶け込んでしまっているので、玉ネギと牛肉を細かく刻んで、あらかじめご飯と炒めてからレトルトのカレーと混ぜると、よりお店の味に近くなって美味しいとのこと。
材料は1人前でご飯約250g、牛切り落し50g、玉ネギ1/4個、生卵1個、油大さじ1、レトルト名物カレー1袋。
- 玉ネギと牛肉を細かく刻んで
- 油を引いたフライパンで炒め
- ご飯も一緒に炒めてレトルトパックのカレーを投入し
- よく混ぜてからお皿に盛り
- 生卵をのせて出来上がり!
で、ソースをかけて混ぜていただく。
「うん、うまい!」
若女将の言う通り、ひと手間で倍以上の美味しさです。
家庭の大阪風カレー誕生
若女将に教わった作り方で食べてみてふと思ったのですが、コレはかなり独特で特色のあるカレーの食べ方。
名物カレーとは別に、家で普通に作るビーフカレーでもこの食べ方で食べればとても美味しいのではないか。
そしてそれはまさに「家庭で食べる大阪風カレー」なのではないかと。
作ってから最初に食べるカレーは普通に食べるとして、2日目にこの方式で食べるとどうだろうか? とても良いのではないだろうか。
さっそく、試してみます。
まずは普通に市販のカレールーでビーフカレーを作ります。牛肉以外の具はお好みで。今回は小さめにカットしました。
そして、2日目に名物カレーの時と同様の食べ方をしてみます。
見た目は名物カレーと比べて地味ですが……
家庭で食べる大阪風カレーの完成です!
あんじょうまむしていただきます!
コレの場合、後から炒めた牛肉とは別に、ゴロっとした肉も入っていたりします。
そして……
完食!
うまい!
本家「名物カレー」と比べちゃダメですが、家庭らしいホッとする、そしてどこか懐かしい味。しかも新しい食べ方。これはもう「大阪風カレーの食べ方」と宣言してしまって良いと思うのであります。
まさに新しいカレーの食べ方が誕生した瞬間です。
「そんなのとっくの昔に私がやってる」と、おっしゃる方もいるでしょう。
しかし、私たちはとにかくいま感動に打ち震えているのであります!
そして今回は「料理解析」とかいって、まるっきり自由軒の若女将に教わった作り方になってしまいかたなしですが、仕方ありません。それに「自由軒の若女将直伝」というのも良いではありませんか。
大阪のお母さんには勝てないのであります。
ちなみに一緒に買った「自由軒 万能カレーソース」は、ソーセージ等を炒める時に、これをサッと入れて絡めると手軽で抜群に美味しいです。
お店情報
自由軒 難波本店
住所:大阪府大阪市中央区難波3-1-34
電話番号:06-6631-5564
営業時間:11:30~21:00
定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)
ウェブサイト:https://www.hotpepper.jp/strJ000109353/